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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第30話 賢者ハイン
165/196

30‐2

 長い長い階段を下りると、今度は長い長い廊下を歩いていく。

 さらに何度も角を曲がらされているうちに、どこをどう通ってきたのかすっかり分からなくなってしまった。


「広いな……」

「泥棒対策アルね」


 ウーテンが言うにはこの地下は複雑に入り組んでいるうえ、各所に魔法によるトラップが仕掛けてあるため、侵入も脱走も容易ではないとのこと。


「吾輩から離れたら最後、生きては戻れないと思うことネ」

「あ、ああ……」


 ただの脅しには聞こえず、一行は思わず身震いした。


 長い廊下を行く間、オルディナはハインにも一行の持つ事情を説明する。


「なるほど……それでコンパスが必要というわけか」


 ハインは納得したようにうなずいた後、何事かを考え出した。

 オルディナは首を傾げるが、結局彼が何を考えていたのかは分からないまま、大きな鉄扉がある場所へと到達する。

 両脇には2人の衛兵が立っており、ウーテンの姿を確認すると、さっと敬礼した。


「異常はないアルか?」

「はい、ウーテン様」

「こんな所を守ってるなんて大変だなあ……」


 先ほどのウーテンの話を思い出しながらローヴがそう言うと、ハインがこっそりと話しかけてくる。


「実はここには裏口があってな。衛兵たちはそちらを利用してくるからここへはすぐ来られるのだよ。とはいえ、重要区画故に裏口を利用できるのは限られた人間だけだがね」

「へえ、そうなんですね」


 衛兵たちがこの入り組んだ場所までいちいち行ったり来たりトラップに気を付けなければならなかったりせねばならないと思っていたローヴはほっとした。


 ウーテンが右手で鉄扉に触れる。すると扉が光り、すうっと消えた。


「ここはウーテン様の手でなければ開かない仕組みなんですよ」

「オルディナもここに入ったことあるの?」


 仕組みを説明してくれたオルディナに、ローヴが尋ねると、意外にも彼女は首を横に振る。


「実は初めてなんです」

「用のない者は決して入れないことになっているからな」


 どこか楽しみにしている様子の娘の頭をなでるハインがそう教えてくれた。


「じゃあ、もしアンタがいなくなるようなことがあればどうするんだい? 開けられなくなるのかい?」


 ガレシアがふと気になった疑問を口にすると、ウーテンがこちらを向く。


「もちろん他に鍵を用意してあるアル。まあ、吾輩がいなくなるなんてことはまずないアルね」


 確かにそう簡単にいなくなるようなタマではなさそうだ、と言いそうになったアクティーは両手で口を塞いだ。


 ウーテンは魔法庫の方へと向き直る。


「さて、中に入るアルよ」


 そう言って彼が足を踏み出した時だった。


 突然衛兵が手にした槍でウーテンに迫る。

 その殺気を瞬時に察知したイブネスが剣を抜き放ち、食い止めた。


「な、な、何事アル!?」


 驚く彼の背後では、もう1人の衛兵が槍を振るってくる。

 そちらはセルファが素早く割って入るも、その力は尋常ではなく、彼女では抑えきれない。

 ひざを付きかけたセルファを守るため、ノーウィンが衛兵の腹を勢いよく殴りつけた。

 軽く吹き飛んだ衛兵はそのまま気絶する。


 イブネスと対する相手も剣の柄をみぞおちにたたき込まれ、その場に崩れ落ちた。


 辺りがしんと静まり返る。


「謀反アル! 裏切りアル!」


 慌てふためくウーテン。信頼していた衛兵たちが何の前触れもなく襲ってきたのだ。無理もない。


「とりあえずしょっぴくか」


 戦闘態勢を解くと、アクティーは倒れた衛兵をひっ捕らえようとする。

 だが、気絶したと思われていた衛兵たちがむくりと起き上がった。


「……加減しすぎたか?」


 眉間にしわを寄せたイブネスが再び剣を構える。

