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選ばれたのは魔王でした。  作者: 草原
第二章 クラント王国とティア
22/27

2-10 これから

 宿屋に戻り食事を済ませて自分の部屋に戻る。

 ごろん、とベッドに寝転がって目を閉じると、これからの不安が押し寄せてくる。


 元々自分は日本という平和な国の一般人で、しかも孤児だった。そのせいか、異世界に突然来てしまったという状況に混乱しつつも、元の場所に戻りたいとはあまり考えなかった。

 …少しは考えたのかもしれない。しかしそこまでの感情を家族に向けることができなかった。

 孤児は孤児でも、随分と前に孤児院は出ている。当たり前だ。アルバイトをはじめ、苦しいながらも自力で生活できるようになり、しかも就職活動までしていたのだ。他の成人もしていない子供たちのいる院にそんな俺を養う金は無かった。まあ、金が安定して手に入るようになってからは自分から出て行ったのだが。


 そういうわけで、俺は異世界に来る数か月前まで一人暮らしだった。


 異世界に来てから考えたことはこれからの当面の生活への危機感だ。

 金もない、情報もない、家も、身分も、味方も。


 そんな状況で何故あんな突飛な行動が出来たのか、いまだに少し疑問に思っている。

 まあ、混乱していて少し、大胆に楽観的に考えていたかもしれない。


 そして運のいいことにじいさんと出会い、今、そこそこの生活が出来ている。

 金があり、味方がいて、身分がある。


 レオンはここで、自分は何をしたいのかと思った。


「なあ、ラン」


「はい」


「どうして俺は狙われているんだろうか」


「…」


 えっと、と眉を寄せて考える彼女から視線を外し、もう一度自分で考えてみた。


 少し前までは、嫉妬だろうかと思っていた。

 じいさんに推薦されて試験を受け、合格。そしてFランクの冒険者としての身分を手に入れた。


 昔、孤児という事でいじめられていた身としては目立つことは避けたかった。しかしそれと同時に押しに弱いというのもある。

 突然あんな状況に身を犯されて、さあ戦いましょうといわれても、拒否することができなかった。


 何もなかったかのように生活を続けて、なぜか自分に敵意を向ける人が出てくる。


 なぜだろうか。じいさんの家に残って、平凡な一生を送っていればよかったのだろうか。


「なんか、嫌になってきたなあ」


 元々そんなに確固たる意志があるわけではなかったのだ。それが、襲撃、殺人、戦闘という今まで体験することのなかったことが多すぎて、ますます迷宮入りしている。


「よくないな、なんか、俺らしくない」


 自分はこんな深く考えるような性格ではなかったはずだ。自分の手を額に持って行き、冷たさを感じる。


「ああ、もうすぐ、冬か」


 じいさんに会う前は冬の少し前だった気がする。

 そう言えばあの作物も育てている途中だった。


「あの」


「ん?」


 今まで黙っていたランがためらいがちに話しかけてくる。自分の考えに耽っていたレオンは丁度いいとランに向き直って話を聞く体制を取る。

 今は少しでもこの気持ちを晴らしたかった。


「少し、考えてみたのですけど」


「ああ」


「デル様が、黒い何かがいた、という話をしていましたよね?」


 そう言えば、とあの時のデルとの会話を思い出す。煮え切らないような仕草でそんな事を言っていた気がする。


「黒くて、悲しい、何か?」


「はい。その、関係あるかわからないんですけど、街中で私もそんなものを感じたような気がして…」


「…ほんと?」


 何か手がかりがあるかもしれない。自分が狙われている理由が。


「どこ?」


「それが、わからなくて…」


 一瞬しか感じなかったその気配に気づきはしたもののそこまで気を配ることもなく、通り過ぎたと。後から俺に聞かれてデルの言葉を思い出して思いいたったらしい。


 小さく縮こまりながら謝るランにそんな表情をさせている自分に情けなくなった。


「ごめん」


「いえ!レオン様が謝ることでは!」


「いや、そうだな…。まずは誰に狙われているのかだけど」


「あの、それですけど」


「ん?」


 恐る恐る、と言った様子のランに話を促す。


「鑑定、したのでは?」


「…そういえば」


 そういえば、した。内容は全く覚えてないが、確かにした。

 それであの暗殺者のレベルを知ったのだ。


「ウィン、ログを…」


 慌てて思わず声にだして言うと、いつも通りウィンが現れる。しかしウィンを見たレオンは大きく目を見開いて固まった。


「お前…触らなくても声で操作できたのか…」


 なんとすでにウィンはログのページを開いていたのだ。というかログ何て項目はないのだからレオンの指すログ、というものを理解してページを広げている。そして声で操作できるということは。


