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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第8話 離別と襲撃と
31/196

8‐4

 ビシャスと別れた後も、ラウダは一人、闇夜の中でドラゴンを探していた。

 彼にだけ話はしたものの、やはり真相が知りたくてたまらなかった。


『たすけて、くるしいよ』


 あの言葉の意味はなんだったのか。

 何故あんなにも大きな存在から少年のような声が聞こえたのか。

 殺されることを望んでいたのか。だとしたら本当にあのやり方で良かったのか。

 相手がもう死んだ存在だとは分かっている。しかしもしかしたら何かしらのヒントを得られるかもしれない。


 そう思っていたのだが。


「ダメだ……ない……」


 どこを探しても見当たらないのだ。あの巨大な死骸が。

 あれだけ大きなものならば、たとえ辺りが暗くても見つけられるものだと思ったのだが。


 これ以上進めば、村から離れすぎてしまう。それはさすがによくない。

 胸の中のもやもやを解消できないまま、仕方なくラウダは村へと戻ることにした。


「師匠は仲間に言わない方がいいって言ってたけど……あの声は僕にしか聞こえなかったのかな……」


 だがもし聞こえていれば、誰かが何かしらの反応を示すはず。

 やはり、あれはラウダにしか聞こえていなかったのか。


「でも、それならどうして僕にだけ……」


 そうぶつぶつとつぶやきながら村に入る。

 何気なく顔を上げ、ぎょっとなる。


 夜道に一人、ローヴが立っていた。


 まさか自分がいないことを心配して探しに来たのだろうか。

 と思ったところで、あることに気づいた。

 まただ。目の焦点が合っていない。

 ラウダは自分の右手を見やった。


 証が、輝いている。


 間違いない。今の彼女はローヴじゃない。

 聞きたいことはたくさんある。しかし今一番聞きたいのは。

 そっと歩み寄ると、顔をのぞき込むようにして尋ねた。


「君は……誰?」


 相手は、白銀に輝くラウダの右手を見つめると、ゆっくりと口を開いた。


「私は、アイラ」


 やはりローヴではない。しかしその声や体はローヴそのもの。

 ラウダは顔をしかめる。


「……アイラ。君はどうしてローヴを操ってるの?」

「操る……違う。私はこうして、選ばれた者に接触するために、その者に最も近い存在に憑依しているだけ」


 その言葉の中に、感情というものはまるで存在しなかった。

 普段から無表情なセルファとはまた違う。

 感情、いや心そのものを持たないかのようだ。


「君は何者なの?」


 警戒しつつ、念のため、自分の腰にある武器を確認しなおす。


「……私は世界の管理者。世界の行く末を見守るだけの存在。そしてルナを司るもの」


 まるで分からない。

 世界の管理者とは一体何なのか。

 そもそも人の体に憑依できるなど、これも魔法の一種なのだろうか。


「質問はそれだけかしら。ならば私から一つだけ聞かせてもらうわ」


 いや聞きたいことはもっとある。あるはず。

 しかしとっさに言葉が出てこないのだ。


「あなたは、世界を救える?」


 その瞬間、背筋がぞくりとしたのを感じた。

 焦点こそあっていないものの、この人物は、まるで全てを見透かしているかのようだった。

 根拠などないが、全身から警告音のようなものが出ていた。


 彼女は、僕の過去を知っている。


 鼓動が早くなる。


 怖い。

 怖い? 彼女が?


 しかし畏れている。

 まるで、神様を前にしているような。

 神様? 彼女が?


 そんな彼女は、静かに答えを待っていた。


「……僕、僕は」


 世界を救えるのか?

 そもそも本当に勇者でなければならないのか?

 この世界のこともろくに知らないのに?


 ラウダは黙り込んでしまった。


「そう。それがあなたの答えなのね」


 そんなラウダに、アイラと名乗った存在は心なき言葉を冷たく言い放つ。


「私はあなたがどのような行動を取ろうとも、死のうとも、監視者としての役割を全うするだけ。好きにするといいわ」


 そう言うや否や、ふっと力が抜けたかようにひざから崩れ落ちる。

 それを慌ててラウダが抱きとめる。


 耳元で寝息が聞こえた。

 どうやらアイラが憑依して勝手に動かしていただけで、ローヴ本人は眠ったままだったようだ。

 しかしそんな奇妙なことができるものだろうか。

 以前もローヴ本人は憑依された際の記憶がなかった。


 自分の右手を見つめる。

 またしても証は消えていた。

 この証に関してもそうだ。

 自分の意思とは関係なく勝手に現れ、勝手に消える。

 セルファは証の力を完全に使いこなしているというのに。

 戦闘経験が少ないから?


 それとも自分が――


「……んむぅ」


 耳元で寝言を言われ、意識が現実へと引き戻される。

 今は考えている場合ではない。とにかくこの状況を何とかしなければ。

 ノーウィンのように力があれば両手で抱えることも可能なのだが、残念ながらラウダには真似できない。

 ローヴに肩を貸すと、ずるずると引きずるようにして宿へと歩き出した。

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