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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第9話 遥かなる視線
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9‐6

 一行は女性に連れられ、フォルガナへと戻ってきた。


 洞窟から外へ出ると、さらなる暗闇が迎えてくれた。

 暗い場所から出たせいかいつも以上に暗く、そして、いつも以上に星がとても明るく見えた。

 そんな彼らの後ろ、洞窟内では、シルジオによる真犯人の捕縛、リリエル酒及び証拠品の押収が黙々と行われていた。


 町に戻って真っ先に向かったのが、宿屋だった。

 一応気にかけているのか、女性が早急に宿を手配したのだ。

 2階の部屋へと通すと、


「明日、支部へとご案内します」


 それだけ言い残し、女性は部屋を後にした。

 真犯人を捕えたことによって、身元確認やリリエル酒の入手経路、上層部への報告等あるのだろう。

 要は忙しいから明日まで厄介払いというわけだ。


 さて、こちらはというと。


 何故かローヴは気合が入っており、肩を貸しているセルファを引きずるように意気揚々と風呂へと向かっていった。


「大丈夫、かな……」


 ローヴは気合が入っている時ほど、失敗することが多いのはよく知っている。

 そんなラウダの心配をよそに、ノーウィンは1人難しい顔をしていた。

 原因は分かっている。

 ここに来るまでの道中、宿屋で待機するよう告げられ、反論したところ、


「そういう風に命じられていますので」


 それっきり何も言わぬまま、部屋に押し込まれたのだった。

 セルファのこともあり、それ以上とがめることはしなかったが。


 うわさには聞いているが、フォルガナ支部の若き敏腕大佐という人物とは未だに会えていない。

 今回の一件。その大佐は一体どう思っているのか。

 是が非でも聞き出さなければならない。


「これで、シルジオの人たちが何とか言ってくれれば、僕たちへの嫌疑も晴れるね」

「……だといいんだがな」


 ノーウィンは腕を組み、壁に寄りかかった。

 仲間が危機にさらされたこと。普段穏やかな彼でもそのことだけは許せないようだった。


「正直、俺はあまりここのやつらを信用できない。真相を話すと言っていたが、あれもどこまで本気なのか……」


 利用できるものは利用する。

 ごまかせるところはごまかす。

 そういった汚い手口を平然と使ってくる。

 シルジオとは世界を平和へと導くための組織ではなかったのか。

 それともしょせんはただの人間の集まりでしかなかったのだろうか。


 そんなことを考えていると、部屋の扉が開き、セルファが入ってきた。


「お待たせ」


 受付ででも借りたのだろう。黒いシャツと短パンを着て、さっぱりとした様子のセルファが2人の側へと歩み寄ってきた。

 ほんのりとシャンプーの香りが漂う。

 やっぱり女の子なんだな、と思わずそんなことを考えてしまう。

 そしてそこでふと気づく。


「あれ? ローヴは?」


 ラウダの質問に、セルファがくるりと後ろを振り返り、指差した。

 ぱたんと閉まった扉の前には、風呂に入る前とうってかわって大きく落ち込んでいる様子のローヴがいた。


「な、何かあったの?」


 セルファは小さく首を傾げた。


「ボクより“ある”って驚いて――」

「わあああああああああああ!!!」


 質問に答えようとしたセルファの言葉にかぶせるように、突如大声を発する。


「い、い、言わなくていいのっ! てか大した話じゃないからっ!!」


 ラウダとセルファは互いに首を傾げるも、それっきりローヴは顔を真っ赤に染め、口を利こうとしなかった。

 何かいけないことでも言ったのだろうか。

 そんな様子に一人、ノーウィンだけが苦笑していた。

 どうやら彼だけその言葉の意味を理解したらしい。

 女の子には女の子にしか分からない痛みがあるものだ。

 それ以上踏み入るのは危険――ローヴに責め立てられるのは一目瞭然――だと判断し、深くは追及しないことにした。


 窓越しに、すっかり暗くなった外を見やる。


「飯にするか」


 ノーウィンの言葉に小さくうなずくと、一行は部屋を出、階段を下りて、食堂へと向かうのであった。


 *     *     *


 いつもより少し早い時間に、いつものようにローヴにたたき起こされたラウダは、皆と共に朝食を取り終え、部屋へと帰ってきていた。

 シルジオからの使いがいつ来てもいいように準備も万全にする。


