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懺悔と祈り

王子様視点です。



「おねがい・・・・・・やだ・・・・・・・いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」





急に頭を抑え、苦しみだしたシェリルに、僕の全てが凍りつく。





僕たちの暮らす世界には旧時代の遺産(アーティファクト)と呼ばれる魔道具が残されている。その名の通り、魔導の力で動く器具ではあるのだが、残念な事に、魔導術自体が今の時代では失われてしまっているので実質その力を利用することは出来ず、主に観賞用や持っているだけで箔が付くというだけの代物になってしまっている。けれど・・・実は現代でも使用できる旧時代の遺産(アーティファクト)は少なからず存在している。そう、【逆回転の時計】もその一つだ。



【旧時代】に於いて【神にも等しい魔導士】と謳われた【パルティミア・イデア】が作製した魔導具は、神の怒りに触れ、一度世界が滅んでしまった後も朽ちる事なくその姿を留め、使用者(あるじ)がその力を解放させるその時まで永い眠りについていたのだ。勿論、本来ならば魔力と呼ばれる、魔導に一番必要な力を糧にして動かすのが正しい使い方ではあるものの、旧時代の終焉の際、神は世界を満たしていた魔力を根刮ぎ奪い、二度と人間が神の領分を侵さないようにしたため、現代では使用することは不可能・・・のはずだった。けれど、それを見越していたのだろうか、パルティミア・イデアの魔道具たちの糧は使用者の願望や生命力(物によってはそれ以外のものも含む)で動かすことが可能だった。だから、あの時、僕は【逆回転の時計】を動かし、もう一度過去からのやり直しを願ったのだけれど・・・・・・【逆回転の時計(かのじょ)】はその大きな仕掛けを動かすために僕だけの力では足りず、遡る分だけの世界の歴史を糧に、ここまで時を戻してくれたはずなのだ。その際、使用者である僕の記憶は残して、他の人々の記憶は綺麗さっぱり【逆回転の時計】が喰らい尽くしていなければならないはずなのに・・・





・・・一番、前回の記憶を忘れていて欲しいシェリルが・・・記憶を取り戻しかけている・・・・・・?でも、それは有り得ないことじゃないのか?だって【逆回転の時計(かのじょ)】との契約は・・・・・・・・??






そう自問自答している間に、シェリルが発した一言で、その答えが正しいのだと思い知らされる。





「・・・・わるいのは・・・いつだってうまくたちまわれない・・・わたしなのだから―――――――」





まだ数年しか生きていない少女が、けれどそれ以上を生きていたような、何処か遠い目をして呟いたその重みのある一言に僕の心は打ちのめされる。





―――――違う、ちがうよ、シェリル・・・悪いのは何時だって君じゃない。楽な方に逃げた僕なんだ・・・・・・




ざわざわと、周りがざわつく中、僕はその場から一歩も動けず、ただ、大人達によって城内へと運ばれていくシェリルを呆然と見つめることしか出来なかった。






































旧時代の遺産(アーティファクト)の一つ、我がアルジャンテ王国の宝物庫に鎮座していた【逆回転の時計】を僕が起動させる以前の話をしよう。






あの頃の僕は、腐敗した貴族社会の中でも凛と、民たちの意に寄り添う賢王と名高き父と、それを支える優しい母の血を引いているはずなのに今ひとつ、彼らに近づけるような才能を持たず、彼らから将来的に全てを引き継ぐことになる、という事実に酷く重圧を感じ辟易するような卑屈な人間だった。




勉学も剣術も・・・努力していてもいつも父の幼い頃と比べられ、教師陣は揃って僕の出来に溜息を吐くばかりだった。・・・今思えば、あの頃の僕は努力しているフリ(・・)をしていただけで、本当に努力していたわけではなかったのだ。それを彼らは見抜いていたのだろう。甘えたい年頃ではあっても、僕は一国を担う存在。心を鬼にしてでも伝えたいことが彼らにはあったのだ。それに気づけず、僕はただただ甘ったれた考えで、どうしてこんなにも頑張ってるのに誰も褒めてくれないんだと、悲劇の主人公を気取って、僕に擦り寄ってくる腐りきった貴族連中の甘い言葉に溺れていったのだ。




そんな僕を危惧したのだろう、両親が用意したのが婚約者という、僕の傍で常に道を正そうとする存在だった。それが・・・シェリル・・・シェリーフルール・ドゥ・リヴィエール公爵令嬢だった。




当時の彼女との最初の顔合わせは今日みたいなガーデンパーティではなく、城内の謁見の間での仰々しい対面だったのだけれど、僕はシェリルの凛とした空気と真っ直ぐな曇りのない瞳に間違いなく心を奪われたのだ。


