31‐8
翌朝、町の出入り口には一行の姿があった。
彼らはビシャスと同じ部屋に泊まっていたラウダを待っていた。
最初は迎えに行ったのだが、何故かビシャスに追い返されてしまったのだ。
「ラウダさん……来ますよね?」
「心配しなくてもちゃんと来るさ」
不安な面持ちのオルディナに、ノーウィンは笑顔で答える。
その隣には2人が来るであろう方向をまっすぐ見つめるローヴが立っていた。
彼女の表情に陰りはないものの、手にはぎゅっと拳が作られている。
もしかしたらこのまま来ないのではないか。行方をくらませるのではないか。皆それを懸念していたのだ。
しかしどうやらそれは杞憂だったようだ。
「あっ!」
向こうからラウダとビシャスが一緒に歩いてくる。
それを見たオルディナは声を上げ、ぱっと顔を明るくした。
しかし、うつむきとぼとぼと歩いていたラウダが不意に立ち止まる。
ビシャスはため息をつくと、そんな彼の背をバシッとたたき、早く行けと促した。
ラウダはヒリヒリ痛む背をさすると、ようやく皆の前に立つ。
「ったく、何してたんだよ」
結局この2日間ゴロゴロしていただけのアクティーは呆れたようにそう言った。
「待ってたんですよ、ラウダさん」
ふふっと笑うのはオルディナだ。先ほどまでの不安はどこへやら。とても嬉しそうだ。
「そしたら次はまた橋だね」
「神殿までの道のりは遠いわね……」
ガレシアの話を聞いたセルファがため息をついた。
「……あの」
わいわいと盛り上がる一行だったが、そこで突然ラウダが口を開く。
「ん?」
ノーウィンが微笑みながら、こちらの話に耳を傾けた。
何事かと皆が見つめる中、ラウダは何かを口にしようとするも、黙り込んでしまう。
「ラウダ……?」
一体何を言い出すのか。急に不安になったローヴが彼の名前を呼ぶ。
しばし黙ったままのラウダだったが、やがて意を決したように口を開いた。
「ごめんなさい」
思いもよらぬ言葉に、一行は思わず顔を見合わせる。
「僕は……」
「ラウダ」
続けて何かを言おうとしたラウダだったが、それを制するようにノーウィンが優しく彼の名を呼んだ。
そしてそっと手を差し伸べる。
「行こうか」
彼の行動に驚きつつも、ラウダはそっとその手を取った。
少し離れた所でその様子を見ていたビシャスはやれやれと肩をすくめる。
「ったく。恵まれてるくせにわがまま言ってんじゃねえよ」
そして誰にも聞こえないようぼそりとそう言った。
「師匠」
そんな彼にローヴが声をかけてきた。
「師匠はこれからどうするんですか?」
「俺はマルメリアに行く」
「傭兵仕事ってわけか?」
「ま、そんなとこだ。俺は人気者だからな」
アクティーの問いにそう答えたビシャスはガハハと笑う。
「ま、うまくやれや」
次に男はそう言ってきたが、その目は一行ではなくネヴィアに向けられていた――ように見えた。
その後二言三言交わすと、一行はビシャスと別れ、エルテの町から歩き出す。
彼らの姿が見えなくなると、男は1人、にやりと笑った。
「強くなれよ、ラウダ。そうでないと鍛えた甲斐ってもんがねえからな……」
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