27‐4
2軒目の休息所で体を休めた翌日も、2日目と同じように朝食を購入し、食べながら歩く。
そろそろマリフェルバ大陸に到着するというところでローヴが足を止めた。
そちらを見やると、彼女は装飾品を販売している露店の前で何やらじっと見つめている。
「おや、坊ちゃん。お目が高いね」
店主である老人に案の定少年と間違えられるローヴだが、特に気にすることなく、それを見つめ続ける。
ノーウィンが横からのぞくと、そこには手のひらに収まるくらいの赤く透けた石がトップについたペンダントが飾ってあった。
「それは火山島で稀にしか採れない石でねえ。本来黒く固まるマグマが、マナが濃いところで固まるとそういう風に赤く透けた石になるんだ」
老人の言葉を聞きながら、ローヴはペンダントを左右からじっくり見る。
「そういう成り立ちからか、火の精霊様の加護が込められてるとも言うねえ」
「へえ……」
ローヴは何やら悩んでいる様子だった。
「それが欲しいのか?」
「え、あ、えーと」
ノーウィンが声をかけるも、彼女はまだ悩んでおり、曖昧な返事をする。
値札を見てみるがそれほど高いものでもない。ノーウィンはしばし様子を見ていたが、さっと財布を取り出し、ペンダントを指差した。
「これもらえるか」
「えっ!」
驚くローヴの横で支払いを済ませると、彼はペンダントを彼女に手渡す。
ローヴは渡されたそれを見て目をぱちくりさせるが、すぐに礼を言った。
「ありがとうございます。でも」
そう言うと彼女はペンダントをノーウィンに差し出す。
「これはノーウィンさんに」
「え?」
驚くノーウィンにローヴはにこやかに笑った。
「いつもお世話になってるお礼です」
「俺に?」
「はい。本当はこういうの自分のお金で買うべきなんですけど……」
皆のお金はノーウィンが一括して管理しているため、ローヴも個人的なお金は持っていない。
そのため購入するかしまいか悩んでいたのである。
突然のプレゼントに少々戸惑うノーウィンだが、ローヴは話を続ける。
「前から何か形のあるお礼がしたいなって思ってて。そしたらこの石を見た瞬間、これだって思ったんです」
そんな彼女の言葉を聞いて、やがてノーウィンはうなずいた。
「ありがとう、ローヴ」
礼を言うと、さっそく身に着けてみる。
「装飾品なんて着けたことないからな……変じゃないか?」
「全然! とっても似合ってます!」
楽しそうに笑う2人。それを見た店主の老人はうんうんとうなずいた。
「ふぉっふぉっ、仲の良い兄弟だなあ」
「「兄弟?」」
2人は声をそろえて不思議そうに顔を見合わせる。
「ん? 違うのかね?」
こくこくとうなずく2人に今度は老人が不思議そうに首を傾げた。
「よく似てるがなあ」
どの辺がどう似てるのか分からず、2人は再び顔を見合わせる。
「似てないよな?」
「似てないですよね?」
そんな2人の間に割って入るようにアクティーがやってきた。
「それはまだかかるのか?」
「ああ、悪い」
ノーウィンが謝り、ローヴと共に一行の元へ戻ろうとするが、素早くアクティーが真面目な顔でローヴに問う。
「ローヴちゃん。俺には?」
「え?」
「日頃のお礼ってやつ」
「あ、うーん」
彼女の素っ気ない返事にがくりと肩を落としていると、今度は後ろからガレシアがやってきた。
「アンタにゃ必要ないだろ! ほら、行った行った」
「ちぇー」
口を尖らして退散するアクティーを見て、ローヴは楽しそうに笑った。
* * *
出口ではシグルドが待っていた。
「橋旅は楽しんでもらえただろうか」
「はい!」
微笑みながら声をかけてきた彼に、ローヴは大きくうなずいて見せた。
その後彼に案内され、一行は橋の外へと出る。
「これからマルメリアを目指すのか?」
「ああ」
ノーウィンがうなずくと、シグルドは北東を指差した。
「それならまずはエルテの町へ向かうと良い。こことマルメリアの間にある町で大きな宿がある。今からなら夜までには着けるだろう」
「分かった、ありがとう」
「ああ、そうだ。マルメリアへ行くのならついでに通行許可証を発行してもらうと良い。さすがに何度も通行許可証なしで通すと他の者たちに怪しまれてしまうからな」
ため息交じりで申し訳なさそうに言う彼に、ノーウィンは気にするなと首を横に振る。
「それでは道中気を付けてな」
にこやかに笑うシグルドに一行は改めて礼を述べ、先へと歩き出した。
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