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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第15話 たどる運命(さだめ)
82/196

15‐8

 階段を上って3階にたどり着いたラウダ一行は、手近な部屋を順番に調べていた。


 3階にあるのは王族の部屋のようだ。

 ただし先ほどの部屋と異なり、本棚は空、タンスの中も空である。


 この部屋には大したものはなさそうだと、曇った鏡をのぞき込んでいると、何かが聞こえた気がして、顔を上げる。


 ――歌?


 今何か聞こえなかったかと皆に問おうと、後ろを振り返ったと同時に、何か重いものがずんっと全身にのしかかってくるような感覚に襲われた。


「な、なに!?」


 さらに周囲の温度が急激に下がったようにも感じる。

 それはラウダだけでなく、他の皆も同じものを感じたようだ。


「この気配は!」


 セルファは声を上げると、部屋を飛び出していった。それに続いてアクティーとイブネスも部屋の外へ駆け出す。

 何が何やら分からないまま、ラウダもそれに続く。


「城に入ってからずっとしていた気配だ。どうやらボスのお出ましみたいだぜ」


 気配の中心に向かって走るアクティーがどこか楽しげに笑いながらラウダにそう伝えた。

 ラウダはぎょっとしながら剣の柄に手をかけた。


 メンバーが半数しかいないのに果たして幽霊のボスになど勝てるのだろうか。

 しかしどこで合流できるのか分からない、待っている間に逃してしまうかもしれない。ならば先に敵の正体を暴いておくべきだろう。


 一行がたどり着いたのは玉座へ続く扉の前だった。

 扉は古びてしまってはいるものの、その大きさ、取っ手に塗られた金、彫られた竜の紋章がこの奥に控えるものの重さを今なお物語っていた。


 アクティーが3人の顔を見回す。

 全員がうなずいたのを確認すると、扉を勢いよく押し開けた。


 真っ赤なじゅうたんが敷かれた広い空間の奥には、王と王妃の座があった。

 そしてそこには青白い影の少年と少女が座っている。

 そっくりな顔をした2人は同じように足をぶらつかせ、顔を見合わせながら、何やら歌を歌っていた。



 おうじさまおうじさま もりのおひめさまにこいをした

 おひめさまおひめさま しろのおうじさまにこいをした


 おとうさまおとうさま みにくいおんなだとおいかりで

 ドラゴンにドラゴンに おひめさまぱくりとたべさせた


 おうじさまおうじさま かなしんでおひめさまにあいに

 ドラゴンにドラゴンに じぶんもぱくりとたべられた


 ドラゴンのドラゴンの おなかのなかでぐちゃぐちゃに

 おひめさまおうじさま おなかのなかでいっしょくたに


 ふたりずっとずーっと にっこりしあわせになりました



 童謡のようにも聞こえたが、それにしては内容がひどい。

 思わず顔をしかめた。


 しばらく同じ歌を繰り返し歌っていたが、やがて歌うのを止めると、こちらを向いて椅子から飛び降りた。


「きみたちもいっしょになりにきたの?」


 少年がそう問うてくる。その隣で少女はうふふと楽しそうに笑った。

 その言葉の意味はよく分からなかったが、歌の内容からしてもとても良いものとは思えない。


「あいにくそういう趣味はねえな」


 アクティーがそう返すと、2人は不思議そうに顔を見合わせた。


「しゅみ? ぼくたちもそういうしゅみはないよね?」

「ええ、わたしたちはえらばれてしまっただけよね」

「選ばれた……?」


 少女の言葉にラウダが首をかしげるも、セルファがこちらをにらみ、首を横に振った。

 敵の言葉に耳を貸すなと言いたいらしい。

 そんな彼女に気づいたのか気づいていないのか。2人の視線がこちらに向いた。


「てき?」

「てきならはいじょしなくちゃ」


 そう言うと2人は互いの手を合わせ、握った。


「「それがさだめだから」」


 どこからともなく吹きすさぶ黒い風が、不気味な笑みを浮かべる2人を包んでいく。


「来るぞ! 構えろ!」


 アクティーの言葉に全員が武器を構える。

 渦巻く黒風を割って出てきたのは、今まで戦ったどの魔物とも異なるものだった。


 ――バケモノ。


 “それ”を見て一番に出てきた単語だ。他に形容する言葉が出てこない。

 幽霊のボスというからこれまた透けた魔物が出てくると思っていたのに、とんでもない。


 顔の真ん中に縫い付けられた糸は、元々2人分だった顔を無理やり1つに縛り付けていて。

 首の辺りからはこれまた無理やり突き刺したような、ひん曲がった鉄パイプが。

 体にも両腕があるというのに、本来耳があるであろう箇所からも両腕が突き出している。

 体は麻袋。そのあちこちから様々な形のネジが飛び出していた。

 足は見えない、が、ずるずると引きずって進むにつれて、後ろに赤黒い“何か”がべたりべたりと地面を汚す。


 漂う腐臭。


 あれは――なんだ?


