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選ばれたのは魔王でした。  作者: 草原
第二章 クラント王国とティア
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2-9 レアな黄色

バレンタインなので

「あー、倒しすぎ?デルー!ちょっと戻って!」


 夜、すっかり辺りが暗くなった頃。

 俺たちは昼からずっと広い草原、通称スライム草原での魔物狩りを終わった。


「スライムは解体しなくていいしいいな!しかも倒しやすい!」


 リリアナさん曰くここら辺で一番危険な魔物がでるらしかったのだが…まあ、あの三人の魔法に敵う訳もなく。

 というかスライムは魔法攻撃が苦手らしく、デルの中級魔法一発で沈んだ。


 なんて素晴らしいレベリング方法だろうか。


「ちょっと、サボるな」


 しかし弊害、というか欠点もある。


 あちこちで現れるスライム。そこにデルが雷槍を無作為に放つ。するとどうだろう、スライムは死に、後には魔石が転がるのみとなる訳だ。

 そしてその魔石は勝手に俺のマジカルバックに入ってくれない。いくら離れた場所の物でも入れられると言っても限度はあるらしく、俺が目視でき、尚且つ俺から半径2メートル以内が限界だ。


「もう絶対やらない」


「ほ、ほら、他の下級精霊にも手伝わせてますし…!」


「呼んだ?」


「ああ、デル。ちょっとスライム狩りストップ」


「ん」


 頷いて俺の肩に座るデルは魔石の回収を手伝う気はないらしい。

 俺もサボりたい。


「もういいんじゃねーか…?こんだけあれば金には困らねーだろ?」


「いや、スライムの魔石って高いの?」


「知らん」


「…」


 数はあるものの、下調べも無しに来たので相場がわからない。


「というかスライム沸きすぎじゃないか…?結界の範囲でしか狩ってないのに」


「あー」


 もともと乱獲する予定ではあったが、他の冒険者もいるし見つかると色々と面倒だ。俺は剣士で通っている上にこの前の試験で顔もさらしている。

 よってランの結界で俺を目視できないようにして、デルもその範囲でしか戦ってない。それなのに、この成果。


「なに」


 汗をかいて目線をそらすキイに詰め寄ると、居心地がわるそうに笑った。


「まあ?スライムの時間をちょーっと弄って繁殖させたり?」


「…通りで魔力の減りがひどいと」


「ごめんって、でも役に立ったろ?」


「…まあね」


 レベルが上がるたびにMPは増えているはずなのに、減りの方が早かったのはそのせいか。

 実際レベリングもはかどったし、魔法の使用は控えていたみたいだが…。先に一言欲しかった。


「今度からは事前に言っとけ」


「おう」


 悪かった、と謝って魔石回収に戻るキイ。まあ、俺は何もしてないのでそんなに強くは出れないんだが。

 いくら精霊が俺と契約しているからと言って、三人の成果俺に入るのは楽過ぎた。これまでの時間、俺はデルが逃したスライム数匹を殺しただけだ。


「あー、ほんと足手まとい」


 髪をわしゃわしゃとかいて、よしっと気持ちを切り替える。


「もっかい魔力感知いくぞー」


 魔石は魔力を保有している。よって魔力感知でどこにあるかなんとなくわかるのだ。

 まあ、気づいたのは結構後だったんだが。


「ん、あと15個」


 マップで場所を確認してからデル達に知らせる。

 これでほぼ取り残しは無いはずだ。




「帰るか」


「ん、付き添いは」