 ローヴが忘れ物がないか部屋をチェックしていると、タイミングを見計らったかのようにノックが響いた。


「失礼します」


 ガチャリと扉を押し開けると、もはや見慣れた女性が入ってきた。

 4人の準備ができていることを確認すると、


「これからあなた方には大佐にお会いして頂きます」


 力強くそう告げた。

 しかし何故かその声は震えているような気もした。


 彼女は何かを隠している。


 その考えを疑わない一行は、言われるがまま宿を連れ出され、支部へと向かった。

 その間、特に会話もなく、ただただ女性に付き従うだけだった。


 途中、数人の町人に出会ったが、一行には特に気に留めることもなく、女性に向けてお辞儀をするだけだった。

 どうやら昨日のうちに嫌疑は晴れているようだ。


 ひとまずそれだけが確認でき、ラウダは内心ほっとしていた。

 いつまでも町民全員から疑いの目を向けられるのはなかなかに辛いものである。


 支部に到着すると、まっすぐ正面の階段を最上階の3階まで上る。

 そうしてたどり着いたのは、最初に連行されてやってきた部屋、その扉の前。


「ようやく大物の登場ってわけか……」


 仲間が危険にさらされたのを思い出してか、ノーウィンの瞳は燃えているように見えた。


「……お気持ちは分かりますが大佐の前ではどうか無礼な振る舞いは」


 そこまで言って、言葉が途切れた。

 女性は何やら考える仕草をした後、困ったような顔をした。


「あの……もし大佐の言葉が無礼だと感じても、聞き流してください」


 それを聞いて思わず顔を見合わせる4人。

 無礼なのは大佐の方とは一体どういう意味だろうか。

 そもそも、そんなことを自分の直属の上司に対して言うことだろうか。


 何かを尋ねる前に、女性はさっさと扉を開けて、中へと入るよう促してきた。


「こうなったら直接本人に確認するしかないか」


 ノーウィンの言葉に3人ともうなずくと、それに続いて一行も部屋の中へと入っていく。

 部屋の中には、相変わらず仕事に追われる者たちがいたのだが、皆一様に4人の訪問者の動向を探っていた。

 こう言うのはおかしいかもしれないが、まるで祭りでも始まりそうな勢いが、そこにはあった。


「……ジェスト大佐。例の方々をお連れしました」


 部屋の最奥。焦げ茶色の机の前で立ち止まった女性は、声をかけた。

 相変わらず椅子は背を向いたままだ。


「ごくろう」


 その椅子が、くるりとこちらに回った。

 座っていたのはがたいの良い男。茶髪に橙の瞳。


 そこでふと思い出された。


「あんた……俺たちを連行しに来た1人じゃないか」

「よく覚えてたな」


 そうだ。自分たちを連行しに来た人間が2人いたが、そのうちの1人だ。

 まさか大佐が直々に連行しに来たなどとは誰も考えが及ばなかっただろう。


「俺がここの大佐だ」


 だが、ラウダには何か違和感があった。

 それに気づかず、ノーウィンは話を進める。


「あんたには聞きたいことが山ほどある」

「ほう? たとえば?」


 男は机に両肘をつき、その手の上に顎を乗せ、じっとこちらを見つめてきた。


「俺たちが犯人じゃないって最初から分かってたんだろ?」


 ノーウィンは強気に出た。そう言い切れる自信があったからだ。


「どうしてそう思う?」

「もし本気で犯人だと思っているなら、人質を取るなりしたはずだ。だがあんたらは逃げてくださいとでも言わんばかりに、いとも簡単に俺たちを解放した」


 違う。


「この辺り一帯に魔法が展開されているのは知っているだろう? あれはただ魔物を寄せつけないだけじゃない。人の動きも監視できるのさ。何せ、この支部にいる人間全員で作った陣だからな」


 違う、この人じゃない。


「なら、真犯人の居場所まで分かってたのに何故わざわざ俺たちに行かせたんだ? あんなやつら、あんたらには楽勝だっただろうに」


 この状況を楽しんでいる人間がいる。

 まさに、今。

 ばっと後ろを振り返った。


「ラウダ?」


 不思議そうに声をかけるローヴだが、今は相手をしていられない。

 右手を握りしめて、問う。


 ――本当の大佐はどこにいる?


 すると一瞬だが、左側の、資料に埋もれたデスクから反応があった。


 見逃さなかった。緑色の輝き。


 その様子に気が付き、ノーウィンは会話を止めた。

 誰もがラウダの動きをじっと見つめていた。


 1人を除いて。


 ラウダはデスクの傍へ寄ると、そこにある資料の山に隠れるようにしている男の左手をぐいっとつかんだ。


「あなたですよね? 大佐さん」

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