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選ばれたのは魔王でした。  作者: 草原
第二章 クラント王国とティア
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2-15 奴隷紋

けたたましい叫び声で目が覚める。

未だにうすぼんやりとしている意識は魔力の回復が完全ではないからだろうか。


眠気の取れない頭のまま顔を上げると、昨夜持ってきた少年が暴れているのを見つけた。

ベッドの上で激しく暴れているらしかったが、ランに魔法で抑えられているのだろう。振動はない。


「…ラン?」


「え、あっ!おはようございます!」


少年の傍で魔法を行使していたランが俺の声に気づいてふよふよと近づく。そのまま綺麗にお辞儀をして、また困ったように笑った。


「すみません。起こしてしまいましたね…」


申し訳なさそうな彼女の言葉に笑いながら首を振って答える。

窓の外を見ると、まだ朝とまではいかないらしく薄暗い空が見えた。それほど時間は経っていないらしい。


「いや…これは?」


「その…、急に彼の首後ろの紋様が光りだして…痛むらしく」


「…紋様?」


会話の中で随分はっきりしてきた意識を自覚して、立ち上がる。相変わらず叫び声はひどいものだった。時折せき込みつつも、その痛みが尋常ではないのだろう。背中を反らして、首をできるだけ伸ばしているのがわかった。


