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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第16話 証拠
87/196

16‐4

 協会本部へ入ると、カウンター内で1人の女性が何やら業務をこなしていた。

 そしてその手前には金髪の女性。壁に沿って立っている甲冑を1つずつのぞき込んでいたのだが、一行が入ってきたことに気づくと、ぱっと表情を明るくさせた。

 対照的にアクティーは呆れた表情を浮かべた。


「お前、またイタズラしてたんじゃねえだろうな……」


 それを聞いて、相手は頬をふくらませ、腰に手を当てる。


「ぶーっ! イタズラじゃなくて点検してたの! ……って、またって何よ! またって!」

「そりゃお前昔よく……まあいいか……」


 やれやれと肩をすくめる後ろで、ローヴが思い出したように口を開く。


「あっ、銀装備を用意してくださった方ですよね? 確かアクティーさんの同期の」


 再度ぱっと表情を明るくすると、彼女は両手を合わせた。


「ピンポーン! あたしはエリ! 覚えててくれてありがと!」


 随分にぎやかな人だなあと思いながら、ローヴは軽く会釈した。


「みんなのこと大元帥のところまで案内するように依頼されたからここで待ってたんだ」

「そりゃどうも」

「ちょっとちょっとアーくん! 感謝が足りない!」


 ふんぞり返る彼女を見て、アクティーが大きなため息とともに頭を抱える。

 普段悪ふざけをするときのアクティーにどことなく似ている。きっと彼も知らないうちに彼女に似たんだろうなとラウダとノーウィンは顔を見合わせこっそりと苦笑した。


「サッキナー。悪ふざけはそこまでにして彼らを案内なさい」


 それまで黙々と作業を行っていたミズ・マードが見かねてエリに指示する。

 鉄鬼の名で恐れられる彼女だが、エリの奔放っぷりには過去何度も頭を痛めていた。


「はーい」


 エリはそう返事すると、しぶしぶ一行を案内し始める。


 ふかふかのじゅうたんを踏みしめながら、エリ、アクティーの後ろを一行は進む。

 さすがのエリも職務に励む会員たちがいる部屋を通り抜ける間は黙り込んでいた。


 ぐねぐねとあちこちの角を曲がるために、ラウダやローヴはすでにどこをどう歩いてきたのか分からなくなっていた。

 まるで一種のダンジョンを歩かされているようだと思い始めてきた頃、ローレルの冠をかぶった女の姿が描かれた鉄扉が見えてきた。

 エリはその扉を開き、一行はその中の広間へと通される。


 部屋に入るなり、ぐるりと取り囲む顔のない人形を見て、ローヴが小さく悲鳴を上げた。

 ただの人形だと言われほっと安堵するも、不気味な感覚は抜けず、しばらく人形をちらちらと見ていた。


「協会内にはおしゃれなものが多いですね」


 それに対してオルディナがこそりとアクティーにそう伝える。

 この人形といい、入り口の甲冑といい、おしゃれとはまた違う気がすると思いつつも、彼は肩をすくめた。


「大抵のものにはきちんと意味がある……って言われてるが、実際のところよく分からねえものも多いんだよなあ」

「ほらそこ静かに!」


 ひそひそと話していると、エリがびっと指を差して指摘する。

 へいへい、とアクティーが軽く謝罪の意を示すと、エリは満足げにうなずいた。


 そして奥にある大きな白い扉の方へと向き直ると、懐から白銀の鍵を取り出し、高々と掲げた。


「聞け! 我はダフネに与えられし聖樹の冠を頂く者なり! 我らの父へと続く栄光の道よ! 我らの父へと繋ぐ栄誉の扉よ! 全ての者の瞳を閉ざせし今こそ! 開け!」


 アクティーを案内した時と同じ手順で扉を開く。


「案内はここまで! じゃあ頑張ってねー」


 先ほどのはっきりとした声音からはすっかり元に戻り、彼女は明るくにっこりと笑い手を振った。

 一行は簡単に礼を述べ、彼女と別れると、扉の奥へとさらに足を進める。

 扉をくぐると、そこには部屋中無造作にあらゆる家具が置かれていた。

 アクティーは一度見た光景ではあるが、やはり慣れるものではないなと苦笑した。


「えっと、ここは?」


 ローヴが首を傾げ、尋ねる。

 部屋には誰もいない。

 以前来た時とは異なり、恐ろしいほどの威圧感はまるで感じられなかった。

 留守ならば好都合だとアクティーは振り返った。


「協会にはそれをとりまとめる大元帥がいるわけだが、その直下には5人の元帥がいてだな……ここはその元帥たちの部屋ってわけ」

「元帥の部屋にしては……」


 ノーウィンはそう言うと、部屋をぐるりと見渡した。

 言いにくいが、この乱雑さ。まるで子供部屋のように見えなくもない。


「まあそのなんだ……」


 アクティーは困ったように頬をかくと、声を落として話をつづけた。


「5人の元帥は、かなり個性が強い面々でな……協会の人間でも知らないことが多い」


 そこでアクティーは大きく咳払いをした。今の話はここだけにしてくれという意味だろう。


「元帥たちは、協会の5つの希望の星――五望星と呼ばれているんだ」


