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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第17話 ネヴィア
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17‐1

 高級宿と安宿、王都にある2か所の宿屋でそれぞれチェックアウトすると、8人はそろって王都の西口へと向かう。


 道中、ローヴが苦い顔を浮かべた。


「もしかして……また触られたりしますか……?」

「心配しなくても、出るときはあっという間だよ」


 そんな彼女をガレシアは笑う。


 入国するときは熱心なチェックがなされるにもかかわらず、出国する際は名前の確認を行い、入国者リストの中から名前を削除するだけだそうだ。

 そうして不法入国者を明かすらしいのだが、今回入国する際はシルジオに所属するアクティーを代表者として入国しているので、特に怪しまれることもないはずだと言う。


「全員分の名前は俺が言ってあるから心配――」


 しなくていいと言いかけて、アクティーはイブネスとオルディナが自分たちとは別に入国したことを思い出した。


「大丈夫です、ちゃんと入国申請してから入りましたから」

「そ、そっか、えらいね」


 オルディナが、頑張ったと言わんばかりにはきはきと言うものなので、ローヴは戸惑いながらもほめた。

 ちゃんと申請して入らなければ不法入国扱いになるので、できていて当然のことなのだが。

 やはり本人が言うように世間知らずなところがあるようだ。


 西口に着くと、アクティーとオルディナが前に出て、出国申請を行う。

 申請は問題なくいくはずだったが――リストを手にした兵士が首を傾げた。


「あなたがた、別日に別れて入国していますが……なぜ一緒に?」

「え? えっと……」


 オルディナが言葉に詰まる。


 たまたま一緒に、と言うわけにもいかない。そもそもオルディナは嘘をつくと言うことが苦手だ。

 二組が合流した理由をどう話した方がいいものか悩んでいると、アクティーが助け舟を出した。


「彼らとは馬が合いまして。これから一緒に旅に出るところなんですよ」


 にこやかにそう言う彼に合わせて、オルディナもひきつった笑顔を見せる。下手だ。

 兵士が(いぶか)る。

 なにせ8人という大所帯で、別日に入国した二組が合流。何か事件の臭いがしてもおかしくはない。

 後ろで待っていた一行が不安そうに顔を見合わせていると、離れて見ていた兵士が何かに気づいたらしく、こちらへ歩み寄ってきた。


「あー……君たちだね、謁見の間で問題を起こしたの」


 ラウダは思わずぎくりとなる。ここでもそれが原因で出国できなかったらどうしようと、冷や汗が出る。


「王命が出ていないから捕まえるなんてことはないけど、早いところ国を離れた方がいいよ」


 妙に親しげに話しかけてくるその兵士はこちらの身を案じてか、そう勧めてくる。

 捕まることはないと聞いてほっと安堵するが、続く兵士の言葉に、今度は違う意味で冷や汗をかくことになる。


「なんでも勇者を名乗ったんだって? たまーにいるんだよね、金品目当てにそういうことする人」


 そこでセルファの眉がピクリと動いた。


「勇者なんておとぎ話の存在。実在するわけないんだから今後は止めときなよ?」


 恐らく優しさでそう言ったのだろうがちらりと横を見やると、案の定というべきか。うつむいたセルファが握り拳を作りぷるぷると震えていた。大元帥との一件に続き、またしてもお怒りのようだ。

