虫の選択 無駄に生きる
私は虫のような形をしている
いや、虫そのものと判断されても仕方のない形である
しかし何を隠そう私が属している種の生き物は
この地球上で最も有能なのである
人間はそのことに気がついていない
彼らは自分たちがこの地球上で最も有能であると信じて疑わない
まぁ、或る意味哀れな種なのである
或る意味というのは、知らない方が幸せなこともあるという事実の他
意味はない
我々の姿かたちはあまり目立つものではない
見た目にはなんら際立っていないのである
ただ
我々が持ち合わせている脳は
皺の数が非常に多い
人間の20倍はある
それだけ思考が複雑になし得るのである
とは言え
とりあえず生きるのに、活動するために
エネルギーが必要であることは
全ての生物に共通するであろう
そのエネルギーを得るために
まずは、獲物を探す目
移動して近づくための足
捕らえるための手
そう、仲間にはその手を使って
罠をこしらえるものもいた
そして、
食べ物の咀嚼や吸収に必要な消化器に
実際にエネルギーとして使えるように代謝する仕組みが要る
それらを統括して指令を出すのに十分な脳が備わっていることがどうしても要る
そう、どうしても
などと、我々の祖先は考え、受け継いでいた
つまり、そういう仕組みというものを
しかし或る時代の我々の祖先の一匹は考えた
この考える力が、並外れてあるのが我が種の特質であるのだが
とにかくその祖先の一匹がこう考えた
活動のためのエネルギーを得るために
他の生物の有機物を食するということに二度手間はないのか
自らが生きるために他の生物の犠牲を介在させることに矛盾はないのか
他の生物に我が種の存続を依拠させていることに
大きな危険はないのか
他の生物にも自らを存続させる欲求を
個々に持ち合わせているのではないのか
そういった疑問がその時代に生きた仲間の脳裡を席巻し
我々の歴史の中で伝説の英雄ともなっているヌロンが出現した
彼は、我々の種の生き方の変更を提案したのである
単純、かつ、明快に