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お出かけ日和・・・なのですが・・・





アレクと一応の和解が成立して2週間。一年で最も過ごしやすい爽の月になった。(数日前までは春の訪れを告げる華の月でした。)晴れ渡った青空は澄み切った蒼色で、穏やかなそよ風が運んでくるのは、甘い花々の香りから新緑の瑞々しいグリーンノート。何というか、香りの中でも一番安心できて、ホッとするのは、お父様が好んでこの香りを纏っているからかもしれない。




そんな素敵な爽の月は私が最も活発に、積極的に外に出たがる時期でもある。(だって、こんなに穏やかで過ごしやすい日々にゆったりと緑溢れる公園をお散歩したりだとか、ちょっと遠出をしてピクニックとか絶対に気持ち良いでしょう?それに、爽の月が終わると一年で最も降水量の多い雨の月、そして最も気温が上がる炎の月がやって来る。そうなると暫くは外に出かけることができなくなるので、その反動とも言えるけれど・・・。)





「シェリル!きょうはどこにいく?」




漸くこちらでの生活に慣れてきたジルベールが、それはそれは愛らしい笑顔で私に問いかけてきた。外に出ても命の危険が全くないというわけではないのだけれど、比較的学園都市(アスポワ)は王都よりも治安が良く(国内の子供達を一同に集めているので、それなりに警備がしっかりしていないと国としても不満の種を抱えてしまいかねないから・・・。)自由に動けることを学んだジルベールは、最初の頃こそアンドレアス叔父様やアルベール義理兄様の後ろを雛の如くぴったりとくっつき行動していたけれど、今では彼らから離れて、一人でも動けるようになった。



そんな彼の最近の楽しみは、私と一緒にお散歩すること。



ずっと屋敷の中に篭ってばかりも良くないだろうと、最初は家の庭からゆっくりと、お花を眺めたり、実際に触れてみたりしながらのお散歩から、今では近くの公園にまで距離を伸ばして、近所の子供たちと交流を深めるほど、彼の世界は日に日に広がっている。



前生までのジルベールの幼少期は中々に過酷だった。アルシエール公国の内戦が熾烈を極めている時期にアルベール義理兄様と二人で革命派の隠れ家で幼少期を過ごした彼は、一方的な権力を憎み、そして押し入ってきた公国軍の兵士を、仲間たちを守るために、無我夢中で殺めた。・・・それが確か7歳くらいの時だったと・・・語っていた気がする。




『仲間を守ることよりも・・・自分が生き延びることの方が頭を占めていたんだよ。だから・・・もしもの時のためにと渡されていた拳銃の引き金を、何の覚悟もなく、その時は無我夢中で引いていた。そんな俺を誰も咎めはしなかったし、それが当然だと・・・でも・・・アル兄は・・・仕方がなかったとはいえ、結果として人の命を奪ってしまった俺が許せなかったのだろう。目が・・・俺を拒絶していたんだ。』




仲間を守りきった幼い英雄として、大人たちには歓迎されても、アルベールを含む子供たちからは畏怖の目で見られることになったジルベールの居場所はその時から限られてしまった。わけがわからないまま、大人たちに混じり、成長しなくてはならなくなった当時の彼に、無邪気な子供時代は存在しない。けれど、今は違う。無理に大人になる必要もなければ、その小さな手で、誰かを殺める必要もない。そのことだけは・・・歴史が変わったことに感謝したいと思う。




「・・・そうねぇ・・・ジルはどこにいってみたい?」



「シェリルがつれていってくれるばしょなら、どこへでも!」




きっと楽しいはずだもん。と、嬉しいことを言ってくれるジルベールに私も自然と頬が緩む。




「じゃあ・・・・・・」



「シェリーフルールお嬢様っ!!!!」



「!?」




色々な場所を思い浮かべながら、目的地を絞っていると、不意に慌てた様子で一人の侍女が部屋へと駆け込んできた。




「・・・どうしたの、カティア?」



「お・・・お嬢様、大変ですっ!アレ・・・アレクサンドル様がっ!!」



「・・・?アレクがどうし・・・」



「・・・やぁ、シェリル。ごきげんよう。おじゃましてるよ。」



「!!!?」





あたふたと落ち着き無く言葉を口にする侍女の背後からひょっこりと、見慣れぬ色(私と同じ蒼銀の髪が、ありふれた栗色になっているのだから物凄く違和感しかない)を纏ったアレクと、彼の後ろにふわりと浮いているパンドラが顔を出した。