 そう言うと、アクティーは知っている範囲で五望星の面々の紹介を始める。



 アシク・レーメント

 通称、紫電の豪鬼。

 二刀流の魔法剣士で、剣に様々な魔法を付与し戦うという凄腕。

 元々傭兵だったのを協会が勧誘したとのことだが――白黒はっきりさせないと気が済まないややこしい性格だとか。



 シーラ・ティンダルネ

 通称、薔薇のシーラ。

 魔法使には珍しい、毒魔法の使い手。

 全身に毒の膜をまとっており、誰にも指一本触れさせないとか――ちなみに年齢不詳だ。

 見た目はなかなかの美人だったがな。



 ダイン・ロフト

 通称、魔弾の砲手。

 見た目からは想像もつかないが、巨大な砲を軽々と操り、魔砲弾を打ち放つ男。

 こいつも年齢不詳で、少年なのか青年なのか分からない――が、それが良いとかで女性会員からは人気が高い。



 エフリーネ

 通称、鉄壁の眠り姫。

 彼女に関しては特に謎が多い。

 どうやって戦うのか、どういう魔法を操るのか、全く情報がない。

 どっかのお嬢様だって噂もあるが――とにかく通り名の通りずーっと眠ってるって話だ。



 ムカジ・イガレイ

 五望星をまとめるリーダーで最年長。

 こいつに関しても謎が多く、まず通り名が不明。

 この間俺が来た時も留守にしてたしな。マナを自在に操れるって聞いたことがあるが――



「とまあこんな感じか」

「どんなプロファイルを聞かされるのかと思いきや……アンタの感想やら分からないことやらが多すぎないかい?」


 一通りアクティーが話し終えたのを聞いて、ガレシアが呆れ顔を浮かべた。


「だから言っただろ、協会の人間でも知らないことが多いって」


 文句を垂れるアクティーの横で、ノーウィンが何やら思い出したようだった。

 顔を上げ、口を開く。


「アシク・レーメントと言えば、請け負った依頼は必ずこなすって傭兵の間では有名な男だ。それこそ各国からの厄介な依頼を請けたりしていたとか。ここ数年話を聞かなかったが、そうか、協会に……」


 1人納得するノーウィンを見たローヴが不思議そうに頭を傾げた。


「協会側から勧誘されることもあるんですか?」

「ん? あー、魔法使の中でもよほど腕利きで名が通っていたりすると勧誘されることもあるみたいだな。過去にも賢者を協会内に引き込もうとしたことがあったとかなんとか」


 適当すぎて分かりにくいと不満を漏らすガレシアに対して、ローヴは別の点が気になったようだった。


「賢者、ですか?」


 不思議そうな顔を浮かべるローヴが異世界出身だったことを思い出し、アクティーはああそうかと話し出す。


「この世界には長年の研究の末、あらゆる魔法、知識に精通した存在が何人かいてな。そう言った人たちのことを賢者って呼ぶのさ」


 賢者といえばそれこそリジャンナのおとぎ話に出てくる存在である。

 絶望や暗闇の道の先を照らすという知識、どんな問題でも解決してしまう魔法を自在に使いこなすと言われる善なる存在だ。

 それを知り、かつ、自身も魔法を使うローヴは、ほーっと声を上げると顔を輝かせた。


「もしかして、魔法都市マルメリアに行けばその人たちにも会えるんですか?」


 ローヴがマルメリアのことを知っているのが意外だったようで、感心するも、アクティーは悩む。


「どうだろうな……賢者ってのは知識を求めてあまり一か所に留まらないって聞くしな……」

「それに近年賢者なんて呼ばれるのはハインくらいだしねえ。まあ名前しか知らないけどさ」


 ガレシアがそう言うと、オルディナが首を傾げた。


「賢者ハインは」

「誰かいるわ」


 彼女が何かを言いかけたところで、セルファが声を上げた。


 この部屋には誰もいないはず。“風雲の証”でもそう読んでいたアクティーがぎょっとする。

 今の適当な五望星談を聞かれているとなると色々とまずい。


 家具の間を縫ってセルファが歩いていく。

 その後ろを恐る恐る着いていくと、白いソファーの上で少女がすやすやと眠っていた。


「綺麗な人……」


 同じ女性でもあまりの美しさに精巧な人形かと思ってしまうほどだ。

 息をのむローヴの横で、セルファがささっと手を軽く振った。

 どうやら完全に眠り込んでいるらしい。全く反応がない。


「もしかしてこの方がエフリーネさんでしょうか?」


 オルディナが先ほどの話を思い出す。


「ああ、多分な。前に来た時もここで眠っていた、が……」


 アクティーが怪訝な顔をして言葉に詰まる。

 鉄壁の眠り姫――にしてはどこがどう鉄壁なのかはよく分からないが、間違いはないだろう。


「気配をまるで感じなかった……」


 アクティーはちらりとセルファとイブネスへ視線を投げかける。

 彼らもまた何の気配も感じなかったらしい。首を横に振った。


 ただ眠っているだけに見えて、実は裏で何か大きな魔法でも使っているのだろうか。


 皆不思議そうな顔を浮かべたが、彼女の眠りを妨げるのは如何なものかという判断、そもそもここで立ち止まっているわけにもいかないと考え、そっとその場を後にするのだった。

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