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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第14話 王都にて
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14‐1

 びしぃっと鞭打つ痛々しい音が辺りに響く。

 ガレシアが鞭を手繰り寄せると、辺りに黄緑色の羽を飛び散らせながら、鳥型の魔物がラウダの方へと向かう。


「ラウダ! そっち行ったよ!」


 とはいえ、その羽で飛べるわけではない。むしろ気を付けなければならないのは、そのトサカだ。


 スプリングハチェット。その名の通り、飛び跳ねて斧の形をしたトサカを振り下ろす。その威力は地面を簡単にえぐるほどである。


 跳び上がりトサカを振るったところを、バックステップでかわすと、ラウダは横に()ぎ払った。

 敵はクケエッと最期の一声を上げると、横倒しになり動かなくなった。


 斧の部分が硬いうえに邪魔になってなかなか攻撃できない敵だが、ガレシアの鞭によって手負いのところを斬り伏せることができた。


 ふうっと一息ついたところにガレシアが片手を上げてやってきた。それに微笑むとこちらも片手を上げ、ハイタッチを交わした。


「こっちも終わったぜー」


 アクティーの声に合わせるようにして、皆が合流してきた。


 この敵は街道周辺を縄張りにしており、出会い頭に攻撃してくる少々厄介なやつだが、数はそんなに多くない。

 人数が増えたことと、強敵を相手に連続して戦い続けていることで戦力も増している一行にとっては大した敵ではない。


「……ここは異常ないようね」


 短剣を鞘に収めながら、セルファが歩み寄ってきた。

 今まで大量だったり巨大化していたりと厄介事が多かったがここでは特に問題ないようだ。


「メルスはもうすぐそこだ。あと少し頑張ろうな」


 所々で戦闘を行ったうえ、元々距離がある道だっただけに早くも日が暮れ始めていた。

 ノーウィンのかけ声に、ラウダは小さくうなずいた。

 そしてちらりと幼なじみの方へと視線を向ける。

 アクティーと何事か話している彼女は、楽しそうに笑っていた。


 先の一件でかなり落ち込んでいたため皆心配していたが、今ではいつものように元気な姿を見せている。

 それが本当にそうなのか、それとも無理をしているのかどうかは分からないが。


 その後も歩を進め、坂道を登りきる。


「うわあ……!」


 目と鼻の先に広がるのは絶景。


 ぐるりと四角く囲む、高く強固な城壁。

 その内に広がるのは、赤い屋根の家々や丸い屋根の建物、所々にある背の高い建物。

 そしてその中央にそびえ立つのは、青いとんがり屋根の一際大きな建築物。赤い旗が風にはためいている。


 あれこそが城に相違ない。白い壁に真っ赤に燃える夕日を受けた様は実に神々しい。


 王都メルス。


 城というものがおとぎ話の中の存在だけだったラウダとローヴは、ただただ目を見開くばかりだった。


「こんなもので驚いてちゃ、中に入った時には腰が抜けちまうかもな」


 楽しそうにアクティーがそう言った。


 *     *     *


 長いレンガの街道を越えた一行が最初に出会ったのは複数人の兵士だった。

 城壁の一部分、入り口となっている場所に立っていた彼らは、町を出入りする人間をチェックするのが仕事だそうだ。


 この城壁を造るのに一体いくつの石と時間を使ったのだろうか。

 何気なく上を見ると、5〜6メートルほどの高さにいくつもの鋭い先端を持つ黒いものが見えた。落とし格子である。

 町に危険が迫った際にはこれと、両脇にある鉄製の、見るからに重々しい城門で入り口を閉じるのだ。

 と、これまたノーウィンから聞いた話なのだが。


 アクティーが何やら兵士と会話をしている間、そこから見える町並み――連なる家々、伸びる階段、何より人の多さ――にラウダとローヴの2人は、さすがに腰が抜けたりはしなかったものの、ぽかんと口を開き、ただただ目を丸くしていた。


