表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第11話 自由のない海
55/196

11‐9

「ラウダ!!!」


 風の力が途絶え、背中から落ちていくノーウィンが名前を叫ぶ。

 しかしラウダの方は今まで海中にいたこともあり、息をするのに精一杯だった。


 その間にも触手が本体の真上に来る。


 暴れるクラーケンが額を真上に向けた。


 ラウダは握っていた触手から手を離すと、空中で、片手に持っていた2本の剣を両手に持ち直し、思い切り振りかぶった。


「うおおおおおおおおお!!!」


 天高くから勢いを持って、落下する。その勢いは徐々に増し、力強さを持ち――


 2本の剣が敵の脳天に深々と突き刺さった。


 直後、ラウダが着地し、さらに力を込め押し込む。



 ジュオオオオオオオオオオォォォォォ……



 更なる痛みにもだえ、ラウダを乗せたクラーケンは前後左右へと体を揺らした。

 剣を支えに、何とかそれに耐える。


 そして思い切り力を込めて、突き刺した剣を抜き放つ。

 それと同時に青い液体が、壊れた水道管の如く勢いよく吹き出した。


 やがて触手は力なく――とはいえサイズがサイズなため大きな水しぶきを上げて――海中へと沈んだ。

 そしてクラーケンもまたその動きを止めると、ゆっくりと後ろへ倒れていく。


「うわあああああぁぁぁ」


 その衝撃で、荒い息を整えていたラウダが背中から盛大に海に落ちた。


「ラウダ!!!」


 ノーウィンが慌てて手すりに手をつき、海面に向かって名を叫ぶが、浮かんできたのは動かなくなった巨大クラーケンの骸のみだった。

 辺りを見渡すが、その姿は確認できない。

 またしてもひやりとしたものを感じたノーウィンだったが、ようやく波が落ち着いてきた頃、クラーケンの頭の方から、勢いよくラウダが顔を出した。

 それを見て、思わず大きな安堵のため息をつく。


「心配しすぎなんだよ、お前は」


 見てられないとでも言いたげに、肩をすくめると、アクティーは剣を背の鞘にしま、いかけて剣を見やった。


「後で鍛冶屋に行かねえとさびるな、こりゃあ……」

「アクティー」


 不意に名前を呼ばれ、そちらを振り返ると、顔面にコートを投げつけられた。

 海水臭い。

 それを手で剥ぎ取ると、ガレシアがまるで何事もなかったかのように自分のコートを絞っていた。


「あのなあ……メガネの俺はこういうことされると前が見えなくなるんだよ」


 しかしそれにも応えることなく、無視される。

 やれやれとため息をつくと、見えなくなったメガネを外し、シャツのポケットにしまう。

 そしてアクティーもまた自分のコートを絞った。


「おいおめえら! すぐにあの勇者様を助けてやんな!」

「アイアイサー!!!」


 船内から出てきた船長が命じると、船の後方でぐったりしている一行の元へと歩み寄った。


「おめえら、上出来じゃねえか」


 その表情はどこか楽しげだった。


「言っただろう? やってやるって」


 それにガレシアが答える。そして笑ってみせた。

 相変わらずコートの水を絞っているアクティーに、気が抜けたように手すりでうなだれているノーウィン。

 だが、1人セルファは船長に怒った顔を見せた。


「そんな話はどうでもいいわ。怪我人がいるのよ。彼を助けたらすぐに船を出して」


 それを聞いてはっと我に返ったようにノーウィンが顔を上げる。

 そして武器をしまうと、急いでセルファの元へと駆け寄った。

 座り込んだセルファの腕の中で、ローヴは気を失っていた。荒い呼吸を繰り返し、苦しそうな顔を浮かべている。


「港に医者はいるか?」


 ノーウィンは顔を上げ、船長にそう尋ねる。

 船長は静かにうなずいた。


「船長、この船にコップとかないか? それか筒状のもの」

「あん? コップ? そんなもん何に使うんだ」

「あるのかないのかどっちなんだ?」


 アクティーの深刻な表情を見て、緊急性を察したようだ。

 しばらく考え込むと、操舵室に行き、すぐに戻ってきた。


「これでどうだ」


 そう言う船長の手には、空のワインボトルが握られていた。


「ああ助かる。それでいい」


 ボトルを手渡すと、船長は操舵室へと戻っていった。

 アクティーは手渡されたボトルを見やる。


「口が小さいが……伝えるだけだから良しとするか」


 ボトルを下に置くと、倒れないよう片手で抑え、左手でボトルの口を覆う。

 集中力を高めると、ボトルの内部にマナが渦巻く。

 頃合いを見て、左手を離した。


「……こちら……ポート……情報部……す」


 使用媒体の口が小さいため、相手の声が小さい。

 しかしそれに構うことなく、アクティーは話し始めた。


「こちらジェスト大佐だ。現在ポート・ラザ近海の船上にいる。今から言うことを聞いたら即座に行動してくれ」

「……佐殿! ……ご無事で……りです」

「いいか、1度しか言わない。1つは近海に出没していた大型クラーケンの討伐を完了した。これを支部に伝えてくれ。2つ目、それにより重傷者が1名出た。港に着くまでに医者を呼んでおいてくれ。以上だ」

