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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第15話 たどる運命(さだめ)
75/196

15‐1

 アクティーに言われるがまま、一行は王都の最奥にある城へとやってきた。


 顔を上げると見える、両端にある塔の上には赤い旗が立てられていた。描かれているのは金糸で、大きな口を開いた竜。この国の紋章だろうか。


 入り口を守る番兵に協会からの使いであることを伝えると、しばらく待たされはしたが、話が通るや否や、あっという間に謁見の間まで通されてしまった。


 謁見の間にたどり着くと、城に至る道中、自分の真似をしておけば大丈夫だと言っていたアクティーに合わせ、ひざまずくと頭を垂れる。事前に注意されていた通り、ラウダはピンを、ローヴは帽子を脱ぐ。


 大勢の兵がいるというのに、謁見の間は恐ろしいほど静まり返っていた。

 緊張で手に汗がにじむ。手だけではない、体からも汗が吹き出し、シャツがへばりつく。

 芝居の本番でもここまで緊張することはない。


「顔を上げよ」


 しわがれた声が響く。

 ちらりとアクティーを見やると、彼は言われた通り顔を上げている。

 慌てて同じように顔を上げると、白髪の年老いた男性が、金縁に赤い豪奢な椅子に座っていた。


 王だ。


 芝居などで見るのとは当然だがまるで違う。重々しい空気をまとった彼こそがこの国の王なのだ。

 話には聞いていたが、実際に目の当たりにして緊張感が増す。鼓動が早くなる。息が苦しい。

 これから悪いことをするわけではないが、彼の一声によってはその場で処刑されることも考えられるのだ。

 カラカラの喉に、ごくりと唾を飲み込む。


「そなたたちがシルジオより伝え聞いた旅人だな」


 ゆっくりとした口調でそう問われ、アクティーは口を開く。


「その通りでございます」

「ふむ? そなたのそのコートはシルジオのものと見受けたが」


 王は眉をしかめる。

 しかしアクティーにとっては想定内の問いだ。事前に用意していた答えを述べる。


「私は今回彼らの案内役として付き添いを命じられた者です」

「なるほど。そういうことならば安心だな」


 王は納得がいったように首を大きく縦に振った。

 やはり協会側は国にラウダたちが勇者一行であることを告げていないようだ。

 ラウダは内心で安堵する。


「今回そなたらを呼び寄せたのは、メルスの古城に出現した魔物を退治してほしいからだ」


 メルスに古城が存在するなど初耳だったラウダとローヴは首を傾げるが、今それを聞くわけにもいかない。大人しく黙っていることにした。


「魔物、ですか? それならば国の精鋭部隊で退治できるのは?」


 アクティーは別の点が気になったようだ。疑問点を問いかけた。

 王は困ったような表情を浮かべると、伸びた白髭をなでる。そして側に控えていた、少し背の低い小太りの中年男性に視線を投げかけた。

 豪華な服を身にまとった男は、こちらに一礼する。

 恐らく彼は大臣だろう。小さく咳払いをすると、アクティーの問いかけに答えた。


「貴方の仰る通り、古城に魔物が現れたと聞き、すぐに我が国の精鋭部隊が突入したのだが……相手は幽霊だったのだ」


 幽霊という単語を聞き、全員が眉をひそめる。

 大臣はやれやれと首を横に振ると、事の結末を語った。


「幽霊に普通の武器は効かない。部隊はなすすべもなく撤退してきたのだ」

「我が国に魔法使の部隊は存在せぬ。まして今回は我が国の問題。国内、国家間の問題に手出ししないと決めているシルジオにも頼めぬ」


 大臣に続けてそう語った王は、小さくため息をついた。

 納得がいったようにアクティーは大きくうなずいた。


「そこで旅人を雇うことにした、というわけでございますね」


 その通りだと王はうなずく。

 隣では、大臣が浮かない表情をしていた。


「実は、そなたらの前に一組の旅人に依頼をしたのだが、全く音沙汰がなくてな……」


 協会からそんな話は聞いていない。

 アクティーは密かに眉をひそめる。


「それにしてもまさかシルジオが使いを出すとはな。あれほど中立を重んじていたというのに」


 不思議そうに言う王に、まさか協会が今回の件を勇者の試練としているなどと言い出せるはずもなく。


「……今回の事態は大きな被害が出るかもしれないという大元帥の判断です」

「なるほど。確かに今回は、近くを通りがかった隊商が襲われたことが事の発端。このまま放置すれば、さらに大きな被害が出るやもしれぬ」


 アクティーの言葉に納得した王は、さらなる被害を憂いているようだった。


「それではさっそくだが、古城に向かってもらえるな?」


 大臣の言葉に対して、当然ながら拒否権はない。

 一行はそろってうなずくのであった。


 *     *     *


 足早に城を後にし、兵の目も届かなくなったところでようやくラウダとローヴは大きく息を吐いた。


「生きた心地がしなかったよ……」

「しかし幽霊か……」


 手汗を服でごしごしと拭くラウダの横で、思っていたよりも厄介な敵の出現にノーウィンが困った表情を浮かべていた。


「どうやらうわさは本当だったみたいだね」