「え・・・アレク?」



「うん。ごめんね、さきぶれもださずにきゅうにおしかけちゃって。」



「それは・・・だいじょうぶだけれど・・・そのかみ・・・・・・・」



「うん。そのままだとめだつでしょ?だからウィッグをつけてるんだ。」




シェリルの分もちゃんと用意してあるよ。と、にっこりと笑うアレクに、思わず「はぁ・・・」と気の抜けた返事をしてしまった。




「・・・だれ?」



急な来客に不安そうな表情を浮かべたジルベールが、私の服を軽く掴み、隠れる様に私に問いかけてきた。そんな彼に、アレクは一瞬目を見張り、複雑そうな表情を浮かべたが、直ぐにいつもの、穏やかな笑顔を私たちに向けた。




「・・・はじめまして。ぼくはアレクサンドル。シェリルのともだちだよ。」



「・・・シェリルの・・・?」




おずおずと、視線を私とアレクの間を彷徨わせたジルベールに、私もアレクの言葉を肯定するように頷いて見せる。それでも初対面のアレクにジルベールは警戒を解かずに居ると、カティア達が呼んできたのであろう、お母様が部屋へとやってきた。



「まぁまぁ、アレクサンドル様・・・ようこそ、いらっしゃいましたわ。」



言葉の上では歓迎していますと言っているお母様の表情は「先触れも出さず、そんな格好までしてなにをしに来たのだ。」と暗に語りかけていて、アレクもそれに気づき、まずは「急な来訪、申し訳ございません。」と素直に謝罪した。




「ちちうえに、こどものころのおはなしをきいて・・・ぼくもぼうけんしたくなったんです。」



「・・・・・・そう・・・元凶はアルフォンス(あのこ)なのね・・・。確かに・・・幼い頃はよく私と一緒に城を抜け出していたわねぇ・・・。」




全く、そういう所は似なくてもよろしいのに。と苦笑したお母様は私たちに視線を投げると、傍にいた侍女に簡素な服を用意するよう指示を出した。




「シェリル、着替えを持たせますからアレクサンドル様に付き合って差し上げなさい。・・・ジルベールは今回はお留守番しましょうね。」



「べつにいっしょでも・・・」



「アレクサンドル様。ご自分の立場を忘れてはいけませんわよ?・・・それに、幾ら貴方達が同じ年頃の子よりもしっかりしているとは言っても、自分の身も禄に守れない者に大切な客人(ジルベール)を預けるわけにはいきませんもの。」




貴方とシェリル位ならば、護衛たちも身を隠しながら守ることもできるでしょうけど、護衛対象が増えれば、どうしたって護衛する側も人数を増やさざるを得なくなる。そうなると悪目立ちしてしまうでしょう?そうなっては貴方としても困るのではないのかしら?と、正論を突きつけるお母様に、アレクは苦笑しながら「参りました。」と両手を挙げた。




「・・・お嬢様、準備が整いました。こちらへどうぞ。」




そうこうしていると、カティアが私を呼びに来たので、一旦私は席を外した。








































ガタコトと揺れる馬車は学園都市(アスポワ)の中心部に位置する商業区(バザール)を目指している。




「・・・それにしても、アレクもパンドラもきゅうにどうしたの?」




お出かけしたいならもっと先に連絡くれればよかったのに。と首を傾げれば、アレクは「今日の予定が流れたから、飛び出してきちゃったんだ。」と苦笑した。



『最近、ご主人様(アレクさま)の王太子教育が本格始動しちゃってね。ご主人様(アレクさま)も年相応になるように手を抜けばいいんだけど、前生の記憶がある分、加減が出来ないみたいでねぇ・・・』