自由奔放、無責任に国外で過ごす時間が多いと揶揄される事の多いリヴィエール公爵家ではあるが、その実、諸外国の事情に精通し多方面から様々な問題点と改善点を淀みなく答えていくシェリルの知識には純粋に驚かされたのと同時に、彼女が傍に居れば僕は父をも超える王になれるのだと、希望を見出したりもしていた。・・・本当に、当時の自分に会うことが可能ならば、そんな甘えた考えは今すぐ捨て去ってしまえと、殴り飛ばしたくなるが、悲しいかな、当時の僕は自分を磨く努力よりも自分よりも優秀な婚約者や側近たちに支えられる事を当然としてしまっていたのだ。




そんな僕をシェリルはずっと気にかけ、他人に頼るのも大事だけれど一番大切なのは自分自身が見て考え、判断することだと、事あるごとに言い聞かせてくれていた。けれど、肝心の僕はそんな彼女の言葉にすら耳を貸さず、年を重ねるごとに彼女の言葉を鬱陶しく思うようになっていたのだ。そして――――――




僕の転機は15歳の時、王立学院へ入学した事だ。そこで僕は・・・・・・シェリル以上に熱を上げることになった一人の少女と出会ったのだ。




彼女の名前はアンジェリーヌ・フォルティア。黄金色の波打つ長い髪と空色の瞳を持つ彼女はある意味『善意の塊』のような存在だった。




在学時代は不思議なことに、様々な出来事が次から次へと巻き起こり僕を酷く悩ませたのだが、シェリルは僕の側でその出来事に王子として真正面から立ち向かうことを勧め、アンジェリーヌは王子とは言えすべてを抱え込む必要はなく、対処できる人間に任せ、僕は王子として堂々としていれば良いのだと、僕を甘やかしたのだ。当然甘ったれな僕はシェリルの言葉よりもアンジェリーヌの言葉を聞き入れるようになり、その結果、僕は最後まで手を差し伸べ続けてくれていたシェリルの、その細く華奢な手を振り払い、彼女の気高い心までをも傷付け、最悪な形で捨ててしまったのだ。





―――――――学院卒業間近に開催された、僕の誕生祝いのガーデンパーティ・・・噎せ返りそうになるほどの薔薇の花に囲まれた中で、僕がエスコートし集まった貴族たちにお披露目をしたのはシェリルではなく―――――――アンジェリーヌ。




その様子を少し離れた所で眺めるシェリルの、傷つき、泣き出しそうになりながらも、決して狼狽える事なく、凛とした視線に、僕の心は酷く揺れた。これで本当に良いのかと、自問自答もしたけれど、廻り出した歯車はそう簡単には止めることができず、シェリルは、あの日を境に僕の前から姿を消した。そして、リヴィエール公爵家も、アルジャンテ王国から消え去った。




結果を言えば、僕はアンジェの手を取ったことで愚王と化したのだ。彼女の甘言に溺れ、腐敗した貴族に、より強力な力を与え、民たちを苦しめた。そして・・・・・・積もりに積もった民たちの不満や怒りは爆発し、国を捨て去ったリヴィエール家の先導の元、大きな革命が起き、その中で僕は漸く気づいたのだ。




本当に手を取るべきだったのは、アンジェではなく、シェリルだったのだと。甘い言葉に踊らされるだけの自分はただの道化でしかなかったのだと・・・・・・




そんな事にならなければ気づく事ができなかった僕は本当に愚かとしか言い様がないけれど、そう、そんな愚かな僕も・・・今の僕を作る一つになっているのだから何とも複雑な気分になる。・・・それでも、あの頃の間違いはもう、絶対にしない・・・するわけにはいかない。




だから僕は、幼い頃から御伽噺のように聞かされた、城の宝物庫の大時計に願いを託したのだ。





―――――その大時計は、使用者の願いと命を糧に、通常の時計とは正反対の時間(とき)を刻む。即ち過去へと戻ることが可能なのだ―――――――――





真偽の程は定かではなかったのだが、それでもあの頃の僕はそれに縋るより他はなかった。・・・一刻も早く過去へと戻り、もう二度とシェリルの手を離さないと・・・その為の努力は惜しまないと・・・・・・




その願いに、【逆回転の時計】は応えてくれた。だから、()があるのに・・・・・・。









慌しい気配が去った後、庭園に取り残されていた僕はゆっくりと息を吐きだした。





「ぼくは・・・・・・けっきょくぼくは、シェリルをくるしめるだけのそんざいなのかな・・・?」




『うーん・・・今回のは不可抗力ですよ、ご主人様(アレクさま)。』





ポツリと呟いた僕に、愛らしい声がそれを否定してくる。ゆっくりと、声の方へと振り向けば、行儀悪くテーブルに腰掛けた、幾何学模様のワンピースに動かない幾つかの時計をアクセサリーの様に巻きつけた少女が苦笑しながら僕を見つめていた。




