終わりの始まり
ずっと書きたかった乙女ゲーモチーフ無限ループ系なお話です。因みに初期タイトルは【但しフツメンに限る!】でした。
――――――――――――カラカラカラカラ・・・・・・
猛スピードで逆回りするその【大時計】の針は止まらない。そしてその勢いを更に増させるように、次第に連動する数多の歯車達もまたゴロゴロ・・・ガタガタ・・・と重い音を響かせ廻る。
その様子を視界に収めながらも徐々に狭まってくる視野は確実に一人の青年を、永久の眠りへと誘っている。しかし、そのような状況下でも、青年の表情はとても穏やかで希望に満ちていた。
「やっと・・・・・・・やっと・・・この悪夢から解放される・・・・・・・」
そう呟いた青年の脳裏には、数年前、けれどそれからのことを思えば随分昔のようにも思える時間・・・青年自身が傷つけ、もう二度と手の届かない場所へ行ってしまった、本当に大切にすべきだった少女が、彼が最後に見た通りの、傷つき、泣き出しそうになりながらも、決して狼狽える事なく、凛とした視線を青年に向けている光景がはっきりと映し出されていた。
「・・・・・・・・シェリル・・・・・・僕は・・・・・・もう二度と、君に・・・そんな顔はさせないから。」
だから・・・待っていて。【次】は間違えない。
そう呟いた瞬間、青年の思考は停止する。
――――――――――――カラカラカラカラ・・・・・・
【逆回転の時計】は回り続ける。
青年の僅かな生命力と純粋な願い、更に世界が紡いだ歴史を糧に、青年が望む【過去の時間】まで遡る、その為に―――――――――――――――
「シェリル?・・・・・おーい、シェリル??・・・・・・僕達の可愛いお姫様!!」
「!!?」
優しく穏やかな声色で、淡い銀髪の男性が、彼のすぐ傍でぼんやりと歩く天使のように愛らしい容姿の幼い娘に呼びかける。しかし、そんな男性の声も届かず、何処か此処ではない遠くを見つめる娘に、最終手段だと言わんばかりに、娘の愛称である【シェリル】から真名である【シェリーフルール】と紡いだその瞬間、がばりと娘を抱き上げ、強制的に彼女の意識を彼に向けさせたのだ。当然、突飛な男性の行動に目を丸くしている娘に男性はくすくすと「・・・シェリルはお城に来るの初めてだもんね。緊張してしまうのも無理はないか・・・」と苦笑しながら、彼女の頭を優しく撫でた。
「・・・パパ・・・」
「・・・大丈夫だよ、シェリル。お父様とお母様が一緒なんだから。シェリルはいつも通りでいいんだよ?」
「いつも・・・どおり?」
「~っ!!!ねぇ、エリザ!!やっぱり今日はもう屋敷に帰ってシェリルと一緒にのんびり過ごさないかい!?」
男性の言葉にシェリーフルールがこくりと首を傾げながら問いかけると、男性は何故か歓喜に満ちた表情を浮かべ、少し先を行く、娘と同じ蒼銀の髪色を持つ女性に提案するのだが、それは当然・・・・・・
「・・・エドゥワール・・・・・・それは確かに素敵な提案ですが・・・アルジャンテ国王との約束を破るわけにはいかないでしょう?」
今日は大切な顔合わせの日なのだから。と、困ったように笑う女性に男性は残念そうな溜息を零した後「・・・やっぱり断ればよかったなぁ。」と呟いた。
「王家側がリヴィエール公爵家の血を何で欲しているのかが解らないんだよねぇ・・・」
「・・・そうですわね。・・・アルは一体何を考えているのかしら・・・・・・」
そう言って歩みを止めた公爵家夫妻の内心は疑問ばかりだった。
そもそも、此処、【アルジャンテ王国】に於ける【リヴィエール公爵家】の立ち位置は複雑且つ繊細なものである。
その成り立ちは建国時代にまで遡る。
初代アルジャンテ王の王弟が王位継承権破棄と同時に賜った爵位と家名であり、本来ならばその時点で王家との関係は君主の為に身命を賭けて尽くす臣下でなければならない・・・のだが、初代リヴィエール公爵はある意味常識の斜め上を行く人物だったのだ。
