1-7 精霊との出会い
なんだかんだで畑仕事もうまく言ってじいさんの手伝いは早々に亡くなった。
種を植えてすることが無かった、というのも一つの要因だが俺が新しいスキルを手に入れたからだろう。
スキル:畑仕事
こんなものにまで、と獲得した当初は思ったものの思いのほか便利で重宝している。
日本では水やりも適当に、むしろサボることすらあった俺だが、このスキルを手に入れてからこの作物は水がこのくらい、となんとなくわかるようになったのだ。
他にも肥料の作り方や世話の仕方がわかる。
じいさんにも十分任せられる、と言われたので一安心だ。
今日も昼の魔法練習までは一通りの畑仕事が終わったら見張りをする。
少しは早いが昼食にしよう。
今日は、というか今日も、じいさんお手製のサンドイッチだ。昼食は大抵これ。
しかもマジカルバッグの中は時間が止まっているようで、サンドイッチは温かいまま出てくる。
かたいパンに干し肉、野菜を挟んだ簡単なものだが、中々美味しい。
…これじゃあじいさんに頭が上がらないなあ。じいさんはなんでこんな森に住んでるんだろうか。
休憩がてらサンドイッチを口に挟みながらウィンを呼んでステータスの鑑定をする。最近は戦闘もないのになぜかレベルが上がっていた。
―――――
レオン・グンジヨート 人族 ***
Lv.4
HP:133/150 MP:1850/1850
攻撃力:118 防御力:94
魔法攻撃力:120 魔法防御力:100 素早さ:80
―――――
獲得スキル
―――――
[固有]スキル獲得確率上昇Lv.1
短剣 Lv:4
言語 Lv:5(Max)
社交 Lv:2
算術 Lv:5(Max)
料理 Lv:2
詐術 Lv:2
錬金術 Lv:4
読解 Lv:3
散策 Lv:3
鑑定 Lv:2
痛覚耐性Lv:1
畑仕事 Lv:1
―――――
称号
―――――
異世界人
女嫌い
旅人(仮)
勇者or魔王
―――――
畑仕事でレベルが上がるのは予想外だったがステータスの伸びは攻撃力が一番なのも納得がいく。
そう言えば最近鍬やじょうろが軽いと思った。この世界にプラスチックなんて便利なものは無いので分厚い鉄製か革製なのだ。
レベル以外に変わった事がないことで安心とともに残念な気持ちが芽生える。…本当にゲームみたいだなあ。
マジカルバッグの存在はじいさんには秘密にしてある。
俺のこの機能が一般的ならともかく明らかに珍しい。一点物とは思わないが可能性はある。それはマジカルバッグだけでなくマップ、ヘルプのこともだ。
悪用は避けたいし、何より俺の身が危険に晒されるのは頂けない。ばれない限り秘密にする。このスタンスでいこう。
特に変わったことは無い、と流し読みをしてウィンを閉じようとすると、あることに気づいた。
「…あれ、称号が、増えてる?」
新しい称号の存在に気づきよく見てみると、馬鹿にしているかのような(仮)の文字。悪意を感じる、むしろ悪意しか感じない。
これだと自称でどんな称号も手に入るじゃないか。
なんとか消せないかと奮闘するが成果はない。無情にもウィンは無言を貫いている。…いや、まあ、ウィンは何時も無言だけど。
「ウィンそりゃないぜ…消えないし諦めるけどさ…」
早々に見切りをつけて畑仕事を再開しようと立ち上がるとウィンのせめてものフォローなのか丁度スキル獲得の声が聞こえた。
―――――
スキル:探知を獲得しました
―――――
「―――」
突然の声に驚くことはなくなった、がやはり慣れないものはある。確認しようともう一度ウィンを開こうとすると突然じいさんの声が聞こえた。
「そろそろ魔法の練習の時間じゃよ」
「っ…驚かせないでくださいよ。もうそんな時間ですか…わかりました、片付けてきます」
昼になると毎回じいさんが呼びに来てくれるが申し訳なさは払拭されない。最近本当に時計がほしくなってきた。
☆
魔法について聞いてから畑仕事を任された当日は色々と詳しく畑について聞いていたので、昼からの魔法の練習は延期になった。
その後日からは朝に起きて昼まで畑仕事、それからじいさんが迎えに来て魔法の練習というスケジュールだ。
畑仕事同様そこまで進歩はないのだが宿題のような形で題を出されてそれをクリアする。
「こんなに早く魔力の使い方を理解した奴は見たことが無いのぉ…。本当に今まで魔法に触れてこなかったのか?」
じいさんに「体の中の魔力を感じるんじゃ」と無茶ぶりされてから数日、なんとなく体の中を温かいものが通っていることを感じた瞬間、魔力の使い方というやつを習得、と言うか獲得した。
―――――
スキル:魔力感知を獲得しました
スキル:魔力操作を獲得しました
―――――
「ええ、自分でも驚きました」
「う、うむ。まあ、早くて悪いことはないのじゃがな…。あー、魔力の使い方は十分大丈夫そうじゃからな、精霊との契約といこう」
いよいよ待ちに待った精霊との契約。
じいさん曰くスキルを手に入れなれなくてもある程度は使えるようにしておかなければ精霊魔法の使用は難しいらしい。
今まで存在…は知っていたが信じていなかった力が自分にあるのかも、その力を自分が扱えるのかも不安だったが杞憂だったらしい。
「まあ、準備期間は長くあったからな。下級精霊の中でも強い個体を呼べたと自負しておる。さ、ここに呼ぶからなんとなく感じ取ったら言ってくれ」
「感じ取ったりって…え…」
そう言ってじいさんは手のひらを上に向けてなにかを呟いた。
突然の無茶ぶりに困惑しつつも言われた通りじいさんの手の上の虚空を見つめる。
「わしは精霊と相性が悪くての。…呼ぶだけなら出来るんじゃが契約は無理じゃ。…どうじゃ?」
「う、うーん」
魔力を感じる時同様その手のひらにいる、という精霊を見つめるがそのまま森が見えるだけで一向に見えない。
これも長期戦か、と思ったその時。
―――狙ったように音が聞こえた。
「え…」
ともすれば耳鳴りのような、聞き逃してしまいそうな小さな音。
困惑しているとまた音が聞こえた。しかしそれは先ほどのような違和感のある音ではなくて――――
―――――
スキル:精霊目視を獲得しました
―――――
いつもの聞き慣れた音に安堵しつつもさっきの音は何だったのだろうか、と思考する。
「本当に耳鳴りってことも…無くは無いんだろうけど…」
自分の中のなにかが違う、と言っている。何かもっと大事な…
「なんじゃ?何か見えたのか?」
しかしそんな思考もじいさんの一言で霧散してしまう。理不尽な苛立ちを感じつつも無意識に柔和に対応する。
「―――あ、いえ。見えそうな気はするんですけど…もう少しいいですか?」
「ああ、勿論じゃ」
そう言えばさっき別のスキルを手に入れたな、とウィンを開いて確認する。
「これか」
そこには精霊目視、と新しいスキルの名があった。
名前から精霊を見るもの、と判断し早速使おうと意識する。するとぼんやりと光が見えて、目の前に黄色の光の球が現れた。
「おお…精霊って人型じゃないのか」
迷うことなくそれが精霊だ、と確信して驚く。
某異世界ものでは精霊は人型か獣型が多いがここでは光の球らしい。少し残念にも思うが気持ちを切り替えてじいさんに報告した。
「ん?どうした」
「ああ、はい。おそらく精霊だと思われるものが見えます」
遅くなりました