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王城の秘密





「――――――――――――――――と、いう事がありましたのよ。」




うふふ、と上品に笑うお母様に、アンリ伯母様・・・アルジャンテ王国王妃・アンリエット様も「まぁ・・・」と、お母様の言葉から想像したのだろう、その光景に楽しそうに目を細めた。




アンドレアス叔父様の突然の訪問から二日が経って、現在、私はお母様に連れられてアンリ伯母様主催のお茶会にお邪魔している。



王妃様主催のお茶会という事で、多少身構えてしまった私だった(何せ、初めはそんな予定ではなく、直前になってお母様が「あら、特に予定がないのなら一緒に行きましょう?」と、半ば強制的に連行されたのだけれど。)けれど、城内の日当たりの良いティールームに案内されると、そこで私たちを待っていたのはアンリ伯母様とアレクの二人だけで、私たち以外の招待客はその時点では誰も来ておらず、そして今も、来る気配がない。




ふっと息を抜きつつ、隣に座っているアレクへと視線を向けると、彼は私が知る限り最も穏やかな表情で私を見つめていた。




「・・・・・・もしかして、アンリおばさまにまねかれたのってわたしたちだけなの?」



「そうだよ。ははうえだけではないけれど、ぼくたちにあくいをむけるきぞくはおおいからね。ひつようさいていげんのおちゃかいはかいさいするけれど、それいがいはほんとうに、しんようできるひとたちしかまねかないようにしているんだよ。」




だから、社交界では専ら『現王妃は社交嫌い』だとか『怠け者王妃』なんて言われているらしいけどね。でも、母上をそういう風にしたのは貴族達(かれら)なんだけどねぇ。




こっそりと、教えてくれるアレクの表情は穏やかだけれど瞳は凍てつくほど冷たく、やりたい放題の名ばかり貴族たちに対する怒りが簡単に読み取れる。




「・・・それよりも、ぼくがきになってるのは、なんでこのじきにドラグランジュきょうだいがリヴィエールこうしゃくけにほごされたのか、だよ。・・・まえのときは・・・そんなことなかったよね?」




確認するように私に訊ねてくるアレクにこくんと頷けば、アレクはホッとしたような、何処か不安そうな表情で「そうだよね・・・・・・でも、何でこんなに違うんだろう?」と首を傾げた。




確かに、私の知る限りでは、大きく歴史が動くのは私たちが王立学院に入学して以降・・・もっと詳しく言えば、アンジェリーヌ・フォルティアが入学してくる15歳の頃からで、幼少期の出来事は過去12回、それほど大きは変動はない。けれど今生に限って言えば、前生までには起こり得なかった、私やアレクの記憶の事を含め、異例づくしだと断言できる。




「・・・・・・わからない・・・けど、わたしやアレクがぜんせいのきおくをもってることに、なにかかんけいがあるのかも?」



「・・・ということは、『きゅうじだいのいさん(アーティファクト)』のえいきょう・・・とかんがえるべきなのかな?」




確かに、『旧時代の遺産(アーティファクト)』の持つ本来の力は殆ど解明されていないからね。と、苦笑したアレクに私も同意を示すよう、こくりと頷いた。そして、ふと、視線を感じお母様たちの方へと顔を向ければ、お二人はいつの間にかおしゃべりを止め、私たちを微笑ましそうに眺めていた。




「あらあら、すっかり仲良しさんねぇ。」



「本当に。・・・私達にも内緒で、どんなお話をしていたのかしら?」



「ど・・・どんなって・・・・・・」




言われても、勿論、言えるわけがない。けれど、口篭る私とは正反対にアレクはにっこりと「シェリルにぼくのこと、もっとしってもらおうとおもって。べんきょうよりもおしろのなかをたんけんするのがすきなこととか、そこでみつけたものとか・・・いろいろと。」と、平然と答え、お二人の視線を私から、自然と外してくれた。




「まぁ・・・アレク、でもそれはあまり褒められたことじゃないでしょう?」



「もちろん、ちゃんとべんきょうだってしてますよ?でも、せんせいのはなしだけじゃ、あんまりピンっとこなくて・・・」



「そうですわね・・・確かに、自分の目で見て初めて理解することもありますわねぇ・・・」



「そうですか?ただのやんちゃさんなだけじゃ・・・」




あら、男の子なんだからそういうものよ、と、笑うお母様に、アンリ伯母様は「そう・・・なんでしょうか?」と不安そうにしながらも、それを話のネタに、再び賑やかなおしゃべりが始まる。それをそっと見届けていると、不意にアレクが私のドレスの裾を軽く引っ張った。