 いくつか会話を交わすと、アクティーは懐から何かを取り出した。きらりと光が反射する。

 さらに会話は続き、側に立つ兵士は手にした紙束に何事かを書き込んでいく。


「一応決まりなので」

「分かりました。では」


 珍しく丁寧な口調で兵士の言葉にうなずくと、アクティーは背負っていた剣を足元に置き、両手を上げた。

 その様子を見たセルファも同じように武器を足元に置くと、手を上げる。

 ガレシアに至っては鞭だけでなく、どこに隠していたのだろうか、コートの中やブーツから数本のナイフを取り出し、同様に置いた。

 きょとんとする2人にノーウィンがこっそりと耳打ちをしてきた。


「無害であることを証明するために身辺検査をするんだ」


 そしてノーウィンもまた武器を足元に置き、両手を上げた。

 2人も慌てて、皆に(なら)う。


「失礼します」


 そう言うと数人の兵士たちが、それぞれの体をぽんぽんと触り始めた。

 武器の他に何か隠し持っていないかを調べているのだ。

 当然ラウダとローヴの元にも兵士がやってきて体をぽんぽんと触る。


「ひゃう!」


 突然ローヴが奇妙な声をあげて、手で体を隠すと真っ赤な顔で兵士の方をにらみつけた。


「し、失礼しました! まさか女性の方だとは、その」


 そう言う兵士も顔が真っ赤だ。

 困ったような顔のノーウィンの後ろでは、アクティーが笑いを押し殺していた。


「ご協力ありがとうございました」


 一通り身辺検査を終えると、それぞれ武器を拾い上げ元通りしまう。

 敬礼する兵士たちの元を後にし、ようやく王都へと足を踏み込んだ。


「大丈夫かい?」


 うつむくローヴにガレシアが声をかけた。

 ローヴが顔を上げる。苦い顔をして。


「ガレシアさんは平気なんですか? だってあれ胸……」


 途中で口をつぐむローヴをガレシアは笑い飛ばした。


「まあ決まりは決まりだしねえ。それにもし何かされたら、周囲にでも言いふらして仕事を辞めさせてやりゃいいのさ」

「何ならその場でたたっ斬りゃいいんだよ」


 隣でアクティーが言うと、ガレシアはぎろりとにらみつけた。


「アンタは男だし、証明できるもの持ってるから関係ないだろ! 適当なこと言うんじゃないよ、まったく……」

「たくましいなあ……」


 ふんと鼻を鳴らすガレシアを見て、ローヴがぼそりと言った。


「証明できるものって?」


 ふと気になった言葉にラウダが首を傾げた。


「あー、これな」


 アクティーが懐から取り出したのは1枚の、手のひらサイズの銀のプレートだった。

 先には穴が開けられており、チェーンがついている。先程兵士に見せていたものだ。

 よく見るとシルジオのマーク――ローレルの紋様――と名前、その下には複数桁の数字と英字が複雑に刻み込まれていた。


「シルジオに入会するときにもらうやつ。1人につき1つだから、世界に1つしか存在しないの。で、これがあって初めてシルジオの人間だって分かるわけよ」


 大事なものであるにも関わらず、片手でプレートをひらひらさせて見せる。


「服装で判断するんじゃないんだ」

「服だけじゃ偽者の可能性もあるからな。念には念をっと」


 そう言うと、アクティーはそれを再び懐へと戻した。

 へえ、と感心すると、再度浮かんだ疑問を、ラウダは顔を上げて尋ねた。


「他のみんなはどうやってチェックを通り抜けるの?」

「俺たち傭兵や旅人は証明できるものなんて持ってないから、兵士の質問にいくつか答えて、さっきと同じように身辺検査をするんだ」


 ノーウィンがそう答える横で、ガレシアは腕を組み、ため息をついた。


「そこの大佐様とは違って念入りにチェックされる分、時間がかかるんだよねえ」


 ラウダは納得がいくと小さく、なるほどとつぶやいた。


「それにしてもなー」


 アクティーは両手を首の後ろで組むと、気の抜けた声で、わざとらしく大きめの声を出した。

 何事かと皆が不思議そうにそちらを見やると、にやにやとした表情を浮かべる。


「あの兵士もなかなか初心(うぶ)だったよなー」


 こらえるようにくくくと笑った。


「話を盛り返すんじゃないよ!」


 ガレシアが怒鳴る隣で、ローヴは未だ苦い顔を浮かべていた。


「……セルファは平気だったの?」


 今度はそちらに話しかける。

 しかし問われた彼女は真顔で、


「何かされたらたたっ斬るから平気よ」


 何でもないようにさらりと言ってのけた。


「あのねえ……」


 ガレシアは呆れるがそれ以上は何も言わなかった。


「たくましいなあ……」


 ローヴがぼそりと言った。

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