15‐3
「それにしてもオルディナはどうしてここに?」
一行は1階の広間に戻ると、2階への階段を上がった。
途中、ローヴがオルディナに尋ねた。
その疑問は誰もが抱いていたことだった。
「メルスで王様が困っているって聞いて。それで依頼を受けてここに」
どうやら先に古城へ向かった旅人というのはオルディナとイブネスのことだったようだ。
「2人は傭兵だったのか?」
とてもそうは見えないと言いたそうにノーウィンが尋ねると、オルディナは首を横に振った。
「いえ、見識を広めるための旅をしているところなんです。わたし世間知らずなところがあって……」
思わず、知ってる、と言いそうになるのをこらえ、へえと相づちを打った。
オルディナは前を向くと、話を続ける。
「イブネスお兄さんはパパが雇ったボディーガードなんです」
意外な2人の関係に一行は驚き、顔を見合わせた。
そこで気になったことをローヴが尋ねた。
「パパ?」
娘を、ボディーガードを雇ってまで旅に出すような親だ。もしかすると彼女は大金持ち、あるいは貴族の娘なのかもしれない。
「あ、はい、わたしのパパは――」
「オルディナ!」
オルディナが話しかけたところで、聞き覚えのある男の声が聞こえた。
前を見ると、向こうから駆け寄ってくるマントをまとった男の姿が確認できた。
「お兄さん!」
イブネスは一行を見て険しい顔をしたが、すぐに見知った顔だと気づいたようだ。少し驚いた表情を浮かべた――ように見えた。
何しろあたりが暗いうえ、顔の下半分がマントで隠れているのでどういう表情をしているのかはっきりと分からないのだ。
一行の前で立ち止まると、全員の顔を見渡す。
「お前たちは……」
「えと、お久しぶりです」
ローヴがそう言って会釈すると、彼はこくりとうなずいた。
「どうやら……またしてもオルディナが世話になったようだな……」
今回はすぐに状況が理解できたようだ。軽く頭を下げた。
「気にしないでくれ。少し一緒に行動しただけだ」
ノーウィンがそう言うと、彼は頭を上げた。
そして、じっとラウダの方を見つめた。
驚いたものの、ラウダも彼を見つめ返す。が、すぐにふいっと目をそらされた。どういうことだろうか。
「しかしオルディナどこに……」
そう尋ねかけてイブネスは首を横に振った。
「あの」
「いやいい」
さすがに行動を共にしているだけあるからか、なんとなく察しているようだ。
オルディナがしゅんとなる。
「……怒っているわけじゃない」
イブネスがそう言うと、彼女はぱっと明るくなった。
分かりやすいオルディナに対して、イブネスはいまいち何を考えているのかが分かりにくかった。
「お前も王からの依頼を受けたんだってな。なんだってまた」
「それはわたしが、王様が困っているのを放っておけなくて……」
てっきりイブネスが依頼を引き受けたのかと思い、アクティーが尋ねたが、意外なことに受けたのはオルディナだったようだ。
「俺はオルディナのボディーガードだ……彼女がどうしようとそれに従うのみだ……」
そこでイブネスは再度ラウダをちらりと見やった。
「だが……」
ラウダが首を傾げるも、またしても目をそらされてしまった。
一行の間に沈黙が流れる。
アクティーがふうと小さくため息をついた。
「それで? そちらさんは幽霊とやらを見つけられたのか?」
「いや……はっきりとは。だが、明らかにここには何かがいる……」
「同感だわ」
そこで突然今まで黙りこくっていたセルファが口を開いた。
「おっとセルファちゃんもか。俺もそんな気がしてたんだ」
驚く一行だったが、アクティーのみそれに同意を示す。
「2階に上がった途端、空気が淀んでるのを感じた」
「それに何かの視線を感じるわ……」
ノーウィンとガレシアが顔を見合わせる。2人は何も感じないようだ。
「証を持つ者の感覚ってわけかい?」
そこでオルディナがちらりとイブネスの方を見やったのをラウダは見逃さなかった。
やはりこの男、何かある。
確信はない。ただの直感だ。
「あの、もし良かったら2人も」
一緒に行かないかとローヴが誘いの言葉をかけかけたところで、突然イブネスが、一行の真ん中にいたオルディナを突き飛ばした。
「きゃっ」
何をするのかと問い詰める間もなく、一行を分断するように、どこからともなく大量の家具が飛んできた。
ラウダ、セルファ、アクティー、イブネス
ローヴ、ノーウィン、ガレシア、オルディナ
それぞれ4人ずつに別れてしまった。
積み上げられた家具――長椅子、ベッド、クローゼットなど――を見やるが、これでは通れないし、向こうの様子も確認できない。
「おい! 無事か!?」
ノーウィンが声を上げる。
尻もちをついたラウダが3人の顔を見渡す。
「う、うん、こっちは大丈夫!」
幸い、全員けがはないようだ。
しかし、もしイブネスがオルディナを突き飛ばしていなければ、彼女は今頃家具に押し殺されていたかもしれない。
「あ、危なかったね……」
「は、はい……びっくりしました……」
地面に倒れていたオルディナがゆっくりと身を起こす。
「でも、どうしよう……」
ローヴは目の前に高く積み上げられた家具の山を見つめた。
「仕方ねえな。このまま奥へ進もうぜ。どっかで道がつながってるだろ」
アクティーの言う通り、これをどかせるとは思えないし、このままじっとしていても仕方ない。
それに、今の現象で確信が持てた。
ここには何かがいる。
「それじゃ、また後で!」
ガレシアの声をきっかけに、お互いはそれぞれ先を歩き出した。