「?」



「ははうえたち、しばらくあんなかんじだろうし、ここにいてもたいくつだろう?・・・じょうないで、いきたいばしょがあるならそっちにいどうしようか?」



図書室?それとも温室がいいかな?と、私の好きそうな場所を幾つか挙げてくれるけれど、どうせならと・・・私は思い切って口にする。



「・・・アレクのおへやがいいわ。としょしつだとおしゃべりできないし、おんしつだとごえいのめが・・・」




完全に人払いが出来る(・・・というわけではないだろうけれど、それに近い状態が作れるのは多分・・・)場所、と言えば、彼の私室以外には思いつかない。そんな私の思惑を理解してくれたのかどうかは・・・解らないけれど、アレクは「ぼくの?」と首を傾げた後、このお茶会の主催者であるアンヌ伯母様に、退室許可と揃ってアレクの部屋に移動することを願い出ていた。




「それなら・・・・・・ベル。ここにあるお菓子を少し包んで持たせてあげて頂戴。」



「畏まりました、王妃様。」



「アレク、くれぐれも、シェリルちゃんに無理をさせてはダメよ?」



「はい、ははうえ。あ・・・ベル、おかしとかおちゃのようい、さきにしておいて。ぼくとシェリルはよりみちしながらゆっくりむかうから。」



「・・・・・・本当に、無理させちゃダメよ?」




アレクの寄り道発言に、不安そうに彼を見るアンリ伯母様に、アレクは大丈夫だと言い切る。そしてアレクの指示にアンリ伯母様専属侍女のベルは微笑ましそうに了承し、彼女の同僚または部下である侍女達にも、その旨を伝えていた。




「さ、おゆるしをえたし、いこっか。」



「・・・うん。でもよりみちって?」



「それはついてからのおたのしみ。」




席を立ち、アレクに手を引かれるままティールームを後にし、王城特有の広い廊下に出ると、思ったほど人気がなく、自由に動くことができた。・・・でも・・・人気がなさすぎる気がするんだけど、大丈夫なの??




「・・・しんぱいしなくても、いるところにはちゃんといるんだよ。」



「アレク?」



「むしろ、ぜんせいにくらべればかげでうごくじんざいがふえた、といえばいいのかな?・・・はずかしいことだけど、まえのぼくはこのころ、べんきょうやおとなたちからにげまわっていたんだ。だからひつぜんとそれをさがすためにおもてがわにたくさん、じんいんをふやしていたんだよ。」




君が感じている違和感はきっとそれ。そして現在(いま)は、僕はやることはちゃんとやってるから、そこの手を回す人材がなくなっている分、戦力を分散できているんだよ。と、苦笑したアレクに、そういえば、と、私も納得した。




「・・・たしかに・・・・・・あのころはアレクとおいかけっこというかかくれんぼというか・・・そういうあそびをよくしていたわね・・・」



「ぼくじしん、にげることにひっしであそんでたわけじゃなかったはずなんだけどねぇ・・・」



でも逃げてばかりいたってどうしようもないのに、あの頃は自分さえよければ、嫌なことから目を逸らし逃げ切ることができれば、それだけで満足だったんだよね・・・。と、後悔が滲む声で呟いたアレクの手を、私は自然ときゅっと握りしめていた。




「・・・でも・・・・・・アレク(・・・)は、にげないってきめたんでしょ?」



「・・・・・・うん。」



「じゃあ、だいじょうぶだよ。」




逃げずに、立派な王になるべく努力していたアレクのことも、私はちゃんと知っている。だから、そうと決意したのならば、彼は・・・大丈夫だ。そういう思いを込めて微笑むと、アレクは目を微かに潤ませながら、嬉しそうに「ありがとう・・・シェリルに信じて貰えて嬉しいよ。」と呟いた。




「っと、かんどうしてるばあいじゃなかったね。さて、シェリル、このさきにはなにがあるとおもう?」




複雑に入り組んだ王城の廊下を進んだ先は、一枚の大きな絵が飾られた行き止まりで、彼が言う『その先』なんて場所は存在しない・・・・・・はずである。けれど、ここは王城。見えない場所にも道があったって不思議でない。




「・・・・・・このいち・・・でしょ?かくしべや・・・かしら?」




丁度王城でも最奥の、王族たちの居住区からも近い位置にあるという理由から想像して口に出してみると、アレクは「う~ん・・・シェリルは侮れないなぁ・・・」と楽しそうに笑い、そっと、絵の裏へと手を入れた。





子供のアレクでもその仕掛けには手が届くようで、ぷちっという、何かを押すような音が聞こえた瞬間、床と絵の間・・・丁度今の私たちが余裕で通れるほどのその間に大きな穴(のような入口?)が出現した。




