12‐5
特に会話もないまま、食事を済ませ、ベッドに入る。
結局、ノーウィンは終始難しい顔で口数も少なかった。
アクティーも彼なりに気を遣ったのか、いつものように茶化した態度は見せなかった。
セルファも、相変わらず。今回も口を出すことはなかった。
ラウダは1人、複雑な気持ちでそんな3人をただただ見つめることしかできなかった。
翌朝。
差し込んだ陽光がまぶしくて、ゆっくりと目を覚ます。
それを避けるように寝返りを打った。
目が合った。
隣のベッドで眠るローヴがじっとこちらを見つめていた。
しばらくそれをぼんやりと見ていたが、はっとなって飛び起きる。
「ローヴ! 大丈夫なの!?」
ベッドから降りると、幼なじみの顔をのぞき込む。
戦いの後から青ざめていた顔色は、すっかり元の、血色の良い肌色へと戻っていた。
ローヴはにっこりと笑った。
「うん、平気。まだちょっと頭痛いけど」
ラウダはそんな彼女の額に手を当て、反対の手を自分の額に当てた。熱はなさそうだ。
心なしか顔が赤くなっているような気はしたが。
そんなことには気づかず、そっと手を離す。
「薬は?」
「朝飲んだよ。ってかラウダ寝すぎ。もう昼だよ」
ぎょっとなって窓に近づくと、開け放つ。すぐさま潮風が部屋に入り込んでくる。
港中のあちらこちらから威勢の良い声が響き渡る。そして人々の行きかう様。
クラーケン騒動が片付き、すっかり元の活気を取り戻したようだ。
たった一日でここまでの明るさを取り戻したのは、さすが海に生きる者たちと言うべきか。
後ろからくすくすと笑う声が聞こえた。
「勇者様になっても寝坊癖は抜けないんだね」
ラウダは半分呆れたような顔でくるりと振り返った。
「その呼び方止めてくれないかな……アクティーにも言ったけど」
「えー。お似合いだと思うけどなあ」
やれやれと首を横に振りながらも、内心では元気を取り戻したローヴの姿に安心していた。
「ところでみんなは?」
部屋を見渡すと、同じベッドで眠っていたアクティー、ローヴと共に眠っていたセルファ、そして、考え事をしたいからと自ら志願して床――決して清潔とは言えないじゅうたん――で横になっていたノーウィン、3人とも姿が見えない。
「外、かな? ボクが起きたときにはもういなかったけど……」
「そっか……」
「ラウダも出かけるの? だったらボクも……」
そう言ってローヴは身を起こそうとする。慌ててそれを止める。
「ダメだよ。まだ病人なんだから」
しゅんとした様子でベッドに座り込む彼女を優しく諭す。
「でも1人になるのは――」
そう言うと口ごもる。
不思議そうに首を傾げると、ローヴは顔を伏せた。
「……退屈だよ」
口を尖らせそう言う姿に、ラウダは小さくため息をつくと、隣のベッド――先程まで眠っていた――に腰かけた。
ローヴが驚いた様子で顔を上げた。
「出かけたところですることもないし、だったらここにいるよ」
呆然とした表情をしていたが、それはすぐに笑顔へと変わった。
「そっか」
たった一言だったが、とても喜んでいるように見えた。
はにかむ彼女を見てラウダは何かを思い出したように、そういえば、と声を上げた。
「ローヴの着替えと、体を拭いたことなんだけど……」
さっとローヴの顔つきが変わった。
ばっと布団で自分の体を隠すと、真っ赤になった顔でラウダの方を睨む。
「まさか……見た……?」
「は?」
そんなローブをきょとんとした様子で見つめるが、ようやく気が付いたようだ。
顔を赤く染めると、否定するようにぶんぶんと首を横に振った。
「ち、違うよ! セルファがやってくれたっていう話!」
しばらくとがめるような視線が痛かったが、納得してくれたのか、布団を下ろした。
「そ。それならいいけど。セルファにお礼言わなくちゃ」
ほっと胸をなで下ろすと、ラウダは昨日皆で交わしたことを話し出した。
* * *
ノーウィンは1人高台にいた。
この港に来た日の夜、ローヴと会話を交わした所だ。
潮風が頬を撫で、一つに結った髪をさらりと流す。
表情は曇っている。
昨夜、考え事をしようと一人床で横になっていたが、結局何も考えられないまま眠りに落ちた。
悩むことなど何もないはずだった。
それなのに周りにも心配をかけてしまった。支えるべきラウダにも気を遣わせてしまった。
柵にもたれかかると、ぼんやりと足元を見る。
すると見慣れた人物の足が視界に入ってきた。
顔を上げると、案の定と言うべきか、セルファが立っていた。
二つに結った髪が、同じように風になびく。
互いに言葉を交わすことなく、セルファは側に歩み寄ってくると、ちょこんと足元に屈み込んだ。
そうしてしばらく無言のままだったが、ノーウィンがぽつりぽつりと言葉を発し始めた。
「黒い騎士……会って話を聞くだけのつもりだった」
セルファは言葉を返さない。視線を合わせることもしない。
「けど……もし親父の敵なら……」
ノーウィンは目を伏せうつむいた。
「どうしたいんだろうな……殺したいほど恨んでるわけじゃないんだ」
「…………」
「ただ……悔しいと思うし、許せないと思う」
波の音が聞こえる。
にぎやかな人々の声がどこか遠くのもののように思えて。
顔を上げ、空を仰ぐ。
「そいつに会ったら……俺の旅も終わる気がする。じゃあ……その後はどうすればいいんだ?」
セルファは変わらず何も言わない。
そんな彼女を静かに見下ろした。
「セルファ。お前は、やるべきことが終わったらどうするんだ?」
「…………」
返事はない。
今までは、父親と同じように傭兵稼業をこなしていた。それだけが生きる術だった。
だからやるべきことをやった後など、そんなことを考えたことはなかった。
それ以外の生き方を知らない。だったら最期まで全うするしかないのだろうか。
再び目を伏せる。
いや、まだやるべきことはある。
記憶。
なくなった過去。真っ白になった歴史を取り戻さなければならない。
目を開け、まっすぐ前を向いた。
「悩んでいても仕方ないな。やるべきことをやる。ただそれだけだ」
すぐ隣で小さくうなずいたことに、ノーウィンは気づかなかった。