 衛兵たちはふらりと槍を構え、素早く攻撃してきた。


 先ほどと同じようにイブネスが食い止める――が、今度はその力に押されてしまう。

 足に力を入れ踏ん張るも、徐々に徐々に後ろへ押し下げられる。


 もう一方では槍を手にしたノーウィンが、柄で力いっぱいに相手を殴り飛ばしていた。

 どさっと倒れ込む衛兵だが、先ほどと同じようにむくりと起き上がると、再び攻め込んでくる。


 徐々に力を増すうえ、倒されても倒されても起き上がる衛兵たち。


「ど、どうなってるアルかー!?」


 ウーテンは左右で起きている戦闘を交互に見ると、頭を抱え大声を上げて混乱していた。


 押されているイブネスにアクティーが剣を抜き、協力する。

 その後ろではネヴィアが衛兵に照準を合わせていた。

 それに気づいたオルディナが慌てて割って入る。


「ま、待ってください! 何か事情があるはずです!」

「だがこのままでは全滅だ」


 攻撃してきているとはいえ相手は人間。

 だがネヴィアは退こうとしない。

 その間にも相手は何度か倒されるが、その度にむくりと起き上がり攻撃してくる。


「おいオッサン! 何か恨まれることでもしたんじゃねえのか!?」


 攻撃を防ぐアクティーが大声で文句を言うが、ウーテンはぶるぶると首を横に振った。


「そ、そんなわけないアルよ!」


 うかつに攻撃するわけにもいかず、ローヴはおろおろと戦いの行方を見守っていたが、ふと後ろに立つハインが何かをつぶやいていることに気づく。

 目を閉じて発しているのは普通の言葉ではない。何かの呪文のようだ。


 それを唱え終え、ばっと手を突き出すと、2人の衛兵は突然その場に崩れ落ちた。


 今度は、起き上がらない。


「パパ、何を……!」

「安心なさい。睡眠魔法をかけただけだ」


 衛兵たちが死んだのではと慌てるオルディナに、ハインは優しく語りかける。

 ほっと安堵するオルディナだが、睡眠魔法ごときで相手が止まるとは思えない皆は臨戦態勢を取ったまま。

 そんな彼らを安心させるように、ハインは言葉を続ける。


「放っておけば一週間は目を覚まさない強力なものだ」

「一週間……」


 それを聞いて皆、さすがにそれならば、と構えを解いた。


「しかしなんだっていきなり襲ってきたんだ?」


 アクティーは腕を組むと、倒れている衛兵を見る。


「尋常ではない力、倒れても起き上がってくる様子を見るに、何者かに操られていたのではないだろうか」


 ハインの言葉に、ウーテンがぎょっとした顔で反論した。


「そんな馬鹿な! ここは地下深いうえに入り組んだ迷宮! トラップも仕掛けてあるネ! 地上から魔法が届くとは思えないし、ここまで来て魔法をかけていったとも思えないアル!」

「いずれにせよ、コイツらが目を覚ました後に尋問してみりゃ分かることじゃないかい?」


 ガレシアがちょいちょいと衛兵を指差す。

 それに賛同した一行が衛兵を捕らえようとした――その時だった。



 じゅっと蒸発するような音と共に、衛兵たちの体が消えていた。


 地面に人型の黒い焦げ跡を残して。



 あまりに突然のことで、誰しもがしばらくぽかんと口を開けたまま何も言えなかった。


 もし本当にハインの言う通り誰かに操られていたのだとしたら。


「……消された、のか?」


 アクティーがぼそりとそう言うが、真相は誰にも分からない。


「……あの人たち、いつもここで働かれてた方ですか?」

「へ? そ、そうアル……」


 不意にオルディナがウーテンに尋ねると、彼は驚きつつもこくこくとうなずいた。


「そう、ですか……」


 どうやら誰かが差し向けた衛兵もどきの暗殺者や人形ではないようだ。

 いつもここで働いていた普通の人間が戦わされ、そして消された。


 そのことに胸を痛めたオルディナはぎゅっと両手を組むと、静かに祈りをささげる。


 その様子をラウダがじっと見つめていた。


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