2-6 黒い侵入者
思わず二度見をして思考するが、簡単なことだ。
「(デル)」
「(…どうしたの)」
流石にこの部屋に侵入者がいるのに普通に会話は出来ない。さっき手に入れた念話で会話することにしよう。
しかし便利なマップにも不可能なことがある。それは明確な人の位置の特定だ。
ある程度どこに誰かいる、というのはわかるがこの部屋での位置は分からない。
分からないので、分かるスキルを手に入れよう!
「(この部屋に誰かいるみたいなんだけど、場所わかるか?)」
「(本当?…ここでは、わかならいな)」
聞くとここには雷の精霊が少ないから、らしい。悲しそうな表情をするので頭をなでて置いた。
別にそんなに気にしないでいいのだ。
「(じゃあそういう隠れた奴を見つけるスキルに心当たりは?)」
「(…気配察知とか、探知とか?)」
ふむ、と一回考えて気配察知を手に入れることにする。
つまりは気配を察知しようとすればいいだけなのだ。
探知は持っているのでそこまで急ぐことではないだろう。まあ、要は試しだ。
部屋にある存在を消している者をどうにか確認しようと目を閉じて神経を集中する。
そんなに簡単には行かないか。
そう思った時だった。
―――――
スキル:気配察知を獲得しました
―――――
「あ」
にやり、と笑って気配のあった場所をにらみつける。
――見つけた
「デル」
「雷槍」
俺が壁の目で指さしてデルに指示を送る。
間髪入れずにデルは魔法を放った。これが阿吽の呼吸ってな。
「あっ!」
見えない場所から見知らぬ声が聞こえて魔法が命中したことを確認する。想像以上に幼い声だ。
しかし咄嗟に避けたらしく、血を地面に垂らしながら窓の方へと走り出す。
「行かせるか!ラン、光壁!」
「任せてください!」
「うそ、魔法使い…!?」
咄嗟にランを召喚して見えない壁を作り出す。まあ見えないと言うか光の壁なので反射で見ることは可能だ。
見え無かった姿が徐々に現れていき、遂に侵入者は姿を現した。
その真っ黒な服に、顔を隠す布。どこか忍者を彷彿とさせる。
しかも、小学生位の身長だ。
―――――
クプルティア・リ・ローチェ 天翼族 暗殺者
ハリアン教第2諜報部隊隊員
Lv.86
HP:317/657 MP:290/522
攻撃力:710 防御力:555
魔法攻撃力:484 魔法防御力:278 素早さ:913
※奴隷状態
―――――
【固有】飛翔Lv.1
隠密Lv.2 短剣Lv.1
<魔法Lv.2> 追跡Lv.1
―――――
「つっよ…」
この強さでこの容姿とは見た目詐欺も程程にしてほしいものだ。
少年の表情は布で見えない。しかし少年は両手を挙げながら、自嘲気味に笑って言った。
「…魔法、破られるなんて」
「魔法?」
てっきり隠密の効果かと思っていたが魔法で姿を消していたらしい。是非とも覚えたい。
「…!」
何か感じたのか少年はバッと窓を振り返って、一度は阻まれた光壁に向かって飛び出した。
「え!?」
「…くっ!すみません!破られました!」
ランがそう叫んだ瞬間光壁が音を立てて砕け散る。咄嗟にデルがサンダーを放った、しかしそれは黒い靄に吸い込まれて終わっていく。
「効かない…?」
「…逃がした」
部屋には再びシンとした空気が広がる。
まさか二人を呼び出して逃げられるとは思わなかった。
「…申し訳ありません」
「…ごめん」
二人がしゅんとして戻ってくる。ここは仕方ない。少年の方が一枚上手だったと認めるしかないだろう。
「大丈夫。これからに生かしていこう」
笑って慰めるとランは元気を取り戻したようで次こそは!と意気込んでいた。
「デル?」
「ん、なんか、見えたんだ」
「なにか…?」
意味深な事を言うデルに俺とランは首をかしげる。
何か見えたと言うのはどういうことだろうか。全く見当もつかない。
「悲しそうな、黒い、なにか」
「…悲しそうで黒いって、よくわからんな」
結局デルも見間違いだったかも、と有耶無耶にしてこの話は終わりになった。
何とか暗殺者は撃退したが、俺は未だに追跡を受けている。いつ襲われるかわからない。
しかも
「この部屋、どうしよう」
デルの雷槍で空いた穴が、異様に目に付いて見えた。
☆
「ったく、俺を先に呼べよ」
結局キイの時間魔法で壁の時間を3分程戻して貰った。なんて便利な魔法だ、と思わなくもないがこの魔法魔力の消費が半端なく大きい。
1分戻すのに500MPいるのだ。つまり今の俺では一度に5分しか戻せない。まあ、今回はそれで足りてよかった。
ランとデルの魔法の分を差し引いてギリギリだ。
しかもそのおかげか「MP回復速度上昇」と「召喚Lv.2」を手に入れた。
「ごめんって。キイの魔法は燃費悪いから…」
「…まあ否定はしないが。俺は結構使えるんだがなあ…」
確かにキイは話しやすいし、魔法の腕もピカイチだ。しかし、俺の召喚レベルでは結構な負担で、三人同時に召喚するのは徐々にMPを持っていかれる。
あの状況でそれは不味いと判断したのだ。まあ、今回からスキルレベルは上がったので多少楽になっただろうが。
「でさ、追跡を解く方法って知らない?」
「あー、あれはレベル依存のスキルだからなあ…レオンが90レベルとかになれば解けると思うが」
「…無理だろ」
今の俺のレベルはギルドと今の対人戦で上がったとは言っても17だ。あと76とか先が長すぎる。
「まあ、諦めろ」
「まじか」
常に周りに警戒していなければならない、という事か。面倒くさいなあ。
「そういえば鑑定もされたんだろ?隠蔽で防げたか?」
「あ、ああ。できたらしいな」
「…そうか」
それっきり考え込んでしまったキイを不思議に表眺めているとキイがパッと顔を上げて言った。
「んじゃ、俺はもう行くけどちゃんとピンチなったら呼べよ?ご主人様の敵は俺がぶっ殺してやるよ」
物騒な言葉を自信たっぷりに吐いてから、キイはその姿を消した。
結局追跡に対する有効な手立ては見つからなかったので、現状での措置はランの魔法で結界を作ることぐらいか。
それでも光壁は破られたのでさらに強いな結界にする必要がある。
本当になんとも面倒くさいことだ。
「ラン」
「お呼びでしょうか」
ニコッと笑ってお辞儀するランは、きっとあの時もっと強い魔法を使っていれば、と後悔しているのだろうか。まあ、それが俺のMPを気にしての事だったのは理解している。つまるところ、俺の力不足だ。
今の俺は、足手まといなんだろうなあ。
「ああ、取りあえず…寝てる時なんかに聖域の壁を張ってもらいたい」
「ええ、お任せください!」
「ん、じゃあ…」
ふと空を見て、これからどうしようかと思案する。さっきまでは眠かったがあの騒動ですっかり目が覚めてしまった。
幸いにもまだ夕方になっていない位の時間だ。出かける時間はあるだろう。
「買い物でも行くか」
ベッドから立ち上がって荷物を手にする。
なんだかんだで異世界の国ってのは初めてなんだし満喫しなきゃもったいない。




