1-3 出会い
人生初の命の危険を感じるという貴重な体験をしている俺だが生憎そんな経験は1度で十分だ。
レッドウルフという見た目は赤黒い狼の魔物に出あって緊張と恐怖の中にいる俺。
残念なことに彼の目には友好的な色など全くなく、俺のことは食料に見えているのだろう。
全く勝てる気のしない、突然の戦闘が幕を開けた。
☆
かのように思われたが、これは戦闘では無く一方的な暴力だと訴えたい。
戦闘とは。
レッドウルフと戦闘中のはずの俺は突っ立って彼の攻撃を受けている。
一応避けようとするが避けようとすればするほど態勢が崩れそうになるのだ。
ナイフを構えた俺は自分からレッドウルフに向かうことができなかった。ナイフは構えたもののその場に立ち尽くしていたのだ。
レッドウルフはそんな俺の事なんかおかまいなしで飛びかかってくる。そしてその鋭い爪で傷を受けた瞬間、俺は新しい力を手に入れた。
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スキル:痛覚耐性を獲得しました
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耐性レベルがまだ1なので少し痛いが十分に我慢できる痛さだ。
わあ便利。HPが凄い勢いで減って行くのに全然痛くない!
されるがままだった俺もHPが半分を切ったあたりから少し焦りだし、ナイフを振り回す。が全く当たらない。
スキル短剣どこ行った。
そろそろ本当にヤバいのでもう逃げてしまおうかと思案していると突然後ろの茂みから声が聞こえた。
今日はよく背後から新しい出会いをするな。
「…そこの少年大丈夫かね…?」
じじい が あらわれた !
「お、おい…本当に大丈夫か?」
最初は軽い様子での言葉だったが俺の傷だらけの姿を見た瞬間本当に心配そうな声色になる。
痛くはないが着ずは沢山あるし服もボロボロだ。まあ、当然の反応だろう。
突然現れた老人に驚いたのかレッドウルフは俺から距離をとる。いやお前狼っぽいし匂いとかで分かんなかったのか?
これ幸いと俺はじいさんのほうへ走る。
「おじいさん!早く逃げましょう!」
これがフル装備した若者なら守ってもらうことも考えるが現れたのは老人ただ1人。さすがに盾にも使えないし置いて行くのも後味が悪い。
助けてほしいとも言えないので一緒に逃げようというのだが、なぜかじいさんは動こうとしない。
「それだけ元気なら大丈夫じゃな…。どれ、助けよう」
そう一言行ってじいさんはレッドウルフに向かっていく。俺は状況がつかめず呆然と見送るだけだった。
じいさんのしようとしていることを理解して慌てて止めようとした時には遅かった。向かってくるじいさんにレッドウルフもすごいスピードで飛びかかったのだ。
じいさん終わったな。
そう思ったのに爺さんはいつのまにか持っていた剣を振り上げていて、その瞬間レッドウルフは真っ二つに割れていた。
「…えっ?」
言葉にできないとはまさにこの事である。あれだけ俺がなすがままだった奴にまさかあんなにあっさりと完全勝利を叩き込んだのだ。
この世界で俺のステータスはものすごく低いかもしれない。
ああ、なんだか俺、町にいくのが怖くなってきたよ…。
☆
じいさんの家なう。
森の中に立派な木造の一軒家がありました。俺の向かっていた方向とは真逆でしたがね…。
嬉しい事にじいさんの好意で連れて行ってもらい治療してもらうことになった。
「いやあ、ありがとうございます。おじいさんは強いんですねー」
「んん?…まあな。しかしこの程度はふつうじゃないか?」
「いえいえ、そんなことないですよ!レッドウルフにしてはそうかもしれませんが、あの山奥からピンポイントで俺を見つけるのは難しいでしょう?本当にありがとうございました」
「ふぉっふぉっふぉ、そこまで言ってくれると助けた甲斐があったな。…しかしこその山奥にお主何故そんな軽装備で…?」
じいさんの強さが一般的なのかどうか鎌をかけたのだがレッドウルフはそこまで強い訳ではなさそうだな。まあ、俺はまだレベルが低いし見込みはある、と思いたい。
それよりも俺が追いつめられる立場になてしまった。申し訳ないが素直に言うつもりはないのでご理解いただこう。
「いやあ、旅をしていたんですがね…途中運悪く盗賊らに身ぐるみ剥がされまして…まあ不幸中の幸いと言いますか隙を見て逃げ出せたんですが、もう体力もなくボロボロで…そこをあの魔物に」
適当にそれっぽいこと言ったが盗賊いるよな…?これで居ないとかだったら嘘ばれるっていうか良いお笑い者なんだが。
「ふむ…それは大変じゃったなあ…ゆっくりと休んでおくれ」
大丈夫そうだな!よかった俺の推測が間違ってなくて!
「傷は…結構深いな…あまり痛そうではないが…」
「大丈夫ですよ…まあ、痛いには痛いですが我慢できないほどではないので」
レッドウルフに付けられた傷をじいさんに見てもらっているとじいさんが突然杖のような物を取って俺に向けた。
「ヒール」
「!?」
その瞬間俺のじくじくとした痛みは綺麗に消え、俺のHPも全回復した。
「え、ま、ほう…?」
魔物やステータスの時点であるかもしれないとは思っていたが突然使われるとは思っていなかった。
まさか、こんなじいさんまでも魔法使いだと言うのか。
驚いて固まっていると傷の具合をじいさんが聞いてきたので慌てて返事をする。
「え、あ、大丈夫です!まさかおじいさんが魔法使いとは思わず…」
「ああ、確かに最近は人族の魔法使いは少ないからなあ…。しかしわしは魔法が苦手なんじゃよ。まあ簡単な物なら使えるがな」
「いいじゃないですか、簡単でも使えるなら…俺も使ってみたいですねえ…」
思わず本音が漏れるが魔法使いは少ないらしいので隠さなくてもよかったかもしれない。
せっかくの機会なのでじいさんに魔法について聞くことにした。
「そうか、使えんのか」
「ええ、教えてくれる人もいませんでしたしね」
「なるほどなあ…しかしわしは魔法は…ああ」
「どうかしましたか?」
魔法は苦手、と続けようとしたのだろうが突然良い方法があったとでも言うように笑顔になって俺を見返してきた。
「いや、今度にしよう。もう今日はつかれたじゃろう?」
「あ、はい。ありがとうございました」
かなり気になったが根掘り葉掘り聞くのも、と思い素直に引き下がる。確かに今日は色々なことがあって疲れた。好意を受け取りそのまま休むことにする。
じいさんがわざわざ家にいないという子供さんの部屋を貸してくれたのでありがたく使わせてもらう。明日が楽しみだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。