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昼食を終えた一行は部屋に戻ると、それぞれ荷物をまとめることにした。
とは言え、ラウダとローヴに関しては大した荷物もなく、持ち物といえば武器くらいだった。
対する2人は、武器は当然のこと、ノーウィンは大きめの袋の口ひもを結ぶと左肩に担ぎ、セルファは背中にそれほど大きくないリュックを背負った。
「ラウダたちも何か買っといた方がいいかもな」
武器を持っているとは言え、旅人からすればあまりにも無防備な2人を見てノーウィンは苦笑した。
何事も万全に。準備は怠らない方がいいだろうと、ラウダは同意した。
何せこの世界では当たり前のように魔物が存在し、行く先々で人間を襲っている。何の準備もなしに行くのは無謀すぎるだろう。
宿屋を後にした一行は、道具屋を目指した。その途中、様々な店を見つけローヴは辺りをきょろきょろとしていた。
「すごいね、ここ。アクセサリー屋に雑貨屋、本屋もある。あそこには鏡専門店なんかあるよ」
その瞳はきらきらと輝いている。
「この街は商人の集う街で有名なんだ。なんでも、元々は寂れた街だったそうだが街興しのために、店を出すための土地代を安くしているらしい。今じゃここに来れば大抵の物はそろうって言われるほどさ」
「それで露店とかが多いんだね」
以前ノーウィンが話していたことを思い出し、首を大きく縦に振った。
「2人の住んでる街にはこんな風に店とかないのか?」
ノーウィンが興味津々な2人に対して問いかけた。
「こんなにたくさんはないよ。花屋とか道具屋とかはあるけど」
「あと、洋菓子屋もね!」
ローヴが楽しそうに追加した。
それからまたきょろきょろと辺りを見渡し始めた。
その様子を見たノーウィンが笑う。
「ローヴは買い物が好きなんだな」
同じくその様子を見ていたラウダがため息まじりに
「あっちこっち引っ張り回されて大変だけどね……」
と言った。
それを聞いてローヴはふくれっ面になる。
そんな2人のやり取りを見ながらノーウィンは微笑んだ。
「いいじゃないか、女の子らしくて」
「さすがノーウィンさん! よく分かってる!」
その言葉でふくれっ面から一変、満面の笑みへと変わった。
「何がさすがなんだろう……」
分かるような分からないような会話を聞きつつ、ラウダは小さくつぶやいた。
しかし内心ではいつもと変わらぬ様子の幼なじみの姿に安心していた。
セルファはそんな彼らの姿を後ろからじっと見つめていた。
* * *
さすが商人の街と言うべきか。
ラウダとローヴは道具屋に入ると、品ぞろえの良さに驚き、しばらく品物に目移りしていた。
結局ラウダはベルトで腰に固定するポーチを買い、ローヴは斜めがけのミニバッグを買った。
ノーウィン曰く、あまり大きなものにするといざという時に動きづらいのだと言う。
その代金を支払う時に突然ローヴがあれっ、と声を上げた。
店主が不思議そうな顔をするが、ローヴは慌てて何でもないですと言うと恥ずかしそうに下を向いた。
店を出た後に、ローヴがノーウィンから財布を貸してもらい、