そのままベッドに近づき、暴れる少年の裏に回る。


「なんだこれ」


「…えっと、病気とかではないみたいですね?」


何かの花、のようなものに鎖が巻き付いた模様だった。どちらかと言えばタトゥーにも見える。

場所のせいもあって、首輪に見えなくもない。


「…これが原因だろうけど、どうにもなぁ」


そもそも、盗んだ人なので医者に見せるのも憚られる。そもそも珍しいらしい翼を見ればすぐに問い詰められるだろう。


「回復魔法は?」


「あ、レオン様が起きたらそのタイミングでしようかと…魔力も随分使いますし。その際にこの紋様にも手を出そうかと」


「そうだな…まあ、」


ちらりと少年の体を見る。ほぼ全裸のようなままでもってきたので、そのままだ。一応元々着ていた布は巻いているが。


目立った外傷はないが、翼の傷がひどい。


「これ、戻るのか?」


止血されているらしい翼の付け根を眺めながら問う。俺たちからしてみれば、腕がちぎれたようなものだろう。


「勿論!私、これでも光の上級精霊ですから!」


ふふん、と胸を張る仕草にどこかデジャヴを感じながら頭をなでる。ランが凄い事は理解しているが、問題はその魔法を俺の魔力で十分に行使できるかどうか、だろう。


いくら精霊が強くても、魔力が無ければどうにもならない。


「まあ、とりあえず応急処置程度に回復させてからだな。治らなかったら、協会にでも行こうか」


「協会に?」


「なんか資料とか、あるかもしれないしな…まあ、こいつが見つからなければいいんだし」


ぽつりとつぶやいて、未だに全回復しない魔力に辟易する。毎日この調子じゃ、罪悪感も募る。目下の目標はこの模様の痛みだろう。


「まあ、今日は…ランに任せる。この部屋は防音してるし、数日はもつだろ」


「はい、そこは大丈夫ですよ。一番厄介なのはこの堕ちた翼です」


「堕ちた翼?」


少年の背に生える、片方しかない翼を見る。

どう見てもヘルプで聞いた白翼とは言えない。漆黒の翼だった。


「私も、この魔力が蔓延すると流石にまずいですから…抑え込んで浄化してしまうのが一番先です。幸い彼は翼のみですし…まだ浄化は可能ですから」


「ふうん、まあ治るならいいよ。…危なくなったらやめてもいいんだし」


嫌な魔力、というものが精霊に対して毒であることは理解している。もしランが無理だというのならそのまま翼をそぎ落としてしまえばいいのだ。

いくらかの罪悪感を感じながら、しかし優先順位が存在するのも事実だ。


「……よろしく。お腹も減ったし飯買ってくるよ」


「あっ、はい!ちゃんと誰か連れて行ってくださいね!」


部屋を出る間際にそう叫ばれて、心配されてるなあと笑った。







街に出て、屋台の簡単な飯を買いに行く。

これが存外美味しく、安い。おそらく観光客だけでなくこういった時間のない者にも重宝されるのだろう。


「おじさん、これ一つ」


「まいど!」


金をはらって、買った肉にかみつく。塩のみの味付けだが、まあ悪くはない。


「あれ、レオンさん?」


突然後ろから名前を呼ばれて振り返る。

この世界に知り合いらしい知り合いもいないので、直ぐに誰かは思い至った。


「ああ、スタークさん」


先日、図書館で世話になったスターク・グランチェだ。


「偶然ですね。レオンさんは図書館に?」


「いえ、少し暇していたので観光がてら」


「ああ!そういえば数日しか滞在されないのでしたね」


「スタークさんは?」


肉をさっさと食べ終え、おじさんに串を押し付けつつ尋ねる。

スタークさんは困った様子で答えた。


「そう、ですね。それが…欲しい者が見つからなくて」


「探し物?」


「ええ。実は奴隷を探していましてね」


「奴隷、ですか」


あまりにもタイムリーな話題に驚きつつ、思わず顔をしかめて尋ね返してしまう。

まあ、しかめているようには見えなかったらしいが。


「はい。実は研究職についているのですが、通常の生活がままならず」


「…ええと?」


「ああ、食事や睡眠を忘れてしまって。いや、お恥ずかしい。同僚に奴隷でも買って管理させれば、と言われて出てきた次第ですよ」


「へえ…それじゃあ今から…えっと、奴隷を買いに?」


「もう2件ほど見てきましたが、ね。これだと思う者がおらず」


「そんなもんですか…」


歩きながら雑談をして、自然と二人とも広場のベンチに腰掛ける。

別に、奴隷制度が嫌なわけではない。俺の世界には無かった制度だし、利点もあるだろう。やめよう、と声を上げて止めれるようなものでもないことは理解している。


ただ、感情が複雑なだけだ。

人を殺すことには余り罪悪感を抱かないくせに。


「…ああ、レオンさんは奴隷制度がお嫌いですか」


俺の気持ちを幾ばくか感じ取ったのだろう。申し訳なさそうに笑った彼にいえ、と首をふる。


「ただ、うちの国にはなかったものなので戸惑いの方が大きくて」


嘘は言っていない。旅人の設定だし、多少は事実も入れておけば真実味も増すだろう。


「なるほど。しかし奴隷もそう存外悪いものでもないんですよ。犯罪奴隷ともなれば少し難しいですが…。身寄りのない子供や生活の苦しい家庭の生命線でもあります。そう待遇も悪くありません」


「…あれ、でも他種族は?」


「ああ、あれは昔の話ですよ。この国は確かに他種族を嫌っていますが、すでに奴隷化は禁止されています」


「…え?」


しかし確かに、あの少年クプルティアは奴隷だった。

辻褄の合わなさに一瞬止まり、彼の言葉の真偽を探る。


「えっと、じゃあこの国に他種族の奴隷は?」


「もう粗方祖国に受け渡されたか、まあ処分されたでしょう。いるなら、まあ後ろ暗い組織…若しくは貴族の…でしょうね」


「ああ…なるほど」


こくり、と頷いて合点がいく。多分あれは、後ろ暗い組織だったのだろう。


「興味が出ました?」


「ええまあ。待遇が悪くないってのは?」


「昔は酷かったらしかったですけどね。今は奴隷にも最低限の保証はあります。衣食住は主人の義務ですし、給金も支払います」


「それは、確かに好待遇ですね。ただの従業員と変わらないような気もする。昔は?」


「あー、割と、使いつぶされていましたね。奴隷も多かったですし、何より奴隷紋が普及し始めた辺りですから」


ピクリ、と肩が反応する。奴隷紋、と聞いて何となくなるほどと理解してしまった。

確か、あの子は奴隷状態であったし、何より今は禁止されているらしい他種族だ。昔にはあったというその奴隷紋が施されていてもおかしくはない。何より、それさっき見たやつでは。


「奴隷紋とは?」


「あれ、ご存じないですか?奴隷に付与していた魔法ですね。主人の命令を背くと激痛が走る代物ですよ。まあ、激痛だけなので死には至りませんがね。これも今では禁止されていますよ。今主流なのは新しい探知紋ですね。こう、場所がわかるという」


「なるほど…」


「ああ、すみません。時間をとってしまって」


「いえ、とても有意義な時間でした。奴隷、いい子がいるといいですね」


「はい、ありがとうございます。また」


「またどこかで」


立ち上がって、通りの方に向かうスタークさんに手を振る。

なるほど、これが棚から牡丹餅。


「まあ、その奴隷紋をどうやって消すかだよなあ」


そこまでスタークさんに聞くのも手だが、流石に違和感を持たれるだろう。

話題を提供したのはあちらだし多分おかしなところはなかった、はず。


図書館に行けば資料があるかと一瞬考えるが、それよりも簡単な解決方法を思いついた。

そしてその手段を思いついてしまったことに苦笑する。


「あー、なるほど。これが殺人は癖になる」


ぽつりと呟いて、俺はランの待つ宿屋に足を向けた。





「奴隷紋?」


「やっぱり知らない?」


ランに奴隷紋を知っているかと聞くが、やはり首を傾げられた。

まあ、あの紋様を見て何も言わなかった時点でそうかもしれないとは思っていたので、スタークさんから聞いた話を伝える。


「へえ…?いえ、知らないですね…。でも多分解除はできます」


「えっ、出来るの?」


物騒な解除方法を思いついていただけにその言葉に大きく驚く。


「おそらく。これって多分闇魔法の一種ですし…相性がいい。私だって、ちゃんと解析していたんですよ!」


「へえ…いや、ありがと。うん、じゃあ全部任せようかなぁ」


「はい!…ただ、レオン様の魔力量だと何回かに分けて治療と解除を行うので数日かかりますけど…」


「あー…」


まあ、仕方ないと言えば仕方ないと割り切ろう。

俺の魔力も少ないわけでもないのに、それでも数日かかる程瘴気と傷がひどいのだ。


「了解。暫くはキイとサキの出番はないな…」


あの二人はコスパが非常に悪いので。


「あっ!そういえばレオン様、誰も連れて行かなかったでしょう」


「…あー、忘れてました」


「もう、何かあってからじゃ遅いんですよ」


「そう、そうだな…。ん、俺もう少し寝るから…適当に回復しててもらえる?」


「了解しました!大丈夫ですよ、レオン様の魔力は結構多いので…3日もあれば感知します」


「うん。働いて、図書館にでも行って大人しくしてる」


部屋の隅に毛布を持っていき、適当に寝床を整える。

あと三日、と小さく呟いて息を吐いた。


宿屋に追加でお金を払わなければいけないし、食事代もかかる。

その場しのぎにしかならないが、働くべきだろう。


ギルドのランクを上げれば少しは余裕が出てくるだろうか。




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