「あー、ランで」


「はい!しっかりお守りしますね!」


 他の二人は軽く別れの挨拶をして消えていく。

 何故か三人の間で俺を守るために誰か一人は着いていることが義務と化しているらしい。そのせいか、思えば俺はここ最近一人になっていない。


 今回ランを選んだのは単純に結界が張れるからだ。今、何故か襲撃されている俺は少しでも防御態勢を整えておきたい。


「帰りも走るけど」


「大丈夫です!」


 ランは光の精霊というだけあってスピードが半端ない。そりゃあ流石に一秒に地球七周は無理だろうけど、俺の全力疾走に普通についてくる。


「うっし」


 そう意気込んで、俺とランは東の門に向かって走り出した。



 ☆




 門につくとギルドの証明書の提示を求められる。

 行きも見せたのに帰りも見せるとは面倒なことだ。


「あ、君…えっと、レオンくんだったか」


「ん…?」


 証明書を見せて、騎士の顔をみると突然声をかけられる。

 何となく覚えている、気がする。最初に入国したときの門番だ。


「ああ、あの時の」


 取りあえず鑑定して名前を確認する。カルザック、ね。

 鑑定はこんな時も便利だ。


「ああ、無事に冒険者になれたみたいで良かった」


「はい」


「あー、薬草採取の任務?」


 意外と世話焼きらしいカルザックは初任務と見たらしい。残念だったな。


「いえ、討伐依頼ですね」


「へえ、そりゃ度胸あるね…。何の討伐?」


「…イエローカクタスです」


 一瞬何の討伐依頼だったかすっかり忘れていて焦った。イエローカクタスとか、今日見てないからなあ。


「まあそこら辺が妥当だよねー。でも君、依頼失敗でしょ」


 ニヤニヤと笑って肩を叩く姿にイラッと来たが、気にしてない風を装って否定する。


「いえ、しっかり討伐しましたが」


「え?だってレオンくん、汚れてないじゃん」


「―――着替えましたからね」


 そう言ってカバンを叩くとああ、と合点がいったようでごめんごめんと笑った。


「俺の慧眼も、まだまだかー…ん?」


「それじゃあ」


「あ、ああ」


 まだ何かあるようなカルザックを残して、俺は足早に関所を抜けてギルドへ向かった。




 ☆




 このクラント王国に入国する前、つまりじいさんの家から出た後の話だ。

 クヌール森林を抜けると砂漠が広がっていた。まあ、森を抜けたと喜んだのもつかのまって感じで唖然としたよ。


 森にはレッドウルフが大勢いたが、砂漠――クラント砂漠――はとにかくカクタス種が多かった。

 レッド、イエロー、グリーン、ブルー、ホワイト、ブラック…ってな感じでこの近くじゃもうマスコットになりかけている魔物。


 見た目はただの歩くサボテンで、頭に花が咲く。ここでそう言えばカクタスってサボテンだったなーっと俺の頭の悪さが露呈したわけだが。


 それぞれの色のカクタスは其々の特徴がある。

 例えばグリーンは凄い速さで体当たりして、ブルーは水魔法を使う。サボテンなのに水魔法なんてアホかと思った。


 そして、イエローカクタスは花粉をまき散らし、その上切断すると花粉爆発が起きる。

 くそうざい魔物なわけだ。


 しかしそのかわりイエローカクタスだけがもつ花は価値があり、自然と道中乱獲に発展したわけだ。


 ―――――

 名:イエローカクタスの花

 品質:AA

 効果:満腹状態

 説明:イエローカクタスの頭に咲く黄色い花。とても保存環境が良く、もぎたて新鮮である。食用で一つ食べると満腹感が押し寄せてくる。栄養価も高く、この花1つで1週間はほどもつ。

