34‐1
そこに広がるのは砂、砂、砂。
誰も何かを言う余裕などなく、黙々と歩み続ける。
だが果たして目的地まであとどれくらいあるのか。
知っているのは、先頭を慣れた様子で行くセルファだけだろう。
* * *
水の神殿から2日間の航海を経て、たどり着いたフィーフェルト大陸。
長年使われていない様子の古びた桟橋に船をつけ、その地に降り立った一行は、眼前に広がる景色を見て、大きなため息をついた。
どこまでも広がる砂漠は波のように上下しており、吹きつける熱風には頬を焦がされそうだ。
そして照り付ける日差し。普段見ている太陽とはまるで別物のように大きく力強く見えるのは気のせいだろうか。
全身からはすでに汗が吹き出している。
「暑い……」
「……言うな」
うなだれるアクティーをイブネスが注意するも、彼もまた辛そうな顔をしていた。
「ほら2人とも! 文句言ってないで予定通り頼んだよ!」
ガレシアに叱咤された2人は、再度大きなため息をついた後、証の力を解き放つ。
ひやりとした水気を柔らかな風が運び、一行の周囲を巡り出した。
これは過酷な砂漠越えを少しでも楽にしようと、オルディナが発案したものだった。
一見すると旅が快適になりそうな方法だが、証の力を継続して使用するため、アクティーとイブネスには負荷がかかり続けることになる。
さらにその状態でこの環境の中を歩き続けねばならないわけで。
「オルディナちゃんも酷なこと思いつくよなあ……」
「ご、ごめんなさい」
オルディナは申し訳なさそうに縮こまるが、彼女は何気なく発案しただけで、実行を決めたのはガレシアだったりする。
というのも当初、体力のない者や精霊に会う必要のない者には船で待っていてもらい、少数で行動する予定だったのだが、主な対象となる女性陣から猛反発を受け、あれこれ思案した結果こうなったのだった。
「ごめんなさい……でも……」
同じく申し訳なさそうにするローヴ。
彼女もまた、置いていかれることを断固拒否した者の1人だった。
そんなローヴにアクティーはひらひらと手を振る。
「ま、人それぞれ事情もあるだろうし、いーよいーよ」
「けどここには魔物も普通に生息してるらしいからな。無理は禁物だぞ」
ノーウィンがそう付け加えると、ローヴは力強くうなずいた。
「まずはオアシスに向かうんだったな」
ネヴィアが確認すると、セルファはこくりとうなずいた。
先導を買って出た彼女は相変わらず多くは語らないままだが、他に情報もなければ目印や詳細な地図もない。
今は信じてついていくしかないだろう。
シグオーンと船員たちに見送られ、一行は出発したのだった。
* * *
このような過酷な地でも、魔物はたくましく生きているもので。
サボテンのような尾を巧みに使い、獲物に襲いかかるサボスコーピオ。
砂漠を泳ぐように素早く移動し、猛毒の牙で攻撃してくるデザートスネーク。
熱風に乗って空中を飛行し、火の玉を吐き出してくるファイアフライ。
小さいが群れをなして獲物を取り囲み、糸でがんじがらめにしてくるフロックスパイダ。
いずれの襲撃も難なくしのぐも、酷暑の中での戦闘に一行は体力を削られつつあった。
戦闘の際、証の力を使い続けているアクティーとイブネスは後方で待機しているが、彼らもまた疲弊しつつある。
おまけに、歩けど歩けどオアシスなどどこにも見当たらない。
そうこうしているうちに夜を迎えると、今度は急激な寒さが襲いかかる。
寒さに震える一行は適当な場所で身を寄せ合い、交代で見張りを立て、十分に眠ることもできぬまま夜を越した。
日が昇り切る前にまた歩き始めるも、相変わらずオアシスなど見える気配がなく。
皆、表情も思考も無と化しており、ただただ歩き続けた。
空が赤く染まり始めた頃。不意に先頭を行くセルファが足を止める。
「見えたわ」
その言葉に皆が足元に落としていた視線を上げると、そこには涼しげな水場があった。
周辺には緑も見える。
疲弊しきった顔をぱっと明るくすると、一行は再び歩き出した。
だが。
オアシスに近づくにつれ、その周囲にある人工物の残骸が目に留まる。
崩れた石造りの家々。
どう見ても人が住んでいた跡だ。それも比較的多くの人が。
ひとまずオアシスにたどり着いた一行は、疑問を覚えつつも、休息を取ることにした。