 ガレシアが腕を組んでそう言うと、全員が不思議そうに彼女を見つめた。


「うわさ?」

「ああ、町でちょっと耳にしたのさ。古城で化け物が出たってね」


 ラウダの問いに答える彼女に、アクティーは呆れた表情を見せた。


「なんだ、知ってたのかよ」

「あくまでうわさだよ。真相を聞かないことには確信が持てなかったしね」


 ガレシアはきっぱりとそう言い、腕を組んだ。

 やれやれと首を振るアクティーの隣で、ローヴは帽子をかぶりなおすと、ポツリとつぶやく。


「この世界には幽霊も実在するんだ……」


 おとぎ話に登場するドラゴンの次は幽霊。

 リジャンナでも幽霊の話はあるが、実在はしない。はずだ。

 そのため、てっきり大人が子供を怖がらせるだけの迷信だと思っていた。


「まいったな、俺じゃ足手まといになりそうだ」


 ノーウィンの言葉に、大臣の話を思い出す。

 幽霊に普通の武器は効かない――一国の精鋭部隊が撤退してきたというからには力押しは無理そうである。


「僕も……」


 ラウダも肩を落とす。

 未だに証を使いこなせないために、魔法の使い方がいまいち分からない。

 勇者の試練と言いつつ、肝心の彼が役に立たないのでは話にならない。


「とりあえず協会に行ってみるか。謁見が終わったらもう一度来るようにって言われてるんでね」

「何か対策でもあるのかな」


 ローヴが首をかしげるが、こればかりは実際に行ってみないことには分からない。

 一行はアクティーに連れられて、協会本部へと向かうのだった。


 *     *     *


 城とは異なる荘厳な雰囲気の協会本部を前にして、またも緊張するラウダとローヴ。

 そんな2人を見て、アクティーはにやにやとさぞ楽しそうに笑っていたが。


「アーくん! 待ってたよー」


 場違いな、間の抜けた女の声が飛んできた瞬間、その表情が固まった。

 見れば、こちらに向けて手をぶんぶんと大きく振る女性が入り口に1人。

 その側には陽の光を受けてきらりと輝くものが複数置いてある。

 アクティーは小さく咳払いをすると、そちらへと歩み寄る。それに続き一行も彼女のもとへと向かう。


「大元帥からの命令で、銀製の武器を準備したよ。お好きなのをどーぞ」


 そう言う金髪の女性――エリは手を広げ、地面に敷いた大きな布の上、そこに広げた様々な種類の銀製の武器を示した。

 剣に槍はもちろんのこと、弓矢や殴ると痛そうなトゲ付きのメイス、なぜかスパナなんかも置いてある。

 ずらりと全部で30種類はあるだろうか。剣だけでも十数種類はある。


「大元帥は王命の内容を知ってたってわけか」


 呆れたようにそう言うと、アクティーは今まで背負っていた幅広の大剣を地面に置き、銀製の大剣を拾い上げた。

 同様にノーウィンも銀の槍を手に取る。


「幽霊が銀に弱いって本当なんだ」


 リジャンナでもおとぎ話で幽霊が銀に弱いという話を聞いたことがある。真実は不明だったが。

 剣を新しいものに装備しなおすラウダの隣で、ローヴが剣を手に、何やら悩んだ顔をしていた。


「ローヴ? どうしたの?」

「その……せっかく買ってもらったのになあと思って」


 そう言って、剣を握りしめた。

 そういえば今まで使っていた剣はベギンの街でノーウィンに買い与えてもらったものだった。

 せっかく人にもらったものをそう簡単に手放していいものか、それを悩んでいたのだ。

 それに対してノーウィンは、ははっと笑い飛ばした。


「武器なんて消耗品。どんなに大切に手入れしてもいつかはダメになる。だから別に気にすることはないさ」

「そそ。それに大切に2本も3本も持ち歩いたところで使わないし、いらないだろ?」


 2人にそう言われ、うーんとうなった後、彼女は決意したようにこくりとうなずき、持っていた剣を手放した。

 そして何本か試しに拾い振ってみた後、比較的軽い剣を選んだ。

 それぞれが武器を装備したのを確認すると、エリは少し大げさにうなずいた。


「じゃああたしみんなが出発したって報告してくるから。頑張ってねー」


 手を振ると、さっさと建物内に入っていってしまった。

 思わずそのまま放置された武器たちを見るが、さすがにこのままにはしないだろう。

 後で片付けられるものだと思い、その場を後にすることにした。


 大臣の話では、自分たちより先に古城へ向かった旅人がいるとのことだが、もし彼らの身に何かあったのなら急ぎ助けねばならない。


「アーくん、ねえ」


 その途中、銀の鎖を腰に携えたガレシアが白い目でアクティーを見やった。


「な、なんだよ」

「別に」


 ぷいっとそっぽを向くガレシアを見て、ローヴは質問したくてたまらなかったらしい。


「さっきの人ってアクティーさんの何なんですか?」


 何か恋愛事の匂いを感じたのか、彼女の眼はきらきらとしていた。

 アクティーはわざとらしく大きく咳払いをした。


「ただの同期だよ。ど・う・き。ローヴちゃんのご期待に応えられるようなものじゃない」


 ふーんと言ったローヴだったが、なんだか納得していないように見える。

 やれやれと呆れるラウダと苦笑するノーウィンが顔を見合わせていた。

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