17‐4
少々気まずい雰囲気が流れる中、ノーウィンがあることに気づく。
足を止め、指差す。
「見ろ」
その先を見ると、カゼノネソウ――と思しきものが落ちていた。
何者かにぐしゃりと踏みつけられたような跡があり、オレンジだった花は茶色く散り散りになってしまっている。
見れば、その先にも咲いていたであろうカゼノネユリが片っ端から同じように踏みつぶされていた。
「ひどいです……」
しょんぼりとするオルディナの側でアクティーがメガネをかけ直す。
「1メートル以上もある茎を真上からぐしゃり、だ。人間ならよほどでけえやつじゃなきゃできねえだろうな」
「じゃあやっぱり魔物の仕業――あれ? でも魔物ってこの匂いが嫌いなんじゃ」
ローヴが首を傾げている側で、ノーウィンが花を見つめながら難しい顔をしていた。
「やっぱり異変の影響か……?」
「匂いに適応したってことかい?」
ガレシアが顔をしかめる。
匂いに適応してしまったということは、先に述べていた魔物除けの類が一切効かなくなってしまったということだ。
今は限定的だとしても、いずれ他の多くの魔物が適応してしまったとなると、今まで魔物除けを使用して旅をしていた者などは今後町から離れられなくなるだろう。
場合によっては町に魔物が襲い掛かることも考えられる。
事の重大さに直面した一行にネヴィアが声をかけた。
「とにかくまずは相手がどのような存在か見極めるべきだろう。話はそれからだ」
彼女の言う通りだ。ここの魔物を何とかしないことには始まらない。
先を急ぐと、行く先々で花が踏みつけられているのを確認できる。
そうしてたどり着いたのは、少し開けた場所だった。
そこには辺りをうろつく熊のような魔物がいた。
2メートルほどの高さがあるそいつは、頭に2本の長い角を持っており、白い体毛に覆われていた。
見るからに凶暴そうだ。
「あいつか」
魔物除けがあるにもかかわらず、この山道内をうろつく存在。奴に間違いないだろう。
各々武器を構えると、向こうもこちらに気づいたようだ。大きな叫び声を上げた。
でこぼこの地面を蹴ると、真っ先にセルファとノーウィンが動き出す。
一直線に敵に迫ると、武器を振るい――
突然ノーウィンの槍が回転しながら宙を舞った。
「痛っ」
武器を飛ばされた本人も何が起こったか分からない。
痛みを感じ右手を見ると、赤く腫れあがっている。
ふと足元にこぶし大の石が落ちていることに気が付いた。
一方のセルファは攻撃を仕掛けるも、相手は後退、いくらかためてから上方からパンチを振り下ろした。
だが彼女はそれを軽やかに避け、相手のパンチは地面にめり込む。
宙を舞っていた槍がようやく地に突き刺さる。
他にも何かいる。
ノーウィンは痛む手を抑えながら、熊から距離を取る。
そこで初めて、でこぼこの地面に直径10センチほどの穴が開いていることに気が付く。
うまい具合に盛られた土に隠された穴を訝しげに見ていると、突然ぴょこりと何かが顔を出した。
もぐらだ。
魔物なのかと疑っていると、退化して目がないそれは、何やら地面に潜りごそごそとした後、こぶし大の石を持ち上げた。
明らかな敵意。
そこへさらにぴょこぴょこと同じ顔をした魔物が次々顔を出し始める。
「か、かわいいです」
小さな体に短く生えた毛。ちょこんと飛び出した鼻先。
オルディナが可愛いというのも無理はないなと思いながら、ローヴは怪我をしたノーウィンのもとへと駆け出した。
魔法を放つために集中を開始するアクティー。慌ててオルディナも呪文を口にし始める。
その横でイブネスがぼそぼそと何事かをつぶやくと、手にした剣の刀身に手を当てた。
「エンチャント……アイス!」
青く輝く刀身に漂う冷気。氷の剣を手にしたイブネスもまただっと駆け出す。
「ノーウィン!」
ガレシアは銀の鎖を片手に持ちつつ、側に落ちていた槍を拾い上げると、所有者のもとへと投げた。
ノーウィンは左手でそれを受け取ると、今度はもぐらからも距離を取る。
さすがに利き手でない方で武器を振るうわけにもいかない。中途半端なことをして余計なダメージを受けるのは目に見えている。
そんな彼の側にローヴが駆け寄る。
「回復しますね!」
「ああ頼む」
怪我を負った個所を手で覆うと、ローヴは集中する。
その横をラウダは駆ける。標的は熊の方だ。
ガレシアが熊の手を封じようと鎖を振るう。
しかしそれよりも早く、もぐらが石を投げつけ、的が外れてしまう。
そのもぐらをイブネスが斬り付けるが、さっと土中へと潜り込んでしまった。
奥では相変わらずセルファと熊が攻撃と回避を繰り返している。そこへラウダも参戦し、左下へ構えていた剣を右上に振るった。
熊は素早く顔を背けると、その一撃を己の角で弾き飛ばす。さらにそのままタックルを繰り出す。
「ウェントカッター!」
アクティーの魔法が発動する。激しい旋風が熊の身を切り刻み、タックルを止めることに成功した。
間一髪敵の角の餌食にならず小さくため息をつくも、ラウダは再び敵に立ち向かう。
「アプル!」
ローヴの回復魔法が発動すると、右手の痛みが引く。
助かったと笑顔で礼を述べると、槍を利き手に持ち直したノーウィンはもぐらのせん滅にかかる。
「グラキエス!」
オルディナの魔法が完成し、氷の魔法が地面一体を覆う。これで穴から出て来られまいと思っていた矢先、もぐらは何でもないように、氷を割って石を投げつけてきた。
ローヴはなんとかそれを横に回避すると、敵を斬り付けるが、またもや土中に逃げられてしまう。
「ああ、うっとうしいねえ!」
イライラした様子でガレシアが威嚇の意を込めて地面に鎖をたたきつける。
「まずはもぐらさんをなんとかしないと……」
オルディナが思案していると、ぴょこりと出てきたもぐらが彼女へ向けて石を投げつける。
とっさのことに動けず、身を固くしていると、どこからともなく破裂音が響いた。
パァン
見ると、投げられた石が氷塊となって地面に落ちていた。
そして側には銃を構えたネヴィア。
何事かと一行が眉をひそめていると、今度はもう一方の銃を突き出し、熊に狙いを定める。
パァン




