2-11 図書館と親切
大通りを抜けて、聞いた道を進んでいくと大きな建物が見えてきた。
白い壁で追われた綺麗な建物だ。
「ここは本当に白い建物が多いなあ」
「…どうしてでしょう?」
初めて自分がこの国に来たときに思った疑問をランも呟く。あの時はデルに意味深なことを言われて終わったが本当に不思議だ。
「…図書館に何かあるかも知れない」
「ああ、そうですね!」
図書館に入ると静かな雰囲気がこちらにも伝わってくる。
どこの世界でも図書館は静かなものらしい。
「…いらっしゃい」
声の聞こえた方を向くと小さな女性がカウンターにいて驚いた。
なんで女性なんだ。
「ああ、こんにちは」
「これに名前書いて。一日金貨一枚」
簡潔に短く話す彼女はその際ピクリとも表情を動かさない。なんだか親近感を感じてにっこりと笑いかけた。
「すみません、レオンって名前なんですけど、ギルドから連絡が入ってませんか?」
「…少し待って」
名前を伝えた途端ぴく、と眉を上げて俺の顔を見上げてくる。
少女らしい見た目の為か嫌悪感は薄いが、彼女はおそらく成人は超えているだろう。なんとなく、そうおもう。
パタパタと奥の部屋に走っていく彼女を見ながらぼーっと待っていると正面から別の客がくるところだった。
「あ、すみません」
「いえ。…この国は初めてですか?」
「そう、ですが…」
通り過ぎようとしたところを、何かに気づいて俺の目の前で止まる。幸い彼は男性で特に迷惑というわけではないが、どこかで会っただろうか。
「…ああ、良ければ図書館を案内させていただけませんか」
「え?」
「いえね、用事も住んで暇だったのです」
彼の要望に少し考えて、別にいいかと思う。この図書館は結構広い様子で、一人で目当ての本を探し当てるのは骨が折れそうだ。
ここに詳しい人が居てくれれば少しは楽かもしれない。
まあ、いくら暇でもたまたまそこで会った人に案内なんて申し込むだろうか、と疑問には思うが。
「…お願いします」
「おお!ありがとうございいます!私はスターク・グランチェと申します」
「あ、レオンです。よろしくお願いします」
何事もなく自己紹介を済ませるとちょうど受付の人が戻ってきた。
彼女は俺の方を一瞬見て少し驚いたように目を見開く。しかしそれもすぐに元に戻ってしまった。
なにを見て驚いたのか気になったが聞くわけにもいかず押し黙る。
「お待たせしました。…確認が取れたのでお金は必要ありません。ようこそクラント図書館へ」
にこりともせずに言いきった彼女に苦笑しつつスタークさんと顔を見合わせて図書館へ入る。
何処かのお城か、というくらい見事な内装に驚きつつぐるりと見回すとスタークさんがクスクスと笑うのが聞こえた。
「ああ、すみません。本当に珍しい様子なのでつい」
「いえ、あのまずは――」
スタークさんに詳しく知りたいことや読みたい本を伝えると嬉しそうに頷きながらよく聞いてくれる。
純粋にいい人だと思った。
「ではまずは魔王と勇者などのおとぎ話のエリアに行きましょうか」
「お願いします」
さながら司書さんだなあ、と思いながら迷いなく歩くスタークさんについていく。
要求した本は四つ
魔王と勇者について、魔法について、種族について、この世界の国々についてだ。
自分と関係のあることだし、と魔王と勇者のおとぎ話は子供向けのようだがすこしワクワクしている。
どうやらそのエリアについたらしくスタークさんが立ち止まった。
「ここですね…わかりやすいのは…この辺りでしょうか」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、少し読んで試してみてください。良ければあちらで座って読みましょう」
彼の指さす方向を見ると大きな読書室のようなものが見えた。ますます充実している。
ペラペラと何ページかめくってみると挿絵もあり、文章もわかりやすい。
おとぎ話ではあるものの人気はあるらしいので十分だろう。
確認し終えたのを見てか、スタークさんがもう一冊持って手渡す。
「事実だけで構成されたこちらは物語というか、歴史書ですね。どうですか?」
彼が進める本を疑う気持ちも起きず、確認するのも面倒になったので笑顔で受け取って席に座って読もうと促した。
「では私は他の本を探してきます」
笑って別のエリアに歩いて行く彼に思わず脱帽した。こんなに優しい人もそういない。
「…行こうか」
「はい」
ランに一声かけて読書質へ向かう。まばらに人はいるものの結構空いていてよかった。
適当に座って本をペラペラとめくる。
本は昔から好きだった。すこし、楽しみだ。
☆
むかしむかし、人族が平和にくらしているとき。
とつぜん魔族が戦争をしかけてきました。
魔族のひきょうな攻撃に、人族はおされていました。
しかし神様は人族をみすてませんでした。
勇者となのる男が立ちあがったのです!
勇者は三人の仲間といっしょに、魔王を倒しに行きました。
勇者たちはとてもきよい心を持ち、そして神様の恩恵をうけていました。
魔族たちはとうとう勇者にたおされたのです!!
