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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第34話 地を司るもの
194/196

34‐4

 セルファの過去を聞き終えた一行はオアシスへと戻り、休息を取っていた。

 それぞれ何か思うところがあったのか、誰も何も話すことがないまま、眠りにつく。


 そんな中、セルファは1人集落に残っていた。


「休まなくていいのか」


 とある墓の前に佇む彼女の背後から声がかけられる。

 ふるふると首を横に振る少女の隣に歩み寄ってきたのはノーウィンだった。


 しばらく何も言わずそこに立つ2人だったが、不意にノーウィンがセルファに問いを投げかける。


「ここの墓は全部1人で?」

「……ええ、私が埋葬したわ」


 惨殺された同族の死体を1人で埋葬する。それがどれほど恐ろしく悲しいことか、ノーウィンには想像もつかなかった。


「ここには姉さんが?」


 盛られた砂に石が3つ重ねられただけの簡素な墓を見ながら問うと、彼女はこくりとうなずく。

 それを確認すると、ノーウィンはそっと祈りを捧げた。


「……俺が初めてセルファに会った時」


 目を開けたノーウィンはそう話し出す。


「全身を黒服で覆ったやつらに襲われていた」


 過去に1度だけ問うた質問。

 だがその際、彼女は露骨に「聞くな」というオーラを発するだけで、答えてくれなかった。


「やつらは何者だ?」


 それを再度問いかける。

 今なら答えてくれる。そう思ったからだ。


 しかし返事は意外なものだった。


「……実は、私にも分からない」

「そうなのか?」

「……襲撃を受けたのはあれが初めてだったから。私を邪魔に思う存在が仕向けたのだとは思うけど、正確な所は何も」

「そうか……」


 セルファを襲っていた黒服の集団。それはファ族を襲撃したリザードマンやドラゴニュートではなく、普通の人間のようだった。

 やはり帝国の手のものだろうか。


「……ありがとう」


 考え事をしていたノーウィンに、セルファがそう告げた。


「え?」


 あまりに唐突で、何のことか分からず、ノーウィンは目を瞬かせる。


「……あの時助けてくれた礼、言ってなかったから」


 セルファは姉の墓を見やったまま、ぼそぼそとそう言った。

 しばし、どこか気恥ずかしそうな彼女を見つめていたノーウィンだったが、急にぶはっと吹き出す。


「なっ」


 真面目に感謝を述べたのに笑われたセルファは、相手にむすっとした表情を向けた。


「何を今さら。その礼として俺の側にいてくれたんだろう?」


 笑いながらノーウィンにそう言われたセルファは、次にばつの悪そうな顔をする。


「それは……その……」

「ん?」

「利用してやろうと思って言っていただけで……」


 しかし対するノーウィンは優しく微笑んで一言、


「そっか」


 とだけ言った。


「そっか、ってあなた……」

「それでもセルファは今まで俺についてきてくれた。戦い方までわざわざ俺に合わせてくれて」

「それは……」

「そして今日、自分のことを話してくれた。それはつまり俺を、俺たちを仲間だと思ってのことだろう?」


 セルファは驚き、目を大きく見開く。


 実のところ、セルファは何故自分が皆にあんな話をしたのかよく分かっていなかった。

 話す必要があるからと思って話したつもりだったが、冷静に考えてみれば、別にそんな必要性などなかったわけで。


「仲間……」


 目的を果たすために、利用できるものは何でも利用してやろうと思っていた。

 そのために非情になったつもりだった。


 でも――


「…………」


 自分の感情がよく分からなくなり、セルファは黙り込んでしまう。

 そんな彼女の困惑を理解しているのか、ノーウィンはそれ以上何も言わなかった。


 *     *     *


 早朝にオアシスを出発した一行は、再び焼かれるような昼と凍えそうな夜に耐え、時々戦闘をはさみ、あとは黙々と歩く。


 そうしてたどり着いたのは、あちこちに隆起した天然の岩の柱がそびえている、他とは明らかに様子の異なる場所。

 奥には、先に訪れた2つと同じ石造りの神殿があった。

 その正面に立つ岩にはやはり複雑な紋章が刻まれている。


「やっとか……」


 荒い呼吸でつぶやいたアクティーは、ここに至るまでに風の力を使い続けたために疲労困憊していた。


「休憩してから入りましょうか?」


 そう尋ねるオルディナも、元々体力が少ないために、呼吸を荒げている。

 その問いに対し、セルファは首を横に振った。


「神殿内は特別な力で守られているから、入ってしまった方が安全だわ」


 彼女は岩の前に歩み出ると、その場にひざまずき、両手を組んで祈りを捧げる。

 やがて、祈りに呼応した岩が音を立て動くと、地下へと続く階段が姿を現した。


 セルファを先頭に階段を下っていくと、程なくして広い空間へと出る。

 岩が散乱した内部は少しひんやりとしており、汗でぐっしょりとなった体に心地良かった。


「あっ!」


 砂漠越えの疲れを癒していると、突然オルディナが声を上げて一目散に駆け出した。

 何事かと皆がそちらに視線を向けると、彼女は岩陰に屈み込み、何やら目を輝かせている。

 ローヴがその後を追うと、そこにはぼんやりと青緑色に発光する不思議なキノコが生えていた。


「それは?」

「ミカダケです! 見ての通り暗闇で淡い光を放つキノコで、限られた環境にしか生えない希少種なんですよ! まさかこんな所でお目にかかれるなんて……!」


 感激するオルディナに皆が呆れるが、どうやらここが薄らと明るいのはところどころに生えているこのキノコのおかげらしい。

 彼女が楽しそうに観察と採取を行う間に休息を取った一行は、本格的に精霊探しを開始する。


「ま、どうせ一番奥にいるだろ」


 今までの精霊の居場所を元に気軽に言ってのけるアクティーだったが、しばらく辺りを探索した結果、どうやら今回は一筋縄ではいかないことが判明した。


 というのも、地下へ続く道が複数見つかったのだ。


 どれが精霊へと続く道なのか――皆の視線がセルファへと注がれる。

 しかし彼女は首を横に振った。


「私には期待しないで」

「……ここに来たことはないのか?」

「私が来たことがあるのは入り口まで。中に入ったのは今回が初めてよ」


 イブネスとのやり取りを見て、皆が肩を落とす。


「証の力はどうなんだい?」


 ガレシアがそう尋ねてみるも、彼女はまたしても首を横に振って、何の反応もない左手を見せてきた。


 風の神殿にはトラップがあったものの、案内人がいた。

 水の神殿には案内人はいなかったが、一本道だった。

 しかし今回は案内人がいなければ、道も入り組んでいると来た。


「精霊がここにいるのは間違いないんだがな……」


 アクティーが言うには、四方八方から精霊の気配がして、正確な道が分からないらしい。


「考えても仕方ない。ひとまずあっちの道から行ってみよう」


 ノーウィンの言葉に皆うなずくと、彼が指差した道の先を目指す。

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