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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第30話 賢者ハイン
166/196

30‐3

 一行は魔法庫へと足を踏み入れる。


 中にはさらに小部屋が1つ。これまた鉄扉で閉じられていた。


 ウーテンが、壁面にあるボタンをポチポチと押すと、小部屋の中でガコンガコンと大きな音が響く。

 表向きは分からないが、何か大きな仕掛けが働いているようだ。


 やがて音が静まると、ウーテンが小部屋の扉に触れる。それは魔法庫の扉同様に光り、すうっと消える。

 そうして中に入ると、室内には固定された鉄の箱がひとつだけぽつんと置かれていた。

 さらにウーテンが箱に手を触れると、ガチャリという音と共に箱がその口を開く。


「魔法庫、小部屋、中の宝箱……厳重なロックだねえ」


 そう言うガレシアは呆れた様子だ。

 ウーテンがいなければどれも開かない仕組みだが、パターンは全く同じなのだから無理もない。

 口には出さないが、もう少し工夫が必要だと思っていた。


「うむ、これを破れるものは絶対にいないアル」


 しかしそれを褒め言葉だと思ったウーテンは、彼女が内心どう思っているかなど気づきもせず、うんうんとうなずく。


「これが惑わずのコンパスネ」


 そして彼は箱から取り出したものを、先頭に立っていたノーウィンに手渡した。

 横からひょいとアクティーがのぞき込む。


「んー、見た感じ普通のコンパスだけどな」


 あまりにもあっさりと目的のものが手に入ってしまったので、まだ何かあるのではと(いぶか)しんでいるアクティーだったが。


「……いや、水の流れを感じる」


 そんな不安をイブネスが払った。


「水鬼の証を持つあなたがそう言うなら間違いなさそうね」


 セルファがここまでの旅路を思い返し、ため息をつく。

 実に長かった――が、本番はこれから。本来の目的は精霊に会うことだ。


「ウーテン」

「分かってるアル」


 小部屋から出ると、ハインとウーテンは目で何かを示し合わせた。


 再び壁面にあるボタンをポチポチと押す。

 そして仕掛けの作動音が止むと、ウーテンとハインは2人だけで小部屋に入っていった。


「ハインさんの用事って何だろうね」


 ローヴがオルディナに尋ねるも、彼女はうーんと首を傾げる。

 娘といえど、彼女も詳しく知らされているわけではないらしい。


「キィエエエエエエエエエエッ!!!」


 突然、小部屋から奇声が響き渡り、一行はびくっと身を震わせた。

 声はウーテンのものだが、明らかに尋常ではない。


「どうした!?」


 慌てて小部屋に飛び込むと、彼は頭を抱え、全身をぶんぶんと振り回すような面妖な動きをしていた。


 状況がさっぱり分からない。


「パパ、一体何が?」


 困惑しつつもウーテンの隣に立つハインにオルディナが問うと、彼は険しい顔でこちらを振り返った。


「ここに安置していたものがなくなっていた。箱が空いていたところを見るに……盗まれたようだ」


 一行は顔を見合わせる。


 ここは魔法庫。

 衛兵の目もあればトラップもあり、ここまで見てきたようにウーテンの手でしか開けられない箇所もある。

 盗まれるなどということがあり得るのだろうか。


「あり得ないあり得ないあり得ないアルうううううううううう!!!」


 ウーテンはしばらく激しい動きを繰り返していたが、やがてゼーハーと息を切らして止まった。


「一応確認だが、前に取り出してそのまま開けっ放しでーってことはないよな?」


 アクティーが問うと、ウーテンは素早くこちらを振り返る。


「馬鹿言うなアル! そもそもあれは吾輩とハインしか知らな」

「ウーテン」


 ウーテンの言葉を遮ると、ハインは静かに首を左右に振る。


「なくなったものは仕方ない。このことは忘れるのだ」

「なっ!? あれは貴重な研究素材アルよ!? それこそ、この世界の歴史を覆すような」

「ウーテン」


 再度名を呼ばれてたしなめられるが、彼は諦めきれないらしく、地団太を踏んだ。


「……何が入っていたのだ?」


 ネヴィアが問うも、ハインは語ろうとせず、目を閉じる。


 場が静まり返った。


「パパ……?」


 オルディナが不安そうに父の顔をのぞき込む。

 彼はしばし何かを考えた後、ゆっくりと目を開けた。


「天より降りし黒い石」

「なっ!?」


 ハインの言葉にガレシアが声を上げる。

 それは、彼女が父の死の真相を知るために追い求めているものだ。


 思いもよらぬところでその言葉を聞いたガレシアは、ハインに詰め寄る。


「教えとくれ! あれは一体何なんだい!?」


 彼女の鬼気迫る表情に、ハインが怪訝(けげん)な顔を浮かべた。


「君は? 石のことを知っているのか?」


 しかしガレシアはそれに答えることなく、さらに詰め寄る。


「何だっていいんだ! あの石について知ってることなら何でもいい!」

「落ち着けガレシア!」


 必死なガレシアをアクティーが止めようとするが、彼女は聞き入れようとしない。


「落ち着けるわけないだろう!? あれは父さんの……!」

「落ち着きたまえ」


 それをハインが静かになだめる。


「私ならきちんと話を聞く。だからまずは落ち着きたまえ」

「…………」


 ガレシアは胸に手を当てると深呼吸を何度か繰り返し、ようやく落ち着きを取り戻した。

 そしてゆっくりと、昔を思い返しながら話し始める。


 天より降りし黒い石を探しに出たあの日のことを。

 父と別れたあの時のことを。


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