17‐2
食堂は意外なことに空席があった。
てっきりもっと人でごった返しており、座る場所もないかと思っていた一行は適当な場所に腰かける。
受付の男性が『魔物に返り討ちにされた人が宿屋に戻ってきている』と言っていたことを思い出す。
泊っているのは怪我人ばかりなのかもしれない。
注文した料理が一通り運ばれてきたことを確認すると、ノーウィンはさてと声を上げた。
「山道に現れた魔物のことだが」
全員の顔をぐるりと見回す。
今後どうするかを話し合おうと思ったのだが、どう考えても方法は一つしかない。
「まあ、倒すしかないだろうねえ」
さらっと言ってのけたガレシアは、さっそくビールの入ったジョッキに手を伸ばす。
「問題はどういう魔物がいるか、だな。狂暴っつー話だが」
どことなく他人事のように話すアクティーは、魚の煮つけに手を付けた。
「やっぱり異変に関係ある魔物なんですかね……」
ローヴはサラダから大きめのトマトを取ると、口にした。
全員が料理を食べるのに夢中になって一時的に沈黙が訪れる。
「巨大化か増加か……あるいはもっと別か」
口いっぱいにほおばった肉を飲み込むと、ノーウィンが話を続ける。
「幽霊みたいに魔法しか効かないってなると厄介だねえ」
フォークで皿をトントンと突っつくガレシアは、次に何を食べようか悩んでいるようだ。
先ほどから話を聞いているだけのセルファは、もそもそとレタスを食す。
「素早い魔物も困ります……魔法の発動までにはどうしても時間がかかるので」
オルディナは不安な面持ちで水の入ったグラスを手にしていた。
その横ではイブネスが黙々と食事をしていた。いつ見てもマントで口元を覆ったままなのだが、一体どうやって食べているのだろうか。
「ってわけでラウダくん、何か良い案ない?」
唐突な無茶ぶりにラウダはかんでいた肉を慌てて飲み込む。
それからしばらく悩むと、アクティーの方を見やった。
「アクティーの証で足を速くするとか?」
とりあえず思いついた案を適当に述べてみると、アクティーは「あーなるほど」と声を上げた。
珍しく馬鹿にしてこないアクティーに、我ながら良い案を出せたのではと思うラウダだったが、どうやらアクティーの『なるほど』というのは違う意味合いを持っていたらしい。
「そういう魔法なら証使わなくても使えるぜ」
ラウダが目をしばたかせる。
「そうなの? 使ってるところ見たことないけど」
「そりゃ俺は支援より攻撃のが性に合ってるからな」
本人曰く、出し惜しみしている魔法は色々あるそうだ。
ならば何故使わないのかと問うと、能ある鷹は爪を隠すものだとさらりと言ってのけた。
「切り札は最後に取っておくもんだろ?」
自慢顔を決めるアクティーにラウダとガレシアが呆れた表情を浮かべる。
そんな風に作戦会議を行っている一行のもとへ、1人の女性が歩み寄ってきた。
「少しいいだろうか?」
全員が顔を上げ、そちらを見やる。
銀髪の美女というのが最初の印象だった。
すらりと細い手足に整った顔立ち。
スタイルの良い彼女を見るや否や、アクティーはさっとナフキンで口元を整え、キラキラとしたオーラを身にまとった。
「何でしょう、美しいお嬢さん」
歳はノーウィンくらいか。成人はしていそうだが、アクティーやガレシアよりは下に見える。
アクティーの物言いに、女性は顔色一つ変えず話を進める。
「立ち聞きしてすまないが、山道の魔物を退治しようとしているようだな」
「ああ、そうだ」
ノーウィンが短く答えると、彼女は意外なことを口にした。
「ならば、私も共に行動させてもらえないだろうか」
突然の申し出に、思わず一行は顔を合わせた。
「私もこの先に進みたくてな。しかし1人では無謀だと思い悩んでいたところだ」