 ノーウィンがそんな彼女の肩に手を当てる。落ち着け、と。

 わははと笑いながら元の持ち場へと戻る兵士を見ながら、セルファはぽつりと漏らした。


「殴りたい……」


 思わずラウダはセルファの握り拳を取り押さえるのだった。


 *     *     *


 結局、問題ないとされた一行は無事、王都を後にする。


 西口から出るとすぐに壮大な山がそびえ立っているのが見えた。次の目的地はグラッティオスと名付けられたその山のふもとだ。


「王都から山までは約4、5時間。今日はそのふもとにある宿で一泊して、明日山を登る予定だ」


 歩きながらノーウィンが地図を手に、行く先を指差す。

 その横では差された先を見ながら、ローヴがふんふんとうなずいていた。


「山頂にはタートって村があってな。そこまでは山の中にある道を登っていくんだ。ちなみにそこは世界一高い村なんて呼ばれてる」

「相変わらず見事なガイドなこって」


 ノーウィンのラウダとローヴへの説明を聞き終え、アクティーが軽く拍手した。

 どうも、と適当に返すノーウィンにオルディナがしょんぼりした様子で話しかける。


「ノーウィンさんは記憶喪失なんですよね……治せるような魔法があれば良かったんですけど……」

「はは、こればっかりは魔法に頼るわけにもいかないしな」


 ノーウィンは歯を見せて笑った。


 そんなノーウィンを見た後、ラウダは隣に立つ仏頂面のセルファをちらりと見やった。

 ここへ来てようやく彼女のことが分かってきたような気がする。

 彼女にはとにかくソルやルナを貶める物言いは禁句だとはっきりと理解した。今後気をつけねば。


 そう固く誓う横で、ローヴはのんきに次の村には何があるのか尋ねていた。

 ノーウィンが腕を組み、悩んでいると、ガレシアが笑う。


「なーんにもないね」


 思わずローヴが顔をしかめると、イブネスがぼそりと補足した。


「特産はタートヤギ……高所にのみ生息するこのヤギが出す乳は濃厚で肌に良いそうだ……」


 肌に良いと聞きローヴは目を輝かせる。


「詳しいな……まさかお前まで記憶喪失とか言い出さねえだろうな」

「違う」


 意外な案内役がいたことに驚くアクティーがそう尋ねるも、イブネスははっきりと否定した。


「ちなみにダンガイワシから取れる卵も肌に良いとされ、二大美容食として村に移住する女性も少なくないそうだ……」


 ますます目を輝かせるローヴ。

 アクティーはその情報量と内容に呆れる。


「どっから仕入れてくんだその情報……」

「アンタも見習った方がいいんじゃないかい? 女を口説くならねえ?」


 ガレシアがけらけらと笑う。

 ばつが悪そうな顔を隠すように、アクティーはメガネをかけ直すと、足早に前を歩いていくのだった。


 *     *     *


 夕刻、グラッティオス山のふもとに着いた一行は、宿へ入って驚くこととなる。


「部屋が空いてないって……一体どういうことだ?」


 受付にいる中年男性にそう尋ねるノーウィンだったが、その横ではどう見ても山のふもとの宿とは思えないくらい大勢の人間が出入りしている。


「それが、最近山道内に凶暴な魔物が住み着いちまってな……みんな足止めを食らってんのさ」


 ノーウィンは後ろにいる仲間たちに顔を向ける。

 皆も同じように困った顔を浮かべていた。

 部屋がないとなると、野宿するしかない。だが宿を前に野宿とは何ともおかしな話だ。


「商売繁盛するのは嬉しいことだが、こうも次々人に来られちゃあどうしようもないよ」


 男性はやれやれとため息をついた。


 その魔物に対して何も対処していないのかと問うたところ、何組かの旅人が向かったが、今のところ皆返り討ちにあい、怪我を負って宿屋へ戻ってくる始末だという。


 部屋がいっぱいでは無理を言ったところでどうしようもない。

 ノーウィンはため息をつき、仕方なくその場を後にしようとする。


「あ、待った。あそこならその人数でも泊まれるな」

「……? 部屋があるのか?」


 立ち止まったノーウィンが首を傾げるも、男性はちょっと待っててくれと言うだけ言って、何故か宿から出ていった。

 よく分からないままとりあえずそれを待っていると、30分ほどして男性が戻ってきた。


「その、なんだ……そう別館だ。別館があるんだ」


 一行は顔を見合わせた後、怪訝(けげん)な顔を浮かべるが、男性に促されるまま宿屋の外へ出る。


「ベッドはないが……後で敷布と毛布を持ってくるよ」

「…………」


 案内されたのは宿から少し離れたところにある一軒の小屋。

 確かに別館と言えば別館なのかもしれないが、部屋の隅には大きな布に隠された何かが置いてある。

 おもむろにアクティーが布をめくると、そこには古びた木製の棚に使い古したランプやロープ、寝具などが置かれ、その下にはこれまた古びた箱にボロボロになった調理器具が乱雑に詰め込まれている。

 床には何が入っているのか分からない麻袋がいくつか置かれている。


「どう見ても物置だなこりゃ」


 アクティーは布を手放すと、呆れた声を上げた。


 野宿するくらいなら、という男性なりの優しさなのか。あるいは稼げるときに稼ごうという魂胆なのか。

 しかし文句を言ったところで部屋が空くわけでもない。一行はそろってため息をつくと、それぞれ荷物をおろすのだった。

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