眠り姫と王子様
・・・・・・・・・なんだろう・・・もう一生分を過ごした気分になるのは・・・・・・・・・・
「!!?シェリル!!」
「あぁ・・・シェリル・・・・・・良かった・・・・・・やっと起きてくれたね・・・・・・」
ゆっくりと瞼を開き、ぼんやりと夢の中の出来事を思い返していると、感極まった声で私の名を呼ぶ両親がすぐ傍に居て、あぁ・・・そう言えば・・・・・・と、こういう状況に陥った経緯を思いだし、思わず苦笑を浮かべた。
「・・・・・・パパ・・・・・・ママ・・・・・・」
「・・・気分はどうだい?寝坊助さん?」
倒れる前までには無かったはずの目元の隈。私以上に窶れ、疲労の色が濃いお父様は、それでもいつもと変わらない、穏やかで優しい笑顔を私に向けてくれる。そう・・・あの時も――――――
「っ・・・・・・うん。だいじょうぶ・・・・・・わたし・・・どれくらいねむってたの?」
息をするように簡単に浮かび上がってくる、前生までの記憶たち。もうそれらを思い浮かべても頭に痛みは襲ってこないけれど、あまり気分の良い物でもないので、かき消すように淡く微笑めば、お父様もお母様も安堵の息を吐いた。
「そうだねぇ・・・あれから何日経ったっけ?」
「そんなもの最初から数えてませんわ。・・・シェリルが目を覚まさない日々なんて、私達にとっては地獄のようなものでしたもの。日数にして表されたら気が狂ってしまいますわ。」
相変わらず強かで逞しいお母様の言葉は、それとは真逆で弱々しく涙を薄らと浮かべた表情でその威力を半減させてしまっているけれども、解ったのは、いつもは飄々と、何事にも動じない両親が感情を抑えきれないくらい心配させてしまった程眠っていたということなのだろう。・・・不可抗力で不本意ではあるけれど、取り敢えず「・・・しんぱいさせてごめんなさい・・・・・・」と謝ると、不意に体にむぎゅっと温かい圧力がかかる。
「貴女が、謝ることはないのよ、シェリル・・・・・・こうして、目を覚ましてくれて、ちゃんと私達の所に戻ってきてくれたんですもの。それで充分なのよ・・・・・・」
「・・・ママ・・・・・・」
「そうだよ、シェリル。寧ろ謝らなければならないのはパパ達だよ。・・・やっぱりあの時即決で断っておけば、シェリルを危険な目に合わせずに済んだんだ・・・」
だから、ごめんよシェリル・・・不甲斐ないパパでごめん・・・と謝るお父様に私は小さい頭を大きく横に振って、謝らなくていいよと合図する。
確かに、王城に来なければ、アレクに会わなければ、私はそれまでの記憶の継承をせずに過ごせていたかもしれない。でも、それは時間の問題だったとも言える。何せ私は信じられないことに過去12回シェリーフルールとして生きている。思い出も沢山あるし、地雷も当然王子様だけではない。今回は直前の12回目の記憶が色濃く残る場所だったが為で、諸外国にそれぞれあるリヴィエール家の別宅やアルジャンテ王国の本邸にも、実は地雷は多くある。・・・個人的に言えば、5歳という割と早い段階で記憶を継承できたのは幸運だと思う。だって、いろいろと打つ手が多くなるもの。多少の肉体的苦痛なんて安いもの・・・・・・うん、でもやっぱり痛いのや苦しいのは嫌だな・・・・・・
「・・・・・・そうだ、ブリジット達呼んでこないと・・・・・・」
「そうね、私もアルに報告してくるわ。・・・・・・シェリル、パパとママ、ちょっと出てくるけれど、辛かったら眠っていてもいいですからね?」
「うん。いってらっしゃい、パパ、ママ。」
そういえば静かだなぁとは思っていたけれど、部屋には私たち家族しか居なかったのね・・・と、辺りを見回せば、テラスの外にきらりと光る蒼銀が目に付いた。・・・人払いされていた所を見ると私は相当危険な状態に見えていたのかもしれない。私の感覚としては凄く良く寝た(おかげで悪夢もたくさん見ました。)なぁ・・・位なのだけれど。眠っている間の記憶も『導の石版』が記録してくれていればいいのだけれど、基本、私に取り込まれた『導の石版』は私が見たものを記録するようになっているらしく、目を閉じている時間・・・つまり眠っていたり意識を失っている時間は記録が停止するとの事。・・・全てを記録するには魔導力が圧倒的に足りないのだそうだ。(『魂の記憶』も、その辺りの事はあまり良く解っていないらしい・・・)