そう言う割にはあまり悩んでいるようには見えない。
ふと彼女の腰に目が行く。
両腰に皮のケースを下げている。そこから見える何かの持ち手。
――銃だ。
「なぜ我々に?」
アクティーがそう尋ねる。
相変わらず見事な笑顔ではあるが、どこか警戒しているようにも見えなくはない。
彼女は小首を傾げた。
「単純に人数も多いし、腕も立ちそうだと見受けたのだが」
ノーウィンが一行を見回す。
どうする?という確認の意だ。
しかし彼女を拒否する理由も見当たらない。
相手が狂暴な魔物であるならば人数は少しでも多い方がいい。
全員がうなずいたのを確認すると、ノーウィンは彼女に笑顔を向けた。
「それじゃ、よろしく頼む」
女性はこくりとうなずくと、自身の胸に手を当て名乗る。
「私はネヴィア・アークロインという。こちらこそよろしく頼む」
彼女とは明朝、宿の前で待ち合わせることだけ決めると、食事中の一行のもとから立ち去って行った。
* * *
部屋――という名の物置小屋――に戻ると、敷布と毛布、枕が人数分用意されていた。
「わたし、ベッド以外でお泊りするの初めてです」
こんな場所で寝かされるというのにオルディナはどことなく楽しそうだ。
その横ではセルファが黙々と敷布を伸ばしている。
ふとラウダはノーウィンが何やら考え事をしていることに気づいた。
「どうかした?」
「はっはーん、さてはさっきの美女のことだな」
「ああ、そうだ」
アクティーが茶化すも、真顔でそう返され、彼は顔をしかめた。
「綺麗な人でしたよね」
ローヴがにこやかにそう言うも、ノーウィンは別の点が気になっているようだった。
「ネヴィアって言ったか。狂暴な魔物と戦うってのに巻き込んで大丈夫だったかと心配になってな」
どうやら彼女の心配をしているようだ。
しかしそれに対してアクティーは首を横に振った。
「お前も見たろ? 腰に下げてた銃。それも二丁もだ」
ノーウィンはこくりとうなずく。
「20年ほど前に開発されたものだが扱いが難しいとされて未だに実戦で使ってる人間は少ない。にもかかわらずネヴィアちゃんはそれを二丁も構えてた。相当な実力者だと見たね、あれは」
アクティーの言葉を聞き、ノーウィンは考えるのを止める。
「それもそうか。むしろこっちが置いていかれないように気を付けるべきだな」
そう言うと、笑いながらちらりと自分の槍を見やった。
「それはそうと――」
突然ローヴが部屋の真ん中から入り口側にいる男性陣4人の方を見やった。
「変なことしないでくださいね」
男性陣は不思議そうに顔を見合わせる。
今回は部屋が1つしかなかったため、当然男女一緒の部屋だ。
男性陣と女性陣は部屋の真ん中で分かれているものの、やはり女性陣からすれば不安ものらしい。
「そうそう。特にアクティー」
ガレシアが名指しで注意する。
それに対して、名指しされた本人は相手をにらみつけた。
「ちょっと待て。なんで俺なんだよ」
「アンタが一番信用ならない」
「よく言うぜ。昔から素直でいい子だったアクティーくんに言うセリフかそれ? むしろがさつで遠慮ないお前の方が何しでかすか分かんないっての」
「はあっ!? なんでアタシが!」
「なになに!? やっぱりアクティーさんとガレシアさんって何かあるんですか!?」
「何もない!!」
“昔”という言葉に反応したローヴがそのやり取りに食いついたが、ガレシアは即否定した。
そして、2人がぎゃあぎゃあと大人げなく言い争う中で、ラウダはさっさと寝息を立てていた。
「……こんな中で眠れるなんてさすが勇者だな」
イブネスがぼそりとつぶやく。遠回しに皮肉にも聞こえるが、当の本人には聞こえていない。
すっかりにぎやかになった仲間たちを見て、ノーウィンはふと笑みを零すのであった。