勇者たちのはたらきをたたえ多くの国民が彼らをほこりに思いました。
☆
読み終わって本を閉じるとパタン、と存外音が大きく響いた。
「…」
「どうでした?」
「うわ!」
ひょこ、と横から顔を出したのはスタークさん。驚いて思わず大声を出してしまう。
「ああ、すみません。集中してたんですね」
「大丈夫です。…そうですね、まあ、予想通りです」
「ああ」
クスクスと笑う彼に、これが癖なのかもなあ、とふと思った。
本は普通に面白かった。よくある勇者と魔王の話ではあったが。
というか児童向けすぎてよくわからない。
「この本は結構着色されてるから…こっちも合わせて読んで欲しいですね」
そういうと先ほど歴史書と言っていた本を取り出す。
「ありがとうございます」
そういってすぐに読み始めると隣でクスクスを笑う声が聞こえた。
☆
私は著者のヒスティという。
今回は私たちのよく知る勇者について言及していきたいと思う。
まずは勇者の出身国だが、これは史実通りアクリル聖国で間違いないだろう。
主神ハリアンを称え、繁栄した国だ。この国は今でも大きく栄えていることでも有名である。
宗教に関してはあまり詳しくは書かないが、聖アクリル王国はなかなかに大国である。
勇者の一件が絡んでいるとみて間違いないだろう。
また、勇者は第四代国王の息子、リアント・リア・アクリアルと言い、王位継承権はあったものの魔王との闘いのあと急に病にかかり第二王子のグラン王子が第五代国王へとなった。
勇者は王子だったころ妹のことを大層可愛がってたらしいが、その妹のことは詳しくは残されていない。桃のように華やかで可愛らしく、美しい女性だったらしい。
勇者は優しい人柄でとても戦闘で名を馳せるような人物ではなかったようだが、勇者という称号のせいか戦闘に好かれるらしかった。
戦争という戦争に顔をだし、一時期は戦争の悪魔とも呼ばれたと残されている。詳しくは隠されているが事実のようだ。
しかし勇者も所詮は一人の人族であり、人を殺すということにはいつまでも馴れなかったらしい。
彼は魔法が使えなかったが精霊が見えたため精霊魔法が使えた。
精霊が見えたということから彼は精霊目視のスキルを持っていたと推測される。
また、特に仲の良かった精霊は光の精霊で名をデルというらしい。
賢者アデルは―――
☆
「…」
「…どうですか?」
「…面白かったです」
事実だけを抜き取ってあげて、しかしそれだけでなく著者の意見や推測も混ざっている。
全てはっきりと事実だとは言えないと最後に注釈がつくのもこの著者らしい。
「それは良かったです!どこがよかったですか?」
「…そうですね、約束の辺りなんて感動的でした」
「ああ!いいですね!一冊目だと書かれてすらいませんから」
「ええ、一冊目は流石児童向けというか…。大事なところがほぼ無かったですね」
それから数分スタークさんと話し合い、とても楽しい時間を過ごした。
後後進められた本もきっちり読み終わって、図書館の閉館時間と共にスタークさんと別れを済ませる。
「いろいろとありがとうございました」
「いえいえ、こちらも久しぶりに語り合えて楽しかったです。どちらにお泊りで?」
「ええと、梟の止まり木に」
「ああ。時間が空いたら伺っても?」
「それは嬉しいですね。あと数日しかいませんが楽しみにしています」
別れるとランと二人っきりになるとランがニコニコしながら話しかける。
「楽しかったですか?」
嬉しそうに聞くランをほほえましく思いながら小さく頷く。
確かに知らなかった事を知れたのは良かったと思う。しかし知らなかったこの世界の闇まで知った気分で少し気落ちしていること事実だ。
そんな俺の様子に気づいたのか、今度は打って変わって心配そうな口調で聞いてきた。
「…どうかしましたか?」
「ああ、なんていうか、人族って…」
一概に悪い、というのもなんだか違うような気がして言いよどむ。
はっきりと言わない俺にますます心配そうにランが眉を下げた。
「…奴隷とか、差別とか、初めて知ったんだ」
「ああ…レオン様は知らなかったのですね」
合点がいったように悲し気に笑う彼女に思わず頭をなでる。
呼んだ本にはこうあった。
人族は中でも他種族を嫌い、人族領にいる他種族ははぼ奴隷である、と。
確かにこの国にきてから人族以外の人を見かけた事がない。
ああ、精霊族は別にして唯一見たのがこの間の天翼族で、その彼も例に洩れず奴隷だった。
「この国だけの価値観で動くのもどうかと思うし、気ままな旅だと思って他国に行ってみるか」
「いいですね!私も沢山の国を見て回りたいです!」
無邪気にはしゃぐ様子を見て意図せず顔が綻ぶ。実際に綻んでいるかは別として。
「さっさと帰って明日に備えるか」
「はい」
元気になったランを見てよかった、と胸をなでおろしてこれからの生活に不安を覚えた。




