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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第16話 証拠
86/196

16‐3

 足取りは重い。

 誰も何も言わないまま、とにかく城から逃げるようにして、城下の東広場へとやってきた。


 唐突に先頭を歩いていたアクティーが足を止めた。

 振り返ると、後ろにいたラウダをにらみつける。


「どうしてあんなことをした?」

「…………」


 ラウダはうつむいたまま何も言わない。


「当然根拠があって言ったんだよな?」


 静かな声ではあったが、その口調には明らかに怒りが含まれていた。

 こんなにも怒ったアクティーを見るのは初めてだった。

 しかし、当のラウダは相変わらず何も答えない。

 さすがのガレシアもアクティーに同意しているのか、腕を組んだまま何も言わず、ラウダを見つめていた。


「仮にも王の前だぞ?」

「止めろ、アクティー」


 ラウダにつかみかかろうとするアクティーをノーウィンが制止する。

 しかし、アクティーの怒りは徐々にヒートアップしていく。


「分かってんのか!? 一歩間違えれば俺たち全員の首が飛んでたんだぞ!」

「…………」


 分かっているつもりだった。


 それでもラウダには抑えることができなかった。

 あのバケモノが最期に見せた映像が何かのメッセージのような気がして。

 いや、バケモノだけではない。

 あの古城そのものに何かがあるような気がして。


 ローヴとオルディナが不安な面持ちでラウダとアクティーを交互に見る。しかし彼女たちにこの状況を解決する力はない。

 対してセルファとイブネスはあくまでも静観するのみだった。


 アクティーの怒声に広場にいる周囲の人々がざわめき出す。このまま放っておけば兵が飛んできかねない。

 見かねたノーウィンが再度制止する。


「もういい、止めろ」

「もういい? もういいだと!? てめえも下手すりゃこいつに殺されてたかもしれねえんだぞ!?」

「止めな」


 そこへガレシアが口をはさんだ。

 アクティーはそちらを振り返りにらみつけるも、ガレシアのまっすぐな視線に黙り込んだ。


「どんな形でも仲間を侮辱するのは許さないよ」


 ガレシアのはっきりとした物言いに、アクティーは沈黙するしかなかった。

 周囲のざわめきが止んだ頃、アクティーが重々しく口を開いた。


「協会に行ってくる」


 それだけ言うと、仲間たちの方を振り返ることもせず、1人その場を後にした。

 残された一行はただただその場に立ち尽くすしかなかった。


 *     *     *


 荘厳な石造りの建物の前でアクティーは大きなため息を1つついた。


「……ったく、らしくねえな」


 ぼそりと独り言を言うと、メガネをかけ直し、足を踏み入れる。


 いくつもの甲冑の前を通ると、カウンター内で作業中だったミズ・マードが顔を上げた。


「ごきげんよう」


 アクティーが仰々しく礼をする。そして彼が大元帥に会いたい旨を話すよりも先に、ミズ・マードが口を開いた。


「ジェスト大佐、大元帥からの言伝を預かっております」

「言伝?」


 不思議そうに首を傾げるが、相手は全く気にする様子がなく、いつも通りの事務的な口調で淡々と話す。


「勇者と仲間を連れて私に会いに来るように、とのことです」


 思わず顔をしかめる。

 彼らとはついさっき険悪なムードになったばかりだというのに。

 とはいえ命令に逆らうわけにもいかない。アクティーは顔に出さないよう、内心で大きなため息をついた。


「承知いたしました。それでは出直してまいります」


 それだけ言うとアクティーはきびすを返す。


「そのような状態で大元帥にお会いするつもりですか?」


 そんな彼にミズ・マードが声をかけた。

 思わず足を止める。


「頭を冷やしてから来なさい」


 それまでの事務的な口調とは異なり、呆れつつもどこか優しげな声に、アクティーはふっと笑った。

 やはりこの人にはかなわないな、と。


 *     *     *


 移動することもなく、一行は広場で各々静かな一時を過ごしていた。

 静かといってもピンと張りつめたような空気なので、とても心臓に優しくはないが。


 誰が何を言い出すわけでもなく、沈黙だけが続く。


 ラウダは自分のしたことを間違いだとは思っていなかった。


 確かにアクティーの言う通り、仲間を危機にはさらした。

 しかし王のあの態度。やはり過去に古城で何かを行っていたことは間違いない。それも人体実験に近い何かを。

 それが彼自身なのか、先代なのか、はたまた別人なのかまではさすがに分からないが。


 そんなことをぼんやりと考えていると、ゆったりとした歩調でアクティーが戻ってくるのが目に入った。

 随分早い戻りに皆が驚いていると、アクティーは腰に手を当ててため息をついた。


「大元帥からのお達しだ。勇者と仲間を連れて来いってさ」

「そうか……」


 ノーウィンは簡単に返事をすると、ちらりとラウダの方を見る。

 相変わらずうつむいたままの少年に、アクティーはやれやれと首を振った。


「ラウダ」


 名前を呼ばれ、ようやくラウダは顔を上げた。


「俺はお前のバカげた行為を許すつもりはないし、謝るつもりもない」


 そういう彼はまっすぐにこっちを見つめてきた。先ほどのように怒りにらみつけるようなことはない。


「けどそれじゃキリがないからな。今回の一件についてはもう何も言わないことにする。だからお前ももう何も言うな。いいな?」


 ラウダはしばらく考えた後、小さくうなずいた。

 強引ではあるが何とか和解した2人を見て、皆ほっと胸をなでおろす。

 そしてアクティーに続いて一行は初めて協会本部へと足を踏み入れるのだった。

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