 そのあまりの異様さ、ショックによって、ラウダは構えが崩れ、嘔吐した。


 それに構うことなく真っ先にセルファが飛び出していくと、合わせてアクティーはメガネを押し上げ、集中力を高めていく。

 ダガーが敵を切り裂かんと振り下ろされるより早く、敵は素早く跳躍、刃は空を切った。


 中身が何なのかは分からないが、とても物の入った麻袋とは思えないほど、実に軽々とした飛び跳ね。宙に浮きあがった相手は握り拳を作った。

 そしてとんでもない速さで握り拳が目標に向けて放たれる。

 それが自分だと気づく頃には、拳はラウダの顔面に迫っていた。


 激しい音を立ててそれを防いだのは、ラウダの前に立ち塞がったイブネスの剣だった。


「立て」


 振り返ることなくただ一言発すると、イブネスは剣で相手の拳を弾き返した。

 ラウダは手の甲で口元を拭うと、再度剣を構えなおした。


 一方、刃で斬り付けられたにも関わらず、相手はひるむことなくその場に着地すると、両腕で素早く地をはいずり始めた。

 耳辺りから生えた両腕で握り拳を作ると、今度はアクティーに狙いを定める。

 そのことを察知すると、アクティーはその場から飛び退き、右手を突き出した。


「ウェントカッター!」


 渦巻く風が敵の体を切り刻む。が、敵の勢いは止まらず、アクティーがいた場所を力強く殴りつけた。


 ビシッと嫌な音がした。

 拳を引っ込めると、殴りつけられた箇所がひび割れている。なかなか重みのあるパンチのようだ。


 セルファが緩やかに舞い始め、魔法発動の準備に取りかかる。


 素早くイブネスが行動する。横を向いている敵に向けて、右下に構えた刀身を左上に斬り上げる。

 だが、敵はそれよりも素早くぐるりと振り返り、イブネスに向けて片手のみのパンチを放った。

 とっさに剣でガードするも、その拳は重い。軽く吹き飛ばされる。

 ズザザと地に足をこすりつけて着地すると、イブネスはさらに攻めの姿勢に転じる。

 勢いよく地を蹴ると、再度敵に斬りかからんと両手に持つ剣に力を込める。


 それと同時に魔法を完成させたセルファが声を上げた。


「ロックニードル!」


 イブネスの剣とセルファの魔法が迫る中、敵は斜めに飛び上がると、壁に、それから天井に張り付いた。

 吸盤でも付いているのだろうか。4本の手で器用にガサゴソと天井をはい、部屋の中央にあるシャンデリアに飛び乗った。


 縫い合わされた不気味な顔がぐるりと4人を見回す。

 目がラウダを捕らえた。


 バッとシャンデリアから飛び降りると、今度は両手を組み合わせ、ラウダにたたきつけた。

 素早くラウダがその場から数歩移動する。たたきつけられた拳から腕を、手にした剣で床からまっすぐに斬りつけると、その場から飛び退いた。

 はいずった跡と同じ赤黒い液体がボタボタと流れ出す。


 しかし敵は変わらずひるむことはない。その場に着地すると、近距離にいるラウダの目を見つめる。

 気持ち悪いが、そこから目をそらせばその隙に攻撃を仕掛けられるかもしれない。ラウダは真っ向からにらみつけた。


 耳から生えた両腕が頭上で握り拳を作った。何をしでかすつもりなのか。

 ラウダはさらに数歩後ろに下がり、距離を取った。つと額から汗が流れる。


 だが、その拳は視線の先とは真逆に放たれる。

 そこには、敵の背に斬りかかろうとしたセルファがいた。

 拳を正面から受けたセルファが勢いよく吹き飛び、壁にたたきつけられた。


「セ――」


 名前を呼びかけようとするが、敵は相変わらずラウダの目を見つめてそらさなかった。



 太陽の――



「え?」


 どこからともなく声が聞こえて、ラウダは眉をひそめた。



 助けて――



 腕が持ち上がり、ラウダを捕らえようと素早く伸ばした。


 直後、その腕は銀の鎖に絡み取られた。

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