そもそも祖国となったアルジャンテ王国に未練はないと、建国と同時に王位継承権を破棄したような人物である。
当然、その後の人生はまさに自由奔放で、祖国の貴族たちよりも諸外国にこそ繋がりを求め、長きに渡る国外への旅の成果は、王家が堅苦しい外交政策に尽力するよりも強く、確かな絆を成していた。しかし、それは同時に祖国の王族や貴族との繋がりが薄いことを示し、危機感を抱いた当時のアルジャンテ王により、祖国を裏切れぬように、流れるその血は限りなく王家のそれに近くなるよう、濃すぎず薄すぎず、絶妙な配合(現当主、エドゥワールを基準とするならば、彼の祖父が、当時の王の娘を娶った事により、それによって生まれた彼の父親は王家と同等の血の濃さを持った。そんな父親は自由恋愛を経て他国の子爵令嬢を娶った為、生まれたエドゥワールはその血をやや薄めてしまったので、彼の伴侶は現王の姉であるエリザベートが宛てがわれたのである。当然、生まれてきた彼らの子は理論上、現王家の子と同じ濃さになるのである。)で保つことで、その存在感を強め、縛り付けたのだ。
しかし、そんな思惑と枷もリヴィエール公爵家にとっては有って無いようなもので、公爵家として与えられた領地の運営は当然行うとしても国政には絶対に携わらず、諸外国との外交だけを全面的に請け負うことを約束させることに成功し今に至る・・・・・・そんな現状に王家もアルジャンテの貴族たちも、かなり不本意ではあるのだが、仕事(外交だけではあるが)をしてくれるだけマシか・・・と半ば諦めの境地に達しているらしい。
ともあれ、そういう特殊な面を持つリヴィエール公爵家なのだが、先に述べた通り、その自国に囚われない自由且つ奔放な気質の為、当公爵家以外でその血を欲するのはどちらかといえば他国の頂点筋であって、自国では敬遠されがちなのだが、つい数週間前、彼らに送られてきた、国王直筆の召喚状にはこう記されていた。
―――――――――顔合わせをして、気が合うようであれば、姉上の末娘、シェリーフルールを、我が第一王子アレクサンドルの婚約者としたい。
それを抜きとしても、アレクの良き友人として、隣で支えて欲しいのだと書き添えられはいたのだが、本音は前述である事は間違いないだろうと夫妻は見抜いている。
確かに、アレクサンドル殿下と彼らの娘シェリーフルールは同い年であり従兄妹という関係上結婚も可能ではあるのだが・・・夫妻としては、娘には自由に恋愛を経験し、幸せな家庭を築いて欲しいと思っていたので、こういう形で国王に先手を打たれてしまい不本意極まりない。しかし、それに反論する事など彼らには出来はしない。こういう状況になって初めてリヴィエール公爵家に付けられた『枷』を不快に感じ、ここ数日ずっと不機嫌だったエドゥワールを何とか説き伏せ、登城することに成功したエリザベートではあるが、内心はエドゥワールと同じである。
「?」
「まぁ・・・やっぱり直接会ってみないと真意は探れないからねぇ。」
仕方ないか。と、苦笑したエドゥワールに、エリザベートも同じく苦笑して同意を示した。
――――――――約束の場所はもう目前にまで迫っている。
「本当に・・・ただの顔合わせで済めばいいんだけど・・・嫌な予感がするんだよねぇ・・・・・・」
「・・・何もないことを祈りましょう、エドゥワール。」
それでも、歩みを止めるわけにはいかず、せめてもの抵抗とでも言うように公爵夫妻は、今の季節が最も色鮮やかになる王城の庭園を楽しみながらゆっくりと、約束の場所へと向けて進んでいく。
そんな両親の様子にシェリーフルールは何処か様子がおかしいなと感じながらも、まだ幼い為深く思考することが出来ず、色とり取りの庭園を楽しそうに見つめていたのだが、ふと、脳裏に過ぎる光景にズキリと頭が痛んだ。
「っ・・・?」