「あー、思うだけで、いいんだ」


 今更タウン。


「えっと?」


「いや、アイツのステータスか」


 スクロールしながら探すとすぐに出てくる。あれから戦闘はしたもののログに表示されるものは少ない。すぐに、暗殺者の情報はわかった。


「えっと、名前はクプルティア・リ・ローチェ。クプルティアが名前か。天翼族…?」


「天翼族っていうと…」


 ウィンに大きな可能性を感じで二窓できないかやってみると、出来た。


「なんでもありかー…」


 そのままヘルプから種族を選択する。


「天翼族、あった」


 ―――――

 ・天翼族

 グランフォースに住む種族の一つ。人族と同じ容姿をしており、大きな特徴は背中にある翼です。多くの天翼族は純白の翼を持ちますが、稀に別の色の翼を持って生まれます。また、成長と共に現れる光輪を頭に持つものは天翼族の中でも珍しく多くの者から尊敬等の感情を獲得します。天翼族は神族に最も近い存在とされており、そのことを誇りに思う天翼族は他種族との交配を嫌います。純血が重んじられ、古の条約を重視しています。

 ―――――


「へえ、天使か」


 つまりはそう言うことだと受け取る。羽に、輪まであるならそれは天使だろう。多分。


「天使?」


「知らない?」


「…いえ、天からの使いですか?」


「え?…そう、なのか?」


 いまいちあっているのかわからないがニュアンス的にはあっているのではないだろうか。


「ちょっと見てみたいけど、敵だしな」


「でも天翼族が人族領にいるなんて…」


 訝し気な様子にどうして?と聞くと胸糞悪い話が出てきた。


「人族は、その…他種族を圧倒的に軽蔑していて、えっと…奴隷が一般的だと」


「…そうだね。彼も奴隷だ」


「ああ」


 悲しそうに納得するラン。なんとも人族の闇の深さを知る。


「あとは、ハリアン教第二諜報部隊員?なんだこれ」


「…さあ?宗教じゃないですか?」


 まあ、ハリアン教という宗教なのだろうということはわかる。

 問題は何故その諜報部隊が自分のことを狙っているのか、ということだ。


「固有のスキル…飛翔か…」


 誰でも小さい頃空を飛んでみたいと思うものじゃないだろうか。レオンも例外ではなく、鳥に憧れたことがあった。


「やっぱり、強いなあ」


 特筆すべきはレベルとステータス。レベル上げをしたといっても一日では限界がある。さすがに今戦ったら、負けるかもしれない。

 スライムとの戦闘で上がったレベル。元々17だったが一気に上がって35。キリの良いところで終わってよかった。



「わかりませんけど、四人いれば、負けないと思います」


 少し怒ったように言うランに、なんだかおもしろくなって笑うとランも途端に笑顔になる。

 改めて、一人でなくてよかったと思った。


「そうだな、明日は…ハリアン教の教会でも言ってみるか」


「図書館はいかないんですか?」


「ああ…そういえば」


 何時かは行きたいと思っている。でも、どちらが先だろうか。


「好きな方でいいと思いますよ」


 にこっと先ほどとは違った笑みでそう言うランに苦笑して、少し思案して、決めた。


「じゃあ、図書館にしよう」


「はい!」


 教会に、行きたいとは思わない。あのかたっ苦しい感じがそもそも好きではない。

 しかも、宗教、教会で思い出した。あの襲撃者も教会の人のようだった。

 あの装いから全く関係がないなんてことは無いだろうし、少し怖いと思ってしまった。


 殺した時は何も思わなかったのに、じわじわと何か嫌な気持ちが芽生えてくる。

 あの、肉を切った感触。どうも忘れられない。


「…お休み」


「はい。おやすみなさい」


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