取り敢えず部屋を出ていく二人を見送れば、そのテラスの外へと再び視線を戻して、すぅっと、息を吸い込んだ。
「・・・・・・いつまでそんなところでいるつもりなの?」
『!!?』
ちょっとだけ声を張り上げ、呼びかければ、小さな蒼銀はびくっと面白いほどの反応を見せると、恐る恐るその姿をしっかりと現した。そんな怯えた表情をしなくても、別に取って喰ったりしませんのに・・・と、内心苦笑しつつもちょいちょいと、手招きをしてみる。そんな私にアレクは複雑そうな表情をしながらも部屋へと入ってきた。
「・・・・・・やみあがりなんだから、そんなおおごえだしちゃだめだろう、シェリル?」
「こうでもしないとアレク、こっちにきてくれなかったでしょう?」
心配半分、不安半分と言った表情のアレクに苦笑を浮かべれば、彼は迷うことなく私のすぐ傍までやってきて、その小さな手でそっと、私の頬を撫でた。
・・・・・・そう、アレクのこの仕草は・・・・・・
「・・・なぁに?さみしかったの?」
「・・・・・・・っ・・・・・・やっぱり、おもいだして・・・・・・」
「・・・だいすきだったアレクのことだもの・・・ちゃんと、おぼえているわ。」
その小さな手に重ねるように私の手を乗せれば、途端にアレクは泣き出しそうな表情を浮かべた後「・・・ごめんね、シェリル・・・」と呟いた。
「・・・なににたいしてのしゃざい?」
「なにって・・・・・・おもいだしたのならわかるだろう?・・・ぼくが、きみにしたこと・・・・・・」
「・・・・・・30てん。」
「・・・え?」
「そのこたえだと30てん。・・・そもそも、わたし、アレクにあやまってほしいわけじゃないもの。あれは・・・さけようがないことだったんだもの。」
12回目のアレクではあの善意の塊の誘惑に抗えなかったのは仕方がないことだと、私は充分理解している。当時の私はアレクを甘やかせる立場ではなく、アレクが望むものをちゃんと与えてあげられなかったのだから。その結果、私たちにできた隙間を上手く埋めていったのが彼女なのだから、ある意味自業自得な部分も多い。だから今更、それについて謝られても私にとってはまぁ・・・少ししか響かない。そもそも、謝る相手は私ではなく、あの時間を生きていた民たちにこそ向けられるべきなのだから。
「・・・・・・じゃあ、ぼくはどうやってきみにつぐなえばいい?」
それでも、根は正直で心優しいこの王子様は、謝罪は不要だと言った私の言葉を正しく読み取った(今の私のとっては過去のことだし、そもそも痛み分け状態ですし、何より、私よりも先に前生を思い出していたのだろう、アレクは最初から私に向き合ってくれていたので、『魂の記憶』には「甘い!」と怒られそうだけれど、私は既に彼のことを許しているのだ。)のだろう、アレクはより情けない顔で私を見つめてきた。
「つぐなうひつようはないわ。・・・あぁ・・・でも・・・・・・」
「・・・でも?」
「わたしを、こんやくしゃにはしないでね?」
「!!?」
にっこりと言い放った私とは対照的に、アレクは絶望的な表情を浮かべ絶句した。・・・あれ?私、間違ったことは言ってないよね??
「・・・・・・や・・・やっぱりぼくのこと・・・きらいになっちゃった??」
「え?ううん、きらいじゃないし、すきなぶるいだけど・・・」
「じゃあなんで!?」
「なんでって・・・・・そもそも、いまのせいがぜんせいのくりかえしになるのなら、いずれあのことであうことになるのよ?・・・いやなのよ、わたし。あのことかかわるの。でもアレクはきっとかかわらなければならないたちばになってくるでしょう?だから・・・・・・」
「そんなの!ぼくがかかわらせないようにするから!!だからっ・・・おねがいだから、ぼくからはなれないで・・・そばにいてよ、シェリル・・・・・・」
縋るように、額を合わせてくるアレクにどきりとしつつも、『魂の記憶』に言われた『きらきらした人物には近づくべからず!!』の掟が頭を過る。ど・・・どうしよう・・・・・・・こういうときってどうすればいいんだっけ??
「あ・・・あの・・・アレク??その・・・こんやくしゃは、むりだけど・・・・・とりあえず・・・」
「とりあえず?」
「と・・・・・・ともだちから、はじめましょう!」
・・・なぁに、これ・・・・・・シリアスさんがログアウトしました。どうしてこうなったし・・・・・orz