それは、今、彼女が見ている庭園と同じ光景で、少し異なる所と言えば、今よりももっと多くの薔薇が咲き誇っている事で・・・・・・その噎せ返るほどの薔薇の香りの中で、シェリーフルールは――――
「・・・どうしたの、シェリル?」
「・・・ううん・・・なんでもないわ、ママ・・・」
しかし、今、見渡す限りでは脳裏に浮かんだような、咲き誇る薔薇たちは見当たらない。そもそも初めて来る場所なのに、何故そんな光景が浮かんだのか、シェリーフルールにも理解できずにいたため、急に黙り込んだ娘に声をかけたエリザベートには誤魔化すように曖昧に笑って答える事しかできなかった。
「・・・・・・シェリルは私に似て物怖じしない娘だと思ったのだけど・・・」
「いやいや、エリザ。君みたいに、僕の所に来るまでずっと城暮らしだったなら緊張も何もないだろうけれど・・・ね?」
「そういうものかしら?」
「そういうものだんだよ。」
ねぇ、シェリル?と、苦笑しながら娘に問いかけるエドゥワールにシェリーフルールは訳も分からず首を傾げた。そんな様子にエリザベートも、疑問は残るようだが納得を示し、再び歩みを進めていく。
やがて花々の回廊を抜けると、手入れされた芝生の広場が現れ、計算された配置のテーブルと、辺りを漂う甘い焼き菓子の匂いで、目的の場所が此処であることを示していた。
「わぁ・・・・・・」
まるで御伽噺の世界に紛れ込んだかのようなその光景に幼いシェリーフルールは目を輝かせ、そんな我が子の様子に夫妻も目を細めた。
「・・・姉上、エドゥワール!!」
不意に背後からかけられた声に振り返れば、夫妻に気づき、駆け足で駆け寄ってくる人物と、その後ろから、ゆったりとした足取りで歩いてくる、二人にとっては見慣れた存在にエリザベートは微笑みかけた。それに対し、エドゥワールはエリザベートより一歩後ろに下がり、抱き上げていたシェリーフルールを降ろすと跪き、流れるような美しい所作で王家に対する最上礼で彼らを出迎える。
取り残されたシェリーフルールは、そんな両親をきょとんとした表情で見つめていた。
「国王陛下・・・王妃殿下・・・ご無沙汰しております。」
「姉上・・・ここは非公式の場。・・・貴女のたった一人の弟として扱ってください。」
「そうですわ、エリザ義姉様。私たちは家名こそ違えど家族なのですから。・・・エドゥワール義兄様も、お立ちになって?」
「・・・はい・・・。」
国王夫妻に促される形で礼をを解き、再びエリザベートの横に並んだエドゥワールを追うように、シェリーフルールも小さな足でぱたぱたと移動する。その様は誰の目から見ても微笑ましく、国王夫妻も楽しそうに目を細めていた。
「シェリル、この方達はママの弟君とその奥方・・・シェリルにとっては伯父様と伯母様になるんだ。・・・ご挨拶、ちゃんとできるかい?」
「もちろんよ、パパ!・・・はじめまして、おはつにおめにかかります。わたくし、リヴィエールこうしゃくけがにのひめ、シェリーフルール・ドゥ・リヴィエールともうします。いごおみしりおきくださいませ。」
小さな手でドレスの両裾をちょんと摘み広げ、満面の笑みでお辞儀をすれば、子煩悩のエドゥワールはデレっと表情を緩め「あぁ・・・ウチの娘は世界一かわいいっ!!」と身悶えた。
「・・・はじめまして、シェリーフルール。私はアルフォンス。アルと呼んでくれ。そして・・・・・・」
「アンリエットですわ。・・・どうか、アンリと、呼んでくださいね?」
「えと・・・アルおじさまと・・・アンリおばさま?」
「やぁん!!やっぱり義姉様の娘ですわねっ!!可愛らしいですわ~!!!」
やっぱり女の子は華があって良いですわねぇ~と、アンリエットが言うとアルフォンスも同意するように頷いた。
「そうだな。私たちも姉上達のように子宝に恵まれれば・・・シェリルのような愛らしい娘を持てたかもしれぬが・・・・・・」
「・・・そうですわねぇ・・・・・・」
不意に昏い表情を浮かべた国王夫妻に公爵夫妻は首を傾げた。
