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閑話:殺伐としたお茶会

短めです。





真っ先に眠りに落ちた愛娘と、戸惑いながらも微睡みに意識を手放した少年たちを微笑まくしく眺めていた大人たちは、不意にその表情をかき消し、何処か緊張感を孕んだ空気を纏う。その気配を察した侍女たちは、特に指示される事なく自主的に彼らの話す内容が聞こえない、けれどその動向を伺える場所へと移動し、その存在感をかき消した。




「・・・・・・それで?アルシエール公国の内戦に関して中立の立場(どっちつかず)だったリヴィエール家(アニキたち)は革命軍側を支持する決心をしたってことでいいんだな?」




そう切り出したアンドレアスに、エドゥワールは「いいや、僕たちは・・・アルジャンテ王国としても、ずっと中立の立場だよ。・・・それは彼の国で内戦が勃発した当初からの方針であり、王命でもある。」と、首を緩く振った。




「ただ、目に見えないところで、王国(ウチ)貴族達(ばかども)が暗躍しているのも事実だけどね。」



「けど、兄上(アニキ)、ガキ共の保護をするって事は・・・」



「確かに、そう取られかねないかもしれないけれど、あくまで、あの子達は僕個人(・・・)の知り合いの息子さんたちで、一時的にお預かりするだけ。その知り合いが革命軍側に属していようと、僕から彼に何かを援助するようなことはないし、援助を頼まれたという事実もない。」



・・・確かにドラグランジュ氏(かれ)子供達(よわみ)保護され(なくなり)、より積極的に動けるようになったとしても、その結果、戦況が動こうとも、僕らが特に何をしたというわけではなく、それは彼ら自身の努力の結果でしかありえないからね。




だから、今まで通り。何が変わるわけでもないよ。と平然と言ってのけるエドゥワールに、彼の弟であるアンドレアスは複雑そうな表情を浮かべながら「相変わらず口ばっかり達者なことで・・・。」と吐き捨てた。




「けれど、事実でしょう?エドはか弱い子供たちを保護しただけで、軍資金や武器の援助をしたわけでもなければ私兵を投じたわけでもありませんもの。」




兄、エドゥワールの言葉を受け入れられない様子を見せる義理弟(おとうと)にエリザベートは止めとばかりに言葉を繋いだ。しかしそんな義理姉(あね)の言葉にさえ、アンドレアスは不機嫌さを消そうとはしなかった。




「・・・確かに、兄上(アニキ)のしていることはほんの些細な『人助け』だろうさ。・・・けど、リヴィエール公爵家は、その『人助け』をもっと出来るだけの力があるだろう?・・・伊達に他国相手の外交を、それこそ建国当初から承ってきているんだし?」



「お前、船に揺られすぎて脳が駄目になってるんじゃないだろうな?・・・そもそも、リヴィエール公爵家(わがや)外交(しごと)は昔から趣味の一貫みたいなものだろう?その結果、各国のあちこちに良縁が繋がっている事も事実だが、現状、アルシエール公国に於いてのそれは単なる足枷にしか過ぎないんだよ。」




そもそも、お前が言うように、簡単に手助けできるのならばとっくに実行しているさ。




憤る弟の目をしっかりと見据えながらエドゥワールは言い切った。




アウジャンテ王国(じぶんのくに)よりも他国にこそ繋がりの強いリヴィエール公爵家は当然、アルシエール公国の内戦に心を痛めていた。そして出来るならば、双方穏便に、納得ができる方法で収束させたかったのだが、実の所、それはほぼ不可能に近いことに、エドゥワールは気づいていた。



それもそのはずである。



彼らの一族が、それこそ昔から繋いできた縁は、アルシエール公国を例に上げるならば、彼の国を収める公家にも、公家を支える良識ある(・・・・)貴族(残念ながらその大半は王国の腐敗貴族に毒されてしまったが)にも、彼らの下で暮らす商家や学術家、才ある肩書きのない民達にも、どこかしかで繋がっているため、内戦状態として敵対している現状でリヴィエール家がそのどれか一つにでも加担すれば、それ即ちそれ以外の縁を断ち切ってしまう事になるのである。ましてその縁が浅いもの、顔見知り程度だというのであれば笑顔で切り捨てることも可能だったかもしれないが、そのどれもが残念な事に浅からぬものなので、エドゥワールとしては、例え善悪はっきりした内容であったとしても、関わることは出来ないと、付け加えるならばアルジャンテ王アルフォンスが『中立』を表明したことを受けて、静観する姿勢を取ると決心したのだ。・・・それをこの、正義感の強い弟は嫌悪していることにも勿論気づいている。しかし、エドゥワールは自分の立場を決して崩すことはできない。




