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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第10話 波紋
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10‐6

 その後、スラッシャー、ニュール共に数回戦闘になることはあったが、幸い誰も大怪我を負わずに済んだ。

 回復魔法を会得していたローヴのおかげというのもある。

 そして道に迷わず済んだのは、ノーウィンがさりげなくまいていたパンくずと、アクティーの風読みの力のおかげだった。

 すんなりと森を出た一行は、日が暮れてきていたのもあり、森から少し離れた場所で野宿することになった。

 少しひやりとする夜風だが、それがちょうど心地よかった。


「まさか支部を出て一泊目が野宿とはねえ……」


 地面に座り込んだアクティーが、呆れ顔でつぶやいた。

 颯爽と支部を後にした大佐が野宿をしているとは、誰も夢にも思わないだろう。


「あはは……そういやそうだっけ……」


 ラウダが苦笑を返した。

 ある意味印象が強いアクティーとの関係はまるで初日とは思えなかった。

 そう言うラウダと、ローヴも野宿をするのは人生で初めてなのだが。

 ちょこんと体育座りをするセルファは何をするでもなく、じっと、目の前でパチパチと音を立てて燃えるたき火の方を見つめていた。


「結局あの2人には会えなかったなあ……」


 同じく体育座りでたき火を見つめるローヴがぼんやりと言った。


「まあいきなり再会してもな。きっとそのうち会えるさ」


 ノーウィンはそう言って、たき火に枝を放り込んだ。


「なんてったってラウダ君が惚れた――」

「だから違うってば! まったく……」


 あることないことを言いふらされてはたまらないといった様子で口をとがらせる。

 どうやらアクティーは弄りがいのあるおもちゃを手に入れてしまったらしい。にやにやと嫌らしい笑みを浮かべている。

 そんな2人のやりとりをじっとセルファが見つめていた。


「明日も結構歩くんですか?」


 唐突にローヴはたき火からノーウィンへと視線を移すと、質問を投げかけた。


「いや、明日は半日もかからないだろう。森さえ抜けてしまえれば港町はすぐそこだからな」

「港町ポート・ラザ。別の大陸から船で運び込まれた積み荷が、傭兵に護衛されて荷馬車で森を抜ける。フォルガナで俺たちシルジオの人間に、異物が紛れ込んでないかチェックされた後、トンネルを抜けてベギンまで運ばれていく、ってわけ」


 ノーウィンの返答に付け加えるように、アクティーが解説した。


「じゃあこの大陸をぐるっと巡回してるんだね」


 納得がいったようにそう言うローヴに対して、ラウダが首を傾げた。


「でもなんでわざわざそんな危険を冒してまでベギンまで運ぶの? 別に港町やフォルガナで商売してもいいと思うんだけど」

「それはポート・ラザがただの船着場から港として機能し始めた頃、ちょうどベギンの街が新たに作られる時だったからさ」


 言いながら、1本、枝をたき火に放り込んだ。

 たき火がゆらりと揺らめいた。


「前にも言ったかもしれないが、元々はエメラって街があそこにはあったんだ。だけど魔物の襲撃や、建物の風化もあって、街そのものを移動させ、新たに作り替える計画が立てられたわけさ。その時から、少しでも街を発展させようと考えた当時の人間たちが、ベギンでは店を出す際の金を割り引くと宣伝したんだ」

「それを聞きつけた商人たちは、ここは稼ぎ時だーと思ったわけ。港から続々と人が集まって、そうして街が出来ていったわけだな」


 続けてアクティーが答えると、ノーウィンが意外そうな顔をした。


「あんた、意外と詳しいんだな」


 対してアクティーは大したことないとでも言いたげに肩をすくめた。


「あのな、俺が大佐だって忘れちゃいないだろうな? こう見えて俺って努力家なわけよ。むしろそりゃこっちの台詞だっつの」

「俺は……記憶の補完のために色々勉強したからな」


 ノーウィンはつぶやくように小声で言った。

 昔を懐かしむような、寂しいようなそんな雰囲気を醸し出していた。


「あ、だからそんなに地理に詳しかったんですね?」


 合点がいったようにローヴが大きくうなずいた。

 ノーウィンが小さく笑みを返した。


「ああ。何も覚えてなかったからな……この世界のことも一から覚えたんだ」


 そのやりとりをよそに、アクティーはラウダの方を見やると、続きを話し出した。


「港の方はあくまで積み荷や人の受け入れ口としてしか機能してなかったわけだ。それからその頃のフォルガナは荒くれ者の町だったからな。よっぽどの物好き以外、誰も店なんか出したがらなかったわけだ。で、今に至ると。ま、結局名残みたいなもんだな」

「そっか……この大陸だけでも結構な歴史があるんだね」


 歴史。


 時間と共に変化してきた人間たちの生き方。切り拓いてきたいくつもの手。

 それは、この世界に“勇者”という概念をも残していった。

 過去に生きた人々は、何を想ってそんな存在を生み出したのだろうか。


 証、使命、勇者――


 今は分からないことばかりだけれど、それが分かる日は果たして来るのだろうか。

 僕なんかが本物の勇者になれる日が来るのだろうか。

第10話読んでいただきありがとうございます!

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一評価につき作者が一狂喜乱舞します。

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