「あら、アル達だってまだまだこれからがあるじゃない?」
「・・・いや・・・ダメなんですよ、姉上。」
「え?」
「アンリエットはもう子を孕めぬ体に・・・されてしまったのですよ。」
「私たちも気づかぬ間に、少しずつ毒を盛られていたようなのです。」
つい先日、その事が発覚しまして・・・・・・専属医師にはもう二度と、子は望めぬと断言されました。
そう言い切った国王夫妻に、公爵夫妻は絶句した。王妃アンリエットは第一子であるアレクサンドルを出産した直後から食事や飲み物に僅かながらではあるものの避妊系統の薬を入れられていたのだという。それは産後すぐの妊娠を避けるためでありアンリエットの体を考えての処置であったらしい。しかし、そこにある悪意が働いた。どうせ後継は生まれているのだからこれ以上の懐妊はなくていいだろうと。もし子を孕めぬと解れば王は新たに側妃を望まれるかもしれないと、邪推した輩が彼らの傍に居たのだ。一定期間を過ぎても、その薬を飲まされ続けた結果が今に至るのだと語ったアルフォンスは「全ては私の不徳の致すところなのです。その事にもっと早く気づいてやれていれば、アンリエットは・・・」と悔しさを滲ませた。
「ですから、将来アレクのお嫁さんとして私の娘になるのなら、義姉様の娘が良いと・・・・・・私が無理を言ってこの場を設けさせて頂いたのです。」
勿論、アレク自身もシェリーフルールと会うことを強く望んでいましたのよ。婚約に至らなくても、同じ王家の血を分けた従兄妹同士ですもの。お互いが支えになれればと・・・・・・と、王妃は儚げに笑った。
「そうか・・・そういうことだったのか・・・」
「ですが・・・アンリ?その、わが娘に会いたがっている貴女のご子息の姿が見当たらないようですけれど・・・?」
「それは・・・・・・うふふ、あの子ったら、私たち以上に張り切っているようですの。」
きっとシェリーフルールも好きだろうからと、淡い色のテーブルクロスのセッティングや愛らしい花々を活ける様にと、本来ならば私が指示しなければいけない事までやってしまって・・・・・・お陰で私が出来たことといえば、お茶菓子と茶葉を用意することだけでしたのよ。と、儚げな笑顔から、くすくすと、心底楽しいと言わんばかりの表情で語るアンリエットは「ですので、今一生懸命、自分を着飾っているのでしょう。もうしばらくお待ちくださいませ。」と言葉を繋げた。
「本当は客人を待たせるなんて、許されることではないのだがなぁ・・・」
「この一月、いつもは活発なあの子が急に元気をなくして、思い詰めたように部屋に引き籠っていましたからね。私達もどうしたものかと、様子を伺うことしか出来ずにいたのですが、お茶会に義姉様達を招待する事が決まってからは、また以前のような明るさを取り戻してくれましたから・・・ね。」
叱りすぎて、また引き籠られては面倒だと、国王夫妻は暗に言っているようである。そんな彼らを公爵夫妻は「まぁ、子供だからいいんじゃないかな?シェリルを嫌ってるとかそう言うんじゃなさそうだし・・・」と、割と寛容な姿勢を見せた。
そんな大人たちの談笑に、シェリーフルールはついて行けず、ふと、目に付いた、少し離れた場所にあるプランターに興味を持ち、引き寄せられるように近づいていくと、そこに植えられていたのは色取り取りのクロッカス。小さく控えめな花ながら、広い土地で数が揃えば見事な花の絨毯を作り出すのだが、こうしてプランターの中にあっても、充分目を楽しませてくれるので、シェリーフルールも思わず「・・・きれい・・・」と呟きうっとりと目を細めた。
「・・・・・・クロッカスのはなことばは『せいしゅんのよろこび』と『せつぼう』。」
「!!?」
「そして・・・むらさきのクロッカスは『あいのこうかい』、きいろのクロッカスは『わたしをしんじて』。」