「【パンドラ】・・・・・・ずっとみてたのかい?」




『うん。ご主人様(アレクさま)の願いを見届けるのもボクの役目だもの。それに・・・今生(・・)のシェリーフルールさまはちょっと特殊みたい。』




よっと、と、身軽にテーブルから降り立った彼女こそパルティミア・イデアの作品の一つである【逆回転の時計】そのもので、前の僕の願いと生命、更にそれまで刻んだ世界の歴史を糧に人型をも手に入れた彼女(パンドラ)は『懐かしい気配がすると思ってたんだ。』と呟くと、僕の目の前で立ち止まるととんとんと自分の胸を指で叩いた。





『彼女、心臓(ここ)お母様(パルティミア)子供達(まどうぐ)の一つである『導の石版(デバイス)』が埋め込まれてる。』




「!!?」




『恐らく前の時間の何処かで飲み込んだものがそのまま体内に残ってたんじゃないかなぁ?『導の石版(アレ)』大きさはピンキリで、一番小さいのだとショコラの欠片程度だからねぇ・・・』




小さい子なら間違って飲み込んじゃうこともあるかもだけど、そもそも量産型とは言えお母様(パルティミア)子供達(まどうぐ)を子供の手の届く所に置いておくとか、管理体制どうなのよって思わなくもないけど・・・と首を傾げたパンドラはすぐに『あぁ、話逸れちゃったね。』と言うと真剣な表情を浮かべた。




お母様(パルティミア)制作の『導の石版(デバイス)』は全ての事象を記録する魔導具なんだ。何時、それが起動したのかは分らないけれど、少なくとも前の時代の記憶は間違いなく刻み込まれてる。それを消すことはボクには不可能なんだ。』




あくまでボクが出来る事は時間を戻すことによるそれまでの歴史の抹消。でも、ボクが時間を抹消するに至ったその歴史を『導の石版(デバイス)』が記録している以上、全てを消し去ることができなくなった、という事。




『同じように起動している『導の石版(デバイス)』が存在しているなら、今世が繰り返しの時間であると知られてしまうって事だよ。・・・まぁ、本来の起動方法は魔導石に読み込ませるって方法だから、シェリーフルールさまの物以外は起動してないとは思うけれど・・・・・・』




「・・・それって・・・つまり、シェリルもきゅうじだいのいさん(アーティファクト)をきどうさせてるってことだよね?パンドラみたいなそんざいがそばにいるってこと?」




『ううん、『導の石版(アレ)』は量産型だから人型プログラムは付けられてないよ。だけど、記憶容量は物凄く大きくて下手したら旧時代から現在進行形で記憶中っていうのも有りうるかもしれないねぇ。』




シェリーフルールさまが飲み込んだものがそういう類のでなければいいんだけどねぇ・・・でも、お母様(パルティミア)制作のものだから、完全にないとはいいきれないんだよねぇ・・・と言うパンドラに、僕は自然とシェリルが向かったであろう客間へ向けて走り出していた。そんな僕の背後で『ご主人様(アレクさま)~ボクしばらく別行動取るからね~』とかなんとか言っているけど、正直彼女に構っている暇はない。




どうか・・・もし神様が本当に存在しているのならば、僕は幾ら罰を受けてもいいから・・・だからシェリルには・・・残酷な記憶が戻らないように、奇跡を・・・・・・どうか・・・ご慈悲を・・・・・・・っ!!!! 

用語説明:【逆回転の時計】

・【旧時代】に於いて【神にも等しい魔導士】と謳われた【パルティミア・イデア】が作製した非常に大きな機械仕掛けの大時計で、彼女の遺作とされているものである。

・彼女の作品の中には自我を持つものも多く存在すると言われているが、人型を取るものは非常に珍しいと言える。(気分次第じゃないの?ボクは人間が好きだし、大時計(ほんたい)って宝物庫の中から出せないからいろいろと不便だから人型で稼働してるんだよ。by:パンドラ嬢)

・その能力は使用者の願いと生命と遡るまでに至る世界の歴史を糧に過去へと時間を戻すこと。それ以外にも時間に関する事なら割となんでもできる・・・かもしれないが、それには大きな代償が伴うことになるのだろう。(オススメは確かにしないかもねぇ・・・)

・現在の使用者はアルジャンテ王国の第一王子:アレクサンドル・フラム・ドゥ・アルジャンテ殿下。




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