表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第12話 まだ見えぬ世界の影
60/196

12‐5

 特に会話もないまま、食事を済ませ、ベッドに入る。


 結局、ノーウィンは終始難しい顔で口数も少なかった。

 アクティーも彼なりに気を遣ったのか、いつものように茶化した態度は見せなかった。

 セルファも、相変わらず。今回も口を出すことはなかった。

 ラウダは1人、複雑な気持ちでそんな3人をただただ見つめることしかできなかった。



 翌朝。



 差し込んだ陽光がまぶしくて、ゆっくりと目を覚ます。

 それを避けるように寝返りを打った。


 目が合った。


 隣のベッドで眠るローヴがじっとこちらを見つめていた。

 しばらくそれをぼんやりと見ていたが、はっとなって飛び起きる。


「ローヴ! 大丈夫なの!?」


 ベッドから降りると、幼なじみの顔をのぞき込む。

 戦いの後から青ざめていた顔色は、すっかり元の、血色の良い肌色へと戻っていた。

 ローヴはにっこりと笑った。


「うん、平気。まだちょっと頭痛いけど」


 ラウダはそんな彼女の額に手を当て、反対の手を自分の額に当てた。熱はなさそうだ。

 心なしか顔が赤くなっているような気はしたが。

 そんなことには気づかず、そっと手を離す。


「薬は?」

「朝飲んだよ。ってかラウダ寝すぎ。もう昼だよ」


 ぎょっとなって窓に近づくと、開け放つ。すぐさま潮風が部屋に入り込んでくる。


 港中のあちらこちらから威勢の良い声が響き渡る。そして人々の行きかう様。

 クラーケン騒動が片付き、すっかり元の活気を取り戻したようだ。

 たった一日でここまでの明るさを取り戻したのは、さすが海に生きる者たちと言うべきか。


 後ろからくすくすと笑う声が聞こえた。


「勇者様になっても寝坊癖は抜けないんだね」


 ラウダは半分呆れたような顔でくるりと振り返った。


「その呼び方止めてくれないかな……アクティーにも言ったけど」

「えー。お似合いだと思うけどなあ」


 やれやれと首を横に振りながらも、内心では元気を取り戻したローヴの姿に安心していた。


「ところでみんなは?」


 部屋を見渡すと、同じベッドで眠っていたアクティー、ローヴと共に眠っていたセルファ、そして、考え事をしたいからと自ら志願して床――決して清潔とは言えないじゅうたん――で横になっていたノーウィン、3人とも姿が見えない。


「外、かな? ボクが起きたときにはもういなかったけど……」

「そっか……」

「ラウダも出かけるの? だったらボクも……」


 そう言ってローヴは身を起こそうとする。慌ててそれを止める。


「ダメだよ。まだ病人なんだから」


 しゅんとした様子でベッドに座り込む彼女を優しく諭す。


「でも1人になるのは――」


 そう言うと口ごもる。

 不思議そうに首を傾げると、ローヴは顔を伏せた。


「……退屈だよ」


 口を尖らせそう言う姿に、ラウダは小さくため息をつくと、隣のベッド――先程まで眠っていた――に腰かけた。

 ローヴが驚いた様子で顔を上げた。


「出かけたところですることもないし、だったらここにいるよ」


 呆然とした表情をしていたが、それはすぐに笑顔へと変わった。


「そっか」


 たった一言だったが、とても喜んでいるように見えた。

 はにかむ彼女を見てラウダは何かを思い出したように、そういえば、と声を上げた。


「ローヴの着替えと、体を拭いたことなんだけど……」


 さっとローヴの顔つきが変わった。

 ばっと布団で自分の体を隠すと、真っ赤になった顔でラウダの方を睨む。


「まさか……見た……?」

「は?」


 そんなローブをきょとんとした様子で見つめるが、ようやく気が付いたようだ。

 顔を赤く染めると、否定するようにぶんぶんと首を横に振った。


「ち、違うよ! セルファがやってくれたっていう話!」


 しばらくとがめるような視線が痛かったが、納得してくれたのか、布団を下ろした。


「そ。それならいいけど。セルファにお礼言わなくちゃ」


 ほっと胸をなで下ろすと、ラウダは昨日皆で交わしたことを話し出した。


 *     *     *


 ノーウィンは1人高台にいた。

 この港に来た日の夜、ローヴと会話を交わした所だ。


 潮風が頬を撫で、一つに結った髪をさらりと流す。

 表情は曇っている。


 昨夜、考え事をしようと一人床で横になっていたが、結局何も考えられないまま眠りに落ちた。

 悩むことなど何もないはずだった。

 それなのに周りにも心配をかけてしまった。支えるべきラウダにも気を遣わせてしまった。


 柵にもたれかかると、ぼんやりと足元を見る。

 すると見慣れた人物の足が視界に入ってきた。

 顔を上げると、案の定と言うべきか、セルファが立っていた。

 二つに結った髪が、同じように風になびく。


 互いに言葉を交わすことなく、セルファは側に歩み寄ってくると、ちょこんと足元に屈み込んだ。

 そうしてしばらく無言のままだったが、ノーウィンがぽつりぽつりと言葉を発し始めた。


「黒い騎士……会って話を聞くだけのつもりだった」


 セルファは言葉を返さない。視線を合わせることもしない。


「けど……もし親父の(かたき)なら……」


 ノーウィンは目を伏せうつむいた。


「どうしたいんだろうな……殺したいほど恨んでるわけじゃないんだ」

「…………」

「ただ……悔しいと思うし、許せないと思う」


 波の音が聞こえる。

 にぎやかな人々の声がどこか遠くのもののように思えて。

 顔を上げ、空を仰ぐ。


「そいつに会ったら……俺の旅も終わる気がする。じゃあ……その後はどうすればいいんだ?」


 セルファは変わらず何も言わない。

 そんな彼女を静かに見下ろした。


「セルファ。お前は、やるべきことが終わったらどうするんだ?」

「…………」


 返事はない。


 今までは、父親と同じように傭兵稼業をこなしていた。それだけが生きる術だった。

 だからやるべきことをやった後など、そんなことを考えたことはなかった。

 それ以外の生き方を知らない。だったら最期まで全うするしかないのだろうか。


 再び目を伏せる。


 いや、まだやるべきことはある。


 記憶。


 なくなった過去。真っ白になった歴史を取り戻さなければならない。

 目を開け、まっすぐ前を向いた。


「悩んでいても仕方ないな。やるべきことをやる。ただそれだけだ」


 すぐ隣で小さくうなずいたことに、ノーウィンは気づかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【小説家になろう 勝手にランキング】
よろしければポチっと投票お願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