同じ花だけど花言葉はちょっと違うんだよ。と、シェリーフルールのすぐ側にいつの間にか姿を現したのか、彼女と同じくらいの年頃の男の子が、熱心に花を見つめていたシェリーフルールを、同じような・・・いや、それ以上の慈しみを湛えた瞳で見つめていた。
「・・・・・・ほんとうはもっと、よいいみのことばをもつはなをえらびたかったんだけど・・・・・・きみに、『さいしょ』につたえたいことばをもっていたのは、クロッカスだったから・・・・・・。」
『いま』のきみにつたえてもいみがないのはわかってるんだけど・・・と、小さく呟いた男の子の表情はどこか切なげで、けれどそれも一瞬で、すっと姿勢を正すとシェリーフルールの前に跪いた。
「はじめまして、リヴィエールのかれんなおひめさま。ぼくはアレクサンドル・フラム・ドゥ・アルジャンテ。アレク、とよんでくれるとうれしいな。」
にっこりと、子供らしい笑顔を浮かべながらも、その凍えそうなほどの薄氷色の瞳には溢れ出さんばかりの熱情を秘めてシェリーフルールの薄紅色の瞳を見つめたアレクサンドルに、シェリーフルールの胸は自然とドクリと大きく跳ねた。
「あ・・・えと、はじめ・・・まして・・・わたし・・・わたくしは・・・・・・シェリーフルールと・・・もうします・・・・・・?」
何故だろう、挨拶をされたのだから自分もきちんと挨拶を返さなければいけないのに・・・・・・シェリーフルールは頭ではきちんと理解しているものの、いざ声に出そうと口を開くものの、先程、国王夫妻にしたような挨拶文が上手く口から紡げず、それどころか初対面であるはずなのに、心の何処かで「はじめましてじゃないわ。これで――度目よ。」と言う、自分の声なのに冷ややかで刺のある言葉が浮かんで来て――――――――――――――――
「っ!?」
ドクン・・・と、先程とは違う嫌な鼓動の音が響いた瞬間、シェリーフルールの小さな頭に、膨大な数の『記憶の波』が押し寄せてきた。
「・・・シェリル?」
「あ・・・・・・いや・・・・・・いや・・・・・・やめて・・・・・・ちがう・・・・・・・」
「シェリル!?」
「おねがい・・・・・・やだ・・・・・・・いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
頭を抱え、押し寄せてくる記憶を否定するシェリーフルールだが、どんなにやめてと叫んでも、その『記憶』は留まる事を知らず次から次へと押し付けていく。当然、そんな『記憶』に覚えのないシェリーフルールではあるのだが、やはり心の何処かでそれらが全て『事実だった』と受け入れている部分もあって、余計に、混乱してしまった彼女の全てが悲鳴を上げた。
「!!?シェリル!!?」
「アレク!?貴方・・・シェリーフルールに何をしたのです!!!?」
シェリーフルールの悲鳴を聞きつけて駆けつけた大人たちに、アレクサンドルも顔を青褪めさせて、ただ首を横に振った。
「わ・・・わからない・・・・・・ぼく、ふつうにあいさつしただけなのに・・・・・・」
「普通にしていて、何故こんなっ・・・・・・」
「シェリル!?シェリル!!しっかりするんだ、シェリル!!」
頭を押さえ、必死で何かを否定するように首を振り続けるシェリーフルールだったが、ふと、視界に映る、国王夫妻に責め立てられるアレクサンドルを見つけて、届かないと解っているのに、小さな手を彼に向かって伸ばした。
「シェリル?」
「・・・アレク・・・は・・・わるく・・・ないの・・・・・・わ・・・わたし・・・きゅうに・・・あたまが・・・・・・・いたくなって・・・・・」
「!すぐに宮廷医師を客室にっ!!」
「・・・・・・ごめんなさい・・・パパ・・・ママ・・・・・・アレクはわるくないの・・・・・・」
悪いのはいつだって上手く立ち回れない私なのだから―――――――そう呟いてシェリーフルールは意識を手放した。その直前、カラカラカラ、と、遠くで歯車が回るような音を聞きながら・・・。