28‐5
魔法都市マルメリア。
そこでは入国のための検査も特殊で、衛兵が1人1人に順番に杖をかざしていくのだ。
すると光の輪が対象の足元から頭まで上っていき、頭上で光が消えると検査は終わり。
「あれは何を?」
ローヴがこっそりとオルディナに尋ねる。
「その人が不審物を所有していないか、マナの流れを用いてチェックしているんです」
「へえ……でも不審物かどうかなんてどうやって判断するの?」
「あの杖は事前に通しても問題ない物を情報登録してあって、登録外の物が検出されると輪が赤く光る仕組みなんです」
魔法都市ならではの独特の仕組みにローヴが感心していると、全員の検査が完了した。
「ご協力感謝します。ようこそ、魔法都市マルメリアへ」
衛兵がそう言うと、壁の一部がふっと消え、都市へ入るための道が開ける。
「すごい! これも魔法?」
「はい、都市を守るバリアです」
驚くローヴに説明すると、オルディナは衛兵に歩み寄った。
「すみません。ウーテン様にお会いしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「え? ウーテン様に?」
唐突な質問に驚く衛兵だったが、彼女の顔を見て何事かを思い出したようだ。
「おや、よく見ると君は……」
オルディナがぺこりとお辞儀するのを見て、一行は不思議そうに顔を見合わせた。
衛兵は納得した様子でうなずくと、彼女の問いに答える。
「ウーテン様ならいつも通り魔術ラボにいらっしゃいます。場所は分かりますか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
オルディナは礼を言うと、一行の元へと戻ってきた。
「ウーテンというのは?」
「ここで一番お偉い方です。魔具のことならその方に聞くのが一番早いと思います」
ノーウィンの問いに答えると、オルディナはその人物がいる場所までの案内を買って出る。
さっそく都市内部へと入ると、背後のバリアが閉じ、再び壁となった。
石で固められた地面に石造りの家々。一見すると普通の町と変わりない。
あちこちに張り巡らされているパイプをのぞいて。
「あのパイプは都市全体にマナを巡らせるためのものですよ」
首を傾げてパイプを見つめるローヴに、キュレオが説明した。
「都市には魔術を利用するための装置があちこちに配置されていて――あ、魔術って分かりますか?」
「うん。人工的に魔法を使う方法だよね」
ローヴの回答にキュレオがうなずく。
「それらの装置を作動させるためにあるんです。屋内でも魔術が使えるよう、家の中にもつながってるんですよ」
「へー! 他にも魔法都市らしいものってありますか?」
「それなら魔法学校があるな」
魔法に携わる者として感激するローヴにノーウィンが笑いかけた。
「魔法学校!」
「けど今回は行く暇ねえかもなあ。目的はそっちじゃねえし」
テンションが上がっていくローヴにアクティーがそう言うと、彼女は残念そうにため息をついた。
「さて」
一行のやり取りを楽しそうに見ていたキュレオが声を上げる。
「僕はそろそろ行きますね」
「そうか、寂しくなるな」
ノーウィンが手を差し出すと、出発時と同じように、彼は握手をした。
一行の間に普通に溶け込んでいたので、皆が寂しそうな表情を浮かべる。
続いてキュレオはラウダの側へと歩み寄った。
「ラウダさん、さっきの話ですけど」
ラウダから提案した旅への誘いの件に対して、彼は申し訳なさそうにうつむいた。
「僕にはやるべきことがあって、そして大切な人も待っている――だから、ごめんなさい。一緒には行けません」
ラウダは小さく笑むと、首を横に振った。
「いいよ、気にしないで」
そこで不意にラウダが小さくあっと声を上げる。
「そうだ、1つお願いがあるんだけど」
「お願い、ですか?」
首を傾げるキュレオに、ラウダは頬をかいた。
「その、敬語は止めてほしいな」
意外な“お願い”に、彼は目をぱちくりさせるが、すぐにふふっと笑う。
「分かったよ、ラウダ」
「ありがとう」
短いやり取りを終えると、キュレオは今度こそ立ち去るため、一行の前に立った。
「それでは皆さん、良い旅になることを祈っています」
「また会いましょうね」
オルディナが手を振ると、彼も手を振り返す。
「ええ、必ず」
そうして彼はその場を後にした。
その背が見えなくなるまで、ラウダはじっとそちらを見つめていた。
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