表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第15話 たどる運命(さだめ)
79/196

15‐5

 そこで初めて3人とも、イブネスが後方でじっと様子をうかがい続けていたことに気づいた。

 サボりかと言いたいところだったが、今はそんな余裕もない。


 彼は剣を左手に持ち直すと、右手に握りこぶしを作り、何事かをつぶやき始める。

 魔法の詠唱だ。

 炎を放ち続けている敵の傍でうずくまっていた3体の霊たちが突然起き上がる。それを阻もうと猛スピードでイブネスに詰め寄る。


「ウェーブ!」


 それよりもさらに早く、イブネスが握りこぶしを解き、ばっと前へと突き出した。

 手のひらから出現した大量の水が、波のように怒涛の勢いで霊たちに降り注ぐ。水の初級全体魔法だ。

 びしょ濡れになった敵を紫の瞳が鋭く睨みつける。


「そのまま凍れ……グラキエス!」


 今度は氷の初級全体魔法。

 発動と同時に、右手のひらが青く輝く。

 瞬間、濡れていた霊たちは氷の塊となってがらんと地に落ちた。


「イブネス……?」


 ラウダが驚いた声で彼の名前を呼ぶ。

 無理もない。


 突き出された右手のひらには、青い光を放つ、複雑な文様が描かれているのだから。


「あなた、水の……!?」


 セルファもまた驚きの声を上げるが、イブネスは首を横に振り、それを制した。


「そのまま動くな……」


 イブネスはそう忠告すると、再度右手に剣を持ち、構えなおした。


「目覚めよ水鬼……その豪腕を振るえ……」


 右手の輝きが、手にした剣まで伝わる。


 怒り狂う霊の炎が今まで以上に膨れ上がり、巨大な塊と化してイブネスのもとへと一直線に発射される。

 しかしそれに動じることなく、青く輝く剣でそれをぶった切ると、そのまま地面へと突き立てた。


 青い刀身から放たれる冷気が地面を凍らせる。

 氷柱が次々と立ち上り、地を走る。


 霊は危機を感知しその場から離れようとするも、すでに遅かった。

 氷柱に捕らわれた霊はあっという間に飲み込まれ、氷漬けになる。


 そこへ突き立てた剣を抜き放ったイブネスが猛スピードで突っ込み、立ち上っていた氷柱を剣で次々と粉々にしていく。

 凍り付いた霊は、悲鳴を上げることも許されず、そのまま砕かれ他同様に粉々になった。


 宙を舞う氷の欠片がキラキラと輝きながら地面へと散らばる。


 そしてイブネスは静かに剣を鞘へと収めたのだった。


「おいおい……」


 呆気に取られていたアクティーは、立ち上がり剣を収める。

 同様にセルファとラウダも立ち上がり、武器をしまう。


 圧倒的な力量を前に、ラウダはごくりと喉を鳴らした。

 そんな彼の右手が、白銀の光を放つ。

 それに呼応するように、黄と緑、そしてイブネスの右手も青く輝き出す。


「イブネス……証の所有者だったんだね」


 彼はラウダが太陽の証の所有者だと気づいていたようだ。

 今までの彼の視線の意味を理解したラウダがそう声をかけると、イブネスは静かに3人の方へと振り返った。


「いかにも……俺が“水鬼の証”の所有者だ……」

「同じ証所有者だって分かってんだったら、なんであの時言わなかった?」


 森で出会った時のことを思い返しながら、アクティーが不満そうにそう尋ねると、イブネスは目を伏せた。


「今はまだその時ではないと距離を置いた……だが、運命には逆らえなかったようだ……」


 どこか寂しそうにも見えるが、マントに隠された表情はうかがえない。


「できることなら本当は――」

「え?」


 うまく聞き取れず、ラウダが疑問の声を上げるも、イブネスはただ首を横に振っただけだった。


「なんでもない……お前は気にせず前へ進め……」

「う、うん……」


 水の証を持つイブネス。しかしながらどういった人物なのか。どう接すればいいのか。

 セルファとアクティーの方もちらりと見やる。

 どうにもやりにくいメンバーだなあと内心ため息をつきつつ、ラウダは前へと歩み出すのであった。