「せいかいはかくしつうろ、でした。」



「・・・そのようね・・・・・・はいってだいじょうぶなの?」



「もちろん。これがどこにつうじているのかも、ちゃんとはあくしているよ。」




だから、シェリルを案内したんだ。そう言って、アレクは再び私の手を取り、隠し通路へとエスコートしてくれた。






































狭い通路だと思ったそこは、隠し通路としてはしっかりと作られており、成人男性でも楽に通れるくらいの余裕があり、通路の両端には等間隔で『蛍石(フローライト)』(蛍石も【旧時代の遺産(アーティファクト)】の一つで、どういう原理かは全く解明されていないものの、常に淡い光を放っていて、主に街灯や、こうした暗所での光源として使用されることが多い。)が埋め込まれており、真っ暗で先が見えないような状態ではなく、程良く見通しが利くよう工夫されていた。




「・・・・・・だっしゅつもくてきのつうろ・・・ではなさそうね?」




辺りを見回しながら思ったことをそのまま呟くと、アレクは「そうだね。これだけ明るいと直ぐに見つかってしまうかもしれないね。」と苦笑した。




「でも、あるいみ、これでせいかいなんだよ。」



「・・・どういうこと?」



最初に通った通路から緩やかな階段を下った先には同じように等間隔で蛍石が埋め込まれた通路がまた真っ直ぐに伸びている。アレクはその奥を指差しながら「僕が案内するのはあの先なんだけど、シェリルには『こっち』の道も教えておくね。」と、階段の裏側に私を誘導した。




パッと見、そこはただの空間で、隠れるにしては見つかりやすい場所とも言える、何の変哲もない階段裏だけれど、不思議なことに、ここには『蛍石』の光はあまり届いてこない。




「しかくにあるばしょだけど、いまはなにもないだろう?」



「うん。」



「でも、じつはいちばんおくの・・・・・・このあたりかな?」




ゆっくりと階段裏の奥へとやってきたアレクは、そっと、その側面の壁に手を伸ばした。すると、音もなくその壁の一部がするりと、半回転した。




「!!?」



「こっちのつうろが、シェリルのいっていた『だっしゅつもくてきのつうろ』なんだよ。」




光源もなく、ただ真っ暗な闇が満ちているそこにある通路がどんなものなのかはここからでは把握することはできないが、アレク曰く、より複雑に入り組んでいるらしい(その口ぶりから、アレクは実際にこの中に入ったことがあるんだろうなと察することができた。それが王族としての教育の一環でなのか、彼自身の好奇心でなのかは解らないけれど・・・あるいは両方だったりするかもしれない)。




「まぁ、ここをつかうことなんてまずないとおもうけど、ねんのため、ね?」




ゆっくりと壁を戻しながら呟いたアレクは再び元の光源がしっかりある通路へと私を導き「この先の部屋にもね、追っ手がそう簡単には引き返してこない仕掛けというか仕組みがあるんだよ。」と笑った。




「せいかくには、もどりたくない、とどまっておきたい・・・っていうのかな?」



「・・・そんなすてきなほうほうが、ほんとうにあるの?」



「あるよ。おしろならではというか・・・そうじてにんげんなんてよくのかたまりだからねぇ・・・」




そう苦笑したアレクに導かれるまま、通路の奥へとやってきた私が目にした光景に、思わず絶句した。




「こ・・・ここは・・・・・・」



「うん。しろのほうもつこのなか、だね。」



「なんで・・・っ!?」




そんな場所に繋がっているのだ!と大声を上げそうになった私の口をアレクがやんわりと手で塞ぎ、苦笑しながら「静かに、ね?」と注意した。




「げんじゅうにけいかいされているのはしょうめんがわだけなんだよ。そもそも、こんなばしょにつうじるつうろがあることじたい、ほとんどしらされていないんだよ。」



「それはそうでしょう。だって・・・こんな・・・・・・」



「うん。だから、いろいろとこうかてきなんだよね。」




予想外過ぎて言葉も出ない私に、アレクは苦笑すると「まぁ、ここにあるものはいざという時には売り払って民たちのために使うべきものだからね。今のところは『宝の持ち腐れ』状態っていうか・・・そんな感じだし・・・」と呟いた。




「それに、どうしてもシェリルにあってほしかったんだ。ぼくが、じかんをもどすきっかけになったものに。」



「!?」




宝物庫の中の、無造作に積み上げられた宝物たちの間をすり抜けながら、不意にアレクが立ち止まり見上げたその先を私も同じように辿ると・・・・・・それはどっしりと佇んでいた。





更新が遅くなって申し訳ございません。諸事情から5月中の更新は週1ペースではなくなりますのでご了承くださいませ。

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