「……解……ました!」


 相手の応答を確認すると、アクティーは再び口に手を当て、媒体は元のボトルに戻った。


「誰と会話してたんだ?」


 その様子を見ていたノーウィンが口を開いた。


「ポート・ラザの情報部だ。フォルガナ支部に情報を伝達するためにいる連中さ」


 ボトルを拾い上げると、ローヴの方を見る。

 表情は依然として苦しそうなままだ。


「医者を呼ぶように伝えておいたから、港に着きさえすればすぐに見てもらえる」


 そう言うと、セルファに優しく微笑んだ。


「だから心配しなくても大丈夫だ、セルファちゃん」


 セルファは何も言わないままうなずくと、ローヴをぎゅっと抱き寄せた。


 *     *     *


 船員の出した小舟に拾われ、ラウダは無事に一行の元へ戻ってきた。

 それを確認した船長の手によって、現在船は港へと急行していた。

 穴ぼこだらけになってしまった甲板だが、船を動かすうえでは問題はなかったようだ。


 本来なら船内にでも入っていればいいのかもしれないが、怪我を負っているローヴを下手に動かすわけにはいかない。

 それを心配するのもあって、皆もそれぞれ甲板で戦闘での疲労を養っていた。


 相変わらず手すりに寄りかかるセルファは、ローヴを抱きしめたまま離そうとしなかった。

 ノーウィンがこっそりと話していたが、今までそんな風に献身的な姿を見せたことはなかったらしい。彼女なりにも思うところがあるのだろう。


 そんな彼女の隣で、心配そうに幼なじみを見やるラウダと、それに向かい合うようにノーウィンが座っていた。

 アクティーが医者を呼んでくれているというのは聞いていた。それでも苦しそうな彼女を見ているのは辛かった。


(助けてあげないの……?)


 心痛な面持ちをしているラウダに少女の声が話しかけてきた。


「え?」


 思わず顔を上げて辺りを見渡す。

 アクティーもガレシアも反対側に立っているし、近くには当然誰もいない。


「どうしたんだ?」


 そんなラウダを不思議そうにノーウィンが見つめる。

 慌てて顔を戻すと、首を左右に振った。


「あ、な、何でも――」

(君なら出来るはずだよ……)


 また聞こえた。

 耳元でささやかれているのか、頭に響いているのか分からない。

 だがラウダは、その右手を、無意識のうちにローヴの左肩へと手を伸ばしていた。


「ラウダ?」


 静かに目を閉じる。


 何も見えなくなる。

 何も、聞こえなくなる。


 真っ暗な世界の中にはラウダ1人。


 ぽつりぽつりと、小さな小さな明かりが灯り始める。

 星の瞬きにも似た無限のそれは、すっと、かざした右手に集う。


(……唱える言葉は……分かるよね?)


 そっと目を開く。

 緑色の瞳が輝きを持っていた。


「シャイン」


 輝きは瞳から全身を駆け巡り、右手から解き放たれる。

 包み込むような温かさを持ったそれは、白銀の輝きを放ちながら、ローヴの傷口へと消えていった。

 そしてゆっくりとその手を引っ込めた。


「今のは……ソルの魔法……?」


 一連の流れを見ていたセルファが驚いた顔でラウダを見つめた。

 同様にノーウィンも驚いた顔で見つめてくる。

 小さくため息をついていたラウダは、2人の視線に、我に返ったように慌てふためく。


「え、あ、僕にもよく分からないんだけど……」


 そう言ってローヴの顔を見やる。

 先程までの表情から一変、眠るように穏やかなものになっていた。


「すごいな……一体どうやったんだ?」


 ノーウィンはただただ感心するばかりだ。


「いや、だからその……無意識で……」


 両手を前に出し、分からないと言うようにぶんぶんと振った。


「無意識で習ったはずのない魔法を使えるのは、あなたが証所有者だからよ」

「そ、そうなの? ……っていうか今のが魔法?」

「そ。俺たちは特別ってわけだ」


 上から声が降ってくる。見上げると、いつの間にかアクティーがラウダの背後で見下ろすように立っていた。

 相変わらず額から血が流れているが本人は至って平常だ。


「証所有者……アクティーと同じ……?」


 その隣には同じくいつの間にかガレシアが立っていた。何やら悩むような顔をしている。


「ん。俺は風雲の、そこにいるセルファちゃんは地竜の証所有者。で、こいつは」

「世界を救う伝説の太陽の証所有者よ」


 アクティーの言葉を継ぎ足すようにセルファが説明した。

 相変わらず世界を救うとか勇者などという言葉になじめず、ラウダはため息をついた。

 しかしそれに気づくことなく、ガレシアは驚いた表情でラウダを見つめてくる。


「アンタが……」


 それから視線をそらすと、口元に手を与え、何事かをぶつぶつとつぶやき始めた。


「ということは……そうか……それなら……」

「ガレシア?」


 アクティーが声をかけると、ガレシアは振り返ることなく首を振った。


「……何でもないさ」


 そんな一行を乗せた船からは港が見えてきていた。

 そこには彼らを出迎えるかのように、大勢の人間が集まっていた。

第11話読んでいただきありがとうございます!

「面白かった!」「続きが気になる!」など、少しでも思っていただけましたら、是非ブックマークや評価にて応援よろしくお願いします!

一評価につき作者が一狂喜乱舞します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【小説家になろう 勝手にランキング】
よろしければポチっと投票お願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