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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第17話 ネヴィア
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17‐5

 銃から放たれた火の玉が目にも見えない勢いで一直線に飛び、熊の頭上で弾けた。

 あまりにも突然のことに熊も驚き、火を払うためにただただ頭を振る。


「何をしている! 今が好機だ!」


 ネヴィアにそう怒鳴られ、はっとなった一行は再度熊への攻撃を開始する。

 真っ先に動いたのはセルファ。熊の左腕に一方の短刀を突き立てると、もう一方の短刀で脇腹を切り裂いた。

 不意を突かれた敵は怒りを露わにすると、反対の腕を大きく振り上げ――

 そこへ再度パァンと破裂音が響く。

 今度はバチバチと激しい音を立てる雷がその手に当たり、敵が大きくひるんだ。


「はああっ!」


 ラウダがかけ声と共に大きく振りかぶった剣を振り下ろすと、敵のもう一方の腕から鮮血がほとばしる。

 負傷した両腕がだらりと垂れ下がる。これでパンチは防いだ。

 これまで多くの人間を返り討ちにしてきた主が不利になり、もぐらたちが慌てふためき始める。


「セルファ!」


 後ろからノーウィンが少女の名を呼ぶと、彼女はすぐさまその意を解したようだ。軽やかに後方へ跳躍すると、これまた軽やかに舞い始める。


「セルファさん、合わせます!」


 彼女が発動させようとする魔法を察し、オルディナも詠唱を始める。

 さらにオルディナがやろうとしていることを察し、アクティーはにやりと笑うと集中を高める。


 槍を構え直したノーウィンが熊へ向かって駆け出した。

 それを阻止しようと2匹のもぐらが石を手に穴から飛び出してくる――が、投げつけてくるよりも先に、ガレシアの操る銀の鎖が元の穴にぶち込んだ。

 さらに数匹がぴょこりと顔を出すも、イブネスが氷の剣を振るおうとしたのを見て、すぐさま穴に引っ込む。

 まさにもぐらたたきだ。


 とはいえ、一行もただ闇雲に敵をたたき、穴に引っ込めているわけではない。


 ちらりとノーウィンがセルファの方を見やると、今まさに舞を完成させたところであった。

 片手を突き出し、地の中級全体魔法の名を告げる。


「テラブラスト!」


 地面が大きく振動し、盛り上がる。地中にいたもぐらたちが次々地表へと追い出される。

 間髪入れず、オルディナが杖を掲げる。


「グラキエス!」


 先ほども発動した氷の初級全体魔法。だが彼女はその凍てつく風を器用にコントロールし、今度は地表へ飛び出たもぐらたちにそれぞれ命中させていく。

 カチコチに凍らされ身動きが取れなくなったもぐらたち。そのとどめ役をアクティーが担う。


「トルネード!」


 風の初級魔法だが、氷を砕くには十分な威力。

 巻き起こった強風は刃となり、凍りついたもぐらたちをたやすく粉砕してしまった。


 味方が一匹残らずいなくなってしまいうろたえる熊だったが、直後、胸部にノーウィンの槍が深々と刺し貫かれた。

 だが熊はまだ倒れない。ノーウィンに向かって、大きく、ゆっくりと震える腕を振り上げる。


「イグニス!」


 ローヴが放った火球が腕に命中し、大きくのけぞる。畳みかけるように破裂音が響き、こぶし大の火球がもう一発、今度は顔に命中した。

 バランスを崩したその大きな体が後ろにズズンと倒れる。

 なんとか身を起そうともがく熊だが、すかさず駆け寄ってきたラウダがその片側に立ち、剣を大きく振り上げた。


「ごめん」


 まだ生きることを諦めようとしないその目に小声で謝ると、勢いよく剣を振り下ろした。

 胸部に突き立てられた剣と槍をそれぞれ抜き放つと、勢いよく血が噴き出す。


 熊は宙に手を伸ばす。だがそれは何にも触れることなく、どさりと地に落ちた。

 まるで人間のような死に方に嫌悪感を覚え、ラウダはふいと目をそらすと、剣を鞘に納めた。


 他の者たちも、敵がいなくなったことを確認すると、各々武器を納める。


「みんな、怪我はないか?」


 一息つくと、ノーウィンがぐるりと一行を見渡し、声をかけた。

 それぞれかすり傷はあるものの、大怪我を負うことにはならなかったようだ。


「これまでのことを考えるとまだマシな戦いだったな」


 言いながら、アクティーがスカーフをきっちりと正す。

 オルディナとローヴがそれぞれの怪我を魔法で癒していく。


「ラウダもローヴも戦闘の経験が浅かったらしいけど、随分戦えるようになったんじゃないかい?」


 ガレシアが腰に手を当て、にっと笑って見せる。


「そう、かな?」


 ラウダが小さく首を傾げたのとは対照的に、ローヴは照れ笑いを浮かべた。

 その片隅で、ふむ、とネヴィアが何事かを考えるように腕を組み、一行を見つめていた。


「ネヴィアさん?」


 オルディナが名を呼ぶと、ネヴィアは小さく首を左右に振った。


「いや何、考えを改めねばならないと思ってな」


 彼女の言葉に、一行が首を傾げる。


「当初は武器も成りもまるでバラバラなグループ故に、個々の力が強い者同士の寄せ集めだと思っていたのだ。だが一緒に戦って、こうして間近で見て、見事なチームワークを持ったメンバーだと感心してな。どうやら無意識のうちにお前たちのことを侮っていたようだ。すまなかった」


 思わず一行は顔を見合わせる。

 確かに言われてみればお互いがどのように行動しようとしているのか、どんな魔法を使おうとしているのか、何となくではあるが把握できており、そのうえで自分がどういった行動をとるべきなのかをこれまた何となく把握できていた。


「相性がいいのかもな、ラウダくん」

「なんで僕に振るのさ……」


 にやりと笑いながら言うアクティーに、ラウダは呆れ顔を浮かべた。


「だが俺からすれば、一緒に戦って間近で見てすごいと思ったのはネヴィアの方だが」


 そう言うとノーウィンは彼女の腰に下げられた2丁の銃を見やった。

 ああ、と言ってネヴィアは1丁、銃を取り出して見せた。


「これは魔銃と言ってな。弾の代わりに魔法を撃つことができる。体内にあるマナが持続する限り無限にな」

「魔法を、撃つ……」


 一通り治療を終えたローヴがまじまじとそれを見つめる。


「信じられません……ほとんど集中時間なしで魔法を放つなんて……」


 同様にオルディナもそれを見つめる。

 物自体もすごいが、オルディナの言う通り、よほどの集中力、瞬発力、反応がなければ到底できない芸当だ。


「才能か……」


 ノーウィンがつぶやくようにそう言うと、ネヴィアはこくりとうなずいた。


「これは才能がなければ使い物にならない。それと、勘や相性も」

「しっかし、魔法を撃ち出す銃ね……珍しいものだが、どこ産だ?」


 アクティーがそう尋ねると、ネヴィアは首を横に振った。


「分からない。これは知人に譲ってもらったものでな」

「そうか、そりゃ残念」


 肩をすくめてそう言う割にはあまり残念そうには見えない。知っていたら知りたかった、くらいの気持ちで聞いたのだろう。


「さて、立ち話もなんだし、そろそろ行こうじゃないか」


 一通り話を終えると、ガレシアが声をかけた。

 一行はうなずき、山頂にあるタートの村を目指して歩き始めた。

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