多方面からの干渉が凄まじいんだよー。とパンドラはげんなりした表情で言った。




「・・・べつに、おぼえたいこととか、やりたいことがみえてるから、いそがしくてもくにはならないんだけどね。ただ・・・パンドラのねがいをかなえるじかんがへってしまったのがきがかりだったんだよね。」




何時時間が取れるかわからなかったし、この機会を逃したらいけないような気がして・・・そう考えたら自然と飛び出してたんだ。だから、先触れを出すとか、そういう事にまで頭が回ってなくて・・・と恥ずかしそうに頬を掻いたアレクは「それでも、こうしてシェリルと出かけられて嬉しいよ。」微笑んだ。




「・・・パンドラのおねがいって?」



『あのね、ご主人様(アレクさま)にも伝えてあるんだけど、ボク、お人形が欲しいんだ。』



「・・・おにんぎょう?」



『そう!お人形といっても普通のお人形じゃないくて、【旧時代の遺産(アーティファクト)】の、なんだけどね。』



「・・・そんなのがあるの?」



『あるの!完全体でこの時代まで残っているものは少ないかもしれないけれど、旧時代では人間の数を上回るほど量産されていたんだよー。』



その使用方法はえげつなかったんだけどねー。と苦笑したパンドラに、私は首を傾げた。



「・・・えげつない?」



『うん。本来は人間の身の回りのお世話用に開発された魔導人形(ドール)達はいつしか生身の人間の代わりに戦場で戦う殺戮人形(ドール)に改良されたんだよ。激化していく国同士の争いは魔導人形(ドール)の優劣によって勝敗を分けていく事になるから、優秀な魔導士達は競うようにして高性能の魔導人形(ドール)を生み出して行ったんだ。』



勿論、ボクのお母様(パルティミア・イデア)もその一人だよ。だけど、他の魔導師たちと違ってお母様(パルティミア)殺戮人形(ドール)だけは作らなかったんだけど・・・お母様(パルティミア)作品(こどもたち)を勝手に改造して戦場に送り出していた魔導士がいてね。いろんな恨みを買う結果にもなったんだ。



パルティミア・イデアはただ、魔導と魔導具の可能性を極めたかっただけなのに・・・ね。




『・・・とまぁ、そんな話は置いといて、ボクが魔導人形(ドール)を求める最大の理由は、ボクがもっと自由に動けるようにするため、なんだよ。』




精神体のままじゃ行動範囲が限られてしまうし、何より、ボクが見えるのは今の所ご主人様(アレクさま)とシェリーフルール様だけだから。お二人が変な目で見られるのも防ぐっていう意味もあるんだよ。そう言ってパンドラは苦笑した。




「ふぅん・・・・・・でも、それってかんたんにみつかるものなの?むしろ、おうじょうをでいりしているしょうにんのツテをつかったほうがはやいんじゃないの?」



「それもかんがえたんだけど、パンドラがだめだっていうんだ。」



「・・・どうして?」



『それは勿論、【旧時代の遺産(アーティファクト)】の人形を幼い王子様が欲しがってるって、変な噂になったら・・・いろいろ困るでしょう?』



「あっ・・・」



「・・・うん・・・」



パンドラの指摘に私たちは言葉を濁した。・・・確かに、そんな噂が広まるのは宜しくない。



『それに、学園都市(アスポワ)だったら、そういうの、扱ってそうじゃない?見目だけは可愛いから、絶対子供受けしそうだし。』



勿論、そういう趣味の大人にも、だけど・・・とパンドラは怖いことを言った。



「ともあれ・・・みつかればいいんだけど・・・」



『そうだねー。まぁ、気長に待つけど・・・ね。』




でも、何となく見つかる気もするんだよねぇ~と、パンドラは目を細めた。

長くなりそうなので、一旦区切らせてもらっています。続きは・・・早ければ水曜日頃、更新予定です。

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