 *     *     *


 楽しそうな笑い声を上げながら、3人の子供たちが辺りを駆けまわる。

 いずれも足がなく、透けており、表情がよく分からない。


 一見敵意がないようにも見えるが、無邪気にこちらを指差すと、どこからともなく現れた大小さまざまなガラス片を、こちらへ向けて飛び散らしてくる。


「霊とはいえ、子供相手ってのはやりにくいな……」


 苦虫をかみ潰したような顔でノーウィンがそうつぶやいた。


 隠れる場所のない長い廊下で、前線に立つノーウィンとガレシアはそれぞれ全身に切り傷を負っていた。

 その後ろでは、ローヴとオルディナがそれぞれ魔法を発動するため集中している。


 両手で握りしめた杖を頭上に掲げ、オルディナが詠唱を完了させる。


「プロシード!」


 守りを高める魔法。オレンジ色の暖かな光が、4人の全身を包み込む。


「イグニス!」


 その横で、ローヴが目を開き、手を前に突き出す。

 放たれた小さな火球は、子供の1人に迫るものの、素早くかわされてしまった。


 ――だがこれでいい。


 飛んできた火の玉に驚く子供たちの手が止まる。

 その一瞬の隙をついて、ノーウィンがだっと駆け出した。

 それより先にガレシアの銀の鎖、その先端のトゲが1人を貫いた。


 ああああっ


 残された子供たちは慌てふためくが、彼らが次の行動を起こすよりも早く、ノーウィンが1人を貫き、さらにそのまま隣にいたもう1人を切り払った。


 痛いよお……痛いよお……


 痛みにもだえ苦しむ子供たちは、手を伸ばし助けを求める。

 そんな彼らに何もしてあげられず、4人はただ憐みの目を向けるしかなかった。


 ここでの戦闘は終わった。

 そう思った直後、周囲に黒い風が巻き起こる。

 あまりにも勢いのある旋風に思わず目を覆う。


 次に目を開けると、そこに――


 グガオオオオオオン!!!


 黒く巨大な3つ首の獣が立ち塞がっていた。


「なんだこいつは!?」


 ノーウィンが驚きの声を上げるも、答えられる者はいない。

 振り返ると、先ほどの3人の子供の姿はない。


 3人、3つ首――まさか。


 しかし考える間も与えず、獣は前足を大きく振り払った。


 前線に立っていた2人はその場から後ろへと大きく飛び退り、なんとか攻撃をかわす。

 ガレシアがその場に踏ん張り直し、素早く鎖を獣へ向けて放つも、もう一方の手であっさりとなぎ払われてしまう。


 先ほどの子供たちと違い、廊下を立ち塞ぐ獣が大きすぎて、このままでは正面から激突するしかない。

 後退するにも、1階への階段は家具の山で塞がれてしまっている。


「ここじゃちょっと狭すぎるねえ……」


 ガレシアは軽く舌打ちすると、再度敵に向けて鎖を構えた。

 その後ろでは2人が、突然出現した獣の存在に驚きつつも、再度魔法を撃つべく集中力を高めていた。


 だが、何よりも先に獣が大きく振りかぶり、地面に両足をたたきつけた。

 獣の方も狭苦しいこの場所が気に入らないようだ。

 地団太を踏む子供のように何度も何度も地をたたく。


「ちょ、ちょっと」


 激しい音と揺れ、砂ぼこりに、思わず集中力が途切れてしまったローヴが戸惑いの声を上げる。

 その隣でオルディナが魔法を完成させる。杖を敵に向けて振りかざした。


「ウェントカッター!」


 勢いよく発された風の中級魔法が刃となって敵を斬り刻む。

 痛みに悶え、もがく。そしてさらに勢いよく地面をたたきつけた。


 その時だった。ピシピシと不快音が辺りに響く。


 頑丈にできているであろう石床にひびが入る。それを確認したのが最後、4人は2階から落ちていた。


「わああああっ」

「きゃああああ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【小説家になろう 勝手にランキング】
よろしければポチっと投票お願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