「いいかい、アンドレアス。お前の言い分も解る。アルシエールの内戦は革命軍側が勝利すべき戦いであり、滅ぶべきは民を軽んじ、蔑ろにし続けた公家側だ。だけど、僕たちはアルシエール公とも浅からぬ関係を、それこそ彼の国が建国した当初から持ち続けている。王国が中立を表明しているとは言え、僕個人に彼らから援軍要請が届くことも少なからずある。それは革命軍側に属する者たちも同じだけどね。だけど、そのどちらかに手を貸すことは、リヴィエール公爵家としては絶対にしてはいけないことなんだよ。」




望んで繋いだはずの縁を、裏切るような形で絶つことは許されない。それならばアルジャンテ王国に属する貴族の一員として、王命である以上、動きたくても動けない。逆にそれに動じず手を貸す王国貴族は国賊に値する、と言う大義名分で静観しておけば、公爵家としての体裁は保たれる。・・・僕は公爵家の当主として、歴代当主が築き上げたものを守る義務があるからね。




お前のように感情論で動くことは出来ないと、強く彼を見据えたエドゥワールに、アンドレアスはチッと舌打ちをした。




至極真っ当なことを言っているエドゥワールではあるが、しかし、アンドレアスは、公国内の縁ではなく他国の、複雑に絡み合う縁の伝手を使えば、リヴィエール公爵家の名を隠したままで援助が出来るということを知っている。当然彼が知っているのだからその当主たるエドゥワールも、その方法に早くから気づいているはずである。しかしそれをしないのは、公国の面倒事は公国に住まう者(とうじしゃ)達で解決すべきだという考えもあってのことだ。下手に手を出して彼方此方に戦火が飛び火する可能性も拭えないからだ。




とは言え、真っ当な考えの貴族(もの)ならばその可能性を即座に見出すはずであるのに、悲しいかな、王国(このくに)の貴族は当家の利益しか頭にない無能揃いである。ある者は公家に恩を売り、戦に勝利した暁にはそれなりの見返りを望み、またある者は、革命軍側に支援を惜しまず、しかし、勝利した暁には内政に口を出す権利を得ようと言葉巧みに革命指導者達を唆している。そういう経緯を見ても、公爵家が手を出す事は容易ではないと解るのだが、直情型のアンドレアスにしてみれば、すっぱりと、悪は悪として断罪し、事態を綺麗に収束させるべきだという考えが強いのだろう。




「そういう理由(わけ)だから、アンドレアス。僕達は動かないし、アルシエールの内戦が終わるまでは、静観しているつもりだよ。・・・何かしたいと思うのならば、お前がすればいい。但し、リヴィエール公爵家の名を捨てて、な。」




まぁ、ここまで言えば、幾ら単細胞のお前でも納得はするだろう?と、苦笑したエドゥワールに、アンドレアスははぁっと大きく溜息を吐き、「・・・・・・わーったよ、降参だ。」と両手を挙げた。




「まぁ、お前のことだ。あの子達の事を思って、内戦を早く終わらせて、親元へ返してやろうとか、そういうことを考えてたんだろう?」



「べ・・・別にそういうわけじゃ・・・」



「そんなに気になるんなら、あの子達の面倒、お前が見るか?」



「!!?」




別にお前にその気があるなら任せるんだけれど?と言うエドゥワールに、不意に顔を赤くしたアンドレアスは無意味に口をぱくぱくとさせた後「いや・・・俺には無理だよ。」と項垂れた。




「多分あのガキ共は兄上(アニキ)達に育てられたほうが、いろいろと身に付くだろうさ。俺が教えてやれることなんてほとんどねぇし。抑も俺は一年の大半は海の上にいるし・・・」



「ですから、その生活を改めなさいと言ってるのよ。私もエドに賛成だわ。あの子達が貴方の傍に居てくれれば、必然と領主としてリヴァージュの館に留まってくれそうですし。」



義理姉上(アネキ)まで!」



「・・・まぁ、決めるのはあの子達だけどね。」




先程までの殺伐とした雰囲気が無くなり、大人たちが軽口を叩き始めると、それまで息を潜めていた侍女たちが再び彼らの傍に侍り、給仕に勤しみ始める。ごく自然に、それをやってのける彼女達は本当に良く教育されていると、若干現実逃避しながらアンドレアスはぼんやりと思った。




「さて・・・面倒だけれど、彼らを公爵家(うち)で保護すること、王に報告しないとね。」



「でしたら、私が行きますわ。アンリエットのお茶会に誘われてますの。」



「あぁ・・・確か明後日だったかな?うん。じゃあ任せようか。必要な書類は当日渡すよ。・・・アンドレアスも、暫くこっちに滞在するならシェリルたちの遊び相手になってやってよ?」



「へいへい。精々チビ姫達に扱き使われますよ。」



渋々返事をしつつも、すっかり寝入っている子供たちに向けるアンドレアスの視線は優しく、満更でもなさそうだ。




「序でに、先ほどの件もしっかりと考えておいてくださいね?」




にっこりと、笑顔の圧力をかけてくるエリザベートに、アンドレアスはそれこそ渋々頷いた。

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