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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第11話 自由のない海
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11‐6

 一行はそれぞれ武器を手に宿を出ると、船着場の入口へと向かっていた。


「まさかラウダ君の方から怪物退治を提案してくるとはねえ。一番渋ると思ったんだが」


 そう言うアクティーはどこか暗い表情をしていた。

 あの後、元々アクティーが考えていたこともあり、ラウダの提案もすんなり受け入れられた。

 しかしガレシアも一緒だと告げてからというもの、アクティーはずっとこの調子であった。


 ちなみにティーカップでの会話では最終的にこちらで何とか手を打ってみると告げた後、ティーカップを塞ぐように手を置くと、渦巻いていたマナは消え、会話も聞こえなくなった。

 ティーカップから声が聞こえるという現象にはラウダも目を丸くしていた。


 これはシルジオに入団してすぐに教わる基礎の魔法だそうで、正式名称は、離所音声伝達手段魔法だが長ったらしいので略して“声魔(セイマ)”と呼ばれているらしい。

 世界中に存在するマナを、7桁の数字で固定された特定の場所と繋ぎ、会話しているそうだ。

 そのため遠ければ遠いほどノイズが酷くなり、会話は困難になる。


 7桁の数字は自身の頭に浮かべたものを、手を通じて念で送る。そうして相手側に伝わったマナは、発信源の数字が浮かび上がる仕組みになっており、誰からのものかすぐに分かるというものらしい。