 ―――――


 勿論じいさんから食料は貰っていたし、特に腹が空いていた訳ではなかったのだが、これが本当においしい。

 例えるなら、チョコレート。


 砂糖が高価なこの世界では嗜好品となるだろう。


 他のカクタスについてはそこまででもない。

 青はMP20回復、赤はHP20回復、緑は攻撃力上昇、白は防御力上昇、黒は魔法攻撃力上昇だ。


 まあ食用だったり装飾品だったりとはあるが、黄色だけなぜか仲間はずれ感がする。


 砂漠は青と赤が多く、緑、白、黒は少ない。そして黄色が一番数がいない訳だ。

 理由ははっきりしている。つまりは乱獲のしすぎだ。


 ゲームなら倒しても倒しても沸くが、現実ではそうは行かない。繁殖速度と討伐速度の均衡が崩れると、すぐにその魔物は絶滅してしまう。

 大事な素材の供給源なのだ。いなくなってしまっては困る。


 まあ、そんなに脆弱でもないのでイエローカクタスのように何百年にも渡って乱獲しない限り大丈夫だろう。


 ちなみにこの情報、殆どシェンクからである。


「あ!レオン君!やっと帰ってきたー!」


「え」


 ギルドに入った途端多くの視線にさらされ、困惑しているとリリアナさんが駆け寄る。

 なんだ、ここは地獄か。


「もう!心配しましたよ!イエローカクタス一匹の討伐でこんなに時間がかかるなんて…」


「…一匹」


 そう言えば依頼内容をきちんと確認していなかったことを思い出す。

 慌てて証明書を取り内容をみてみると、そこには確かに「イエローカクタス討伐:一体」の文字。


「…」


「どんなに見つからなくても三時間もすれば戻ると思ったのに…心配したよー」


 ホッとしたからか泣きそうな顔で笑う彼女に何時もと随分態度が違うな、と思いながら後ずさる。


「この方たちは?」


「あー、僕が集めたんだけど、無駄足だったねー」


 奥から出てきたのはギルマス。彼自身装備を身に着けていて猶更穏やかじゃない。


「ごめんねー、依頼は取り消しでー」


 そうギルマスが笑って手をヒラヒラと振ると、集まっていた人は笑って文句を言いながらギルドを出て行った。

 俺の肩なんかを叩いて小言を言いながら。


「…えっと、なにが」


「まあ、ポルクさんからの大事な預かりものに万が一あったら、怖いからね」


「私が一番ビクビクしましたよー!」


「リリアナちゃんが持ってきた依頼だもんね」


 フフフ、と笑うギルマス。何時もの意趣返しのつもりなのかもしれない。

 なんだかんだでこの二人は仲が良さそうである。


「なんか、すみません」


「いえ…コホン、証明書の提示をお願いします」


 あからさまな咳ばらいをして受付に戻る彼女にそのまま合わせて証明書と花を渡す。


「はい、イエローカクタス討伐ですね。…無事確認しました、この花はギルドで引き取ります」


「分かりました」


「こちらが報酬になります」


 そう言って渡されたのは銀貨一枚。


「…」


「どうされました?」


「いえ、大丈夫です」


「でも初めての依頼で銀貨なんてついてますね!Fランクでは結構高額な依頼ですよ」


「…」


「レオン様?」


「レオンさん?」


「…いえ、ありがとうございました」


「あ、はい。また来てくださいね」


 不思議そうにしながらもにこやかに笑って送る彼女に素直に凄いと思った。


「どうしたんですか?」


「(銀貨一枚って…安くない?)」


 そう、それだ。

 あのイエローカクタスの依頼で銀貨一枚。何て生きにくい世の中なのだろうか。


 この分だと本当にスライムの魔石は期待が出来ないかも知れない。


「えっと、よくわからないんですけど…相場ってどのくらいなんですか?」


「(俺もよくは分かってないけど、宿一泊銀貨一枚)」


「う、わあ…」


 曖昧に笑うランも少ないと思ったのだろう。

 皆が冒険者とかいう稼ぎの少ない仕事につくのは、なぜなんだろうか。


「仕事がなかったり、仕事ができないからじゃないですか?」


「ん?」


「ほら、身元がしっかりしていないとか、盗賊上がりだとか」


「あー、あとは、夢だな」


「夢、ですか?」


 要するに、一発逆転。


「ああ、本当に、俺みたいなやつにはピッタリな仕事ってな」




プレゼントです(イエローカクタスの花) 

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