 媒体は筒状のものならなんでもいいらしいが、底があるものの方が、声が響いて聞き取りやすいとか。それ故、シルジオ内で一般的に使われるのがコップ全般だそうだ。

 もちろん相手側にもそういった媒体がなければマナが繋がらず、会話はできないとのこと。


「でもその……ガレシアさん、だっけ。すごいね、女の人1人で立ち向かおうとしてたなんて」


 ローヴが感心したようにため息をつくと、アクティーは首を横に振った。


「無謀なだけさ。昔からなんだよ。後先考えず突っ込むの」

「でも……少なくとも僕はかっこいいと思った。勇者でも証所有者でもない。けど、自分の力で何かを成し遂げようとするのが」

「…………」


 真面目な顔をしてそう言うラウダを、アクティーが寂しそうに見つめた。

 そうこうするうちに目前に金茶色のショートカットヘアーの後ろ姿が見えた。


「ガレシア!」


 ラウダが名前を呼び駆け寄ると、くるりと振り返ったガレシアが嬉しそうに出迎えた。

 一行を見やり、そしてアクティーを見て表情を暗くした。が、首を左右に振ると、


「何とか船の手配ができたんだ。これでいつでもバケモノ退治に出られるよ!」


 と告げた。

 すると後ろから日に焼けた黒い肌に、白い口髭を蓄えた屈強な男が現れた。

 骨張った体つきを見た感じから高齢だとは思うが、それを感じさせない筋肉質な肉体と風格漂うオーラがあった。

 老人は口に咥えていたパイプを離すと、一行を見やった。


「ふん。これがお前さんの言っていた仲間か? こんなガキ共で本当にやつを退治なんてできるのか?」


 ガレシアは振り返り、老人の方を見ると、


「ああ。やってやるさ」


 はっきりとした声で言ってのけた。


 老人はふんと鼻を鳴らすと、船に向かって歩き出した。

 驚くべきことに、そこにはずらりと30人ほどの船乗りたちが立っていた。


 ガレシアは再度一行の方を振り返る。


「あの人、アタシの父さんの知人でね。ああ見えて凄腕の船長で舵取りなんだよ。なんでも別の航路からここに荷運びをしていたらしくてね。いずれにせよ助かったよ」


 そして船の方へと視線を向けた。


「あそこに立っているのは今回の作戦の志願者さ。酒場に入り浸っていた体たらくどもに一言言ったらこの集まりようさ」


 そこで一行はある2人組に目を留める。


「あいつら……ガレシアをナンパしてた野郎どもじゃねえか」

「アタシのために命賭けてくれるんだってさ」


 ガレシアがにっと笑うと、アクティーが呆れたようにため息をついた。


「だから、後はアタシたち次第だ」


 その言葉に、ラウダは右手を見ると、ぎゅっと力強く握りしめた。


 *     *     *


 思っていたよりも大きな船に乗り、揺られる。

 小型の船だと簡単に敵に潰されてしまうからだそうだ。

 船底には手こぎ式のオールがついており、船乗りたちが乗船している。

 甲板にはいつ敵が出てきてもいいように、それぞれ武器を手に、待機していた。


 港から少し離れたところで帆を閉じ、敵が来るのを待つ。


 操舵室を背に座っていたラウダは自分の鼓動が早くなっていくのを感じていた。

 巨大なゴブリン、多数のハウリング、そして滅んだはずのドラゴン。

 ここまでは証の力や師匠の力でなんとかなった。

 今から、それよりももっと凶暴で巨大な生物に立ち向かおうとしている。

 それを考えるととても落ち着いていられなかった。


「大丈夫だよ」


 不意に隣にいたローヴが声をかけてきた。

 潮風に帽子を飛ばされまいとしている。


「だって6人もいるんだよ? 力強いじゃん」


 そう言う彼女は穏やかに微笑み、しかししっかりとした目つきで前を見ていた。


「……ローヴ、変わったね」


 いや違う。


「そんなことないよ。いつもと一緒」


 自分が変われないだけなのだ。

 だって変わってしまうということは、別の考え方を持つ自分になってしまうということだから。

 それだけはできないから。


「不安なのはみんな一緒。力強いのもみんな一緒。そうでしょ?」


 にっと笑って見せる彼女の笑顔は眩しくて。


(不安? 力強い? 違うでしょ? だって本当は――)


 潮風に紛れて耳に響いてきた声を払拭するかのように、ラウダは首を強く振った。


「そうだね。不安にばかりなってちゃダメだね」


 ラウダは笑顔を返した。


「それでよし!」


 ローヴはどこか楽しそうに笑った。



 ドゴォン



 鈍い音がして、船が大きく左右に揺れる。


「来たか!?」


 ノーウィンが槍を持つ手に力を込めると、海をのぞきこむようにして手すりに手をかけた。


「そこから離れな! 飲まれるよ!」


 ガレシアの叱責が飛ぶ。

 ノーウィンが慌てて退くのとほぼ同時に、ゆっくりと、まるで観察でもするかのように触手が伸びてきた。

 白く半透明の触手。幅だけで人3人分くらいはある。複数の吸盤が付いているため、捕まればあっという間に海の底に引きずり込まれるだろう。


「こっちからも来たぞ!」


 アクティーが甲板の中央まで退く。

 船の左右からそれぞれ3本ずつ、じわじわと伸ばしてくる。獲物を探るかのように。


「おめえら! やるからにはしっかりやれよ!」


 操舵室から老人の怒鳴り声が聞こえる。


「言われなくたって分かって」



 ドゴォン



 ガレシアの声が途切れる。

 再度船底から突き上げるような衝撃。

 一行はバランスを崩すまいと姿勢を低くする。


「この揺れじゃ戦えないよ!」


 ローヴが荒波で揉み消されそうになる声を必死に張り上げる。

 操舵室にいる船長が声を上げる。


「船乗りどもぉ! 海の男の意地を見せてやれぇ!」

「うおおおお!!!」

「命賭けてでもやつらを援護しろぉ!」

「うおおおお!!!」


 船中から威勢のある声が響き渡る。


「はははっ! こりゃ頼もしいねえっ!」


 甲板の中央で待機していたアクティーはそう言うと、メガネを押し上げ、集中力を高める。

 先程の男たちの声と、渦巻くマナの気配から多数の獲物がいると察知した敵は、左右にある触手のうちの3本で力強く甲板を叩く。

 セルファが一歩後退する。


「やあっ!」


 船の右舷に待機していたローヴが前進し、攻撃を仕掛ける。

 斬られた箇所から青い液体が流れ出す。どうやら体を覆う皮自体は柔らかいようだ。


「このっ!」


 さらにそこへラウダが剣を突き立て、思い切り引き裂く。

 切断された部分がびたんびたんと音を立てて、激しく動き回るが、やがて動かなくなった。

 触手の方はぶるぶると震えると、素早く水面へと姿を消した。

 切断されたことに怒ったのか、さらに4本の触手が姿を現す。

 9本の触手が船を沈めようと甲板の上で暴れ始めた。


 さらに激しさを増す荒波によって、甲板の上にしぶきが上がる。


 しかしそれに構うことなく、船の左舷ではノーウィンとセルファがそれぞれ触手に槍とダガーを突き立て、動けないように甲板へと固定する。

 さらにガレシアが鞭で1本を素早く捕らえると、甲板に叩き付けた。

 そこへアクティーが剣を持ったまま左手を突き出した。

 茜色の瞳が煌めく。


「トルネードブレイク!」


 風の中級魔法が発動し、捕らわれた3本の触手を鋭い風が爪を立てて切り裂く。

 3人がそれぞれ捕らえていた武器を解き放つと、最初の1本同様先だけぶちりと切れ、青い液体を垂れ流しながら素早く海へと還った。

 同時に手すりがばきばきと音を立て折れ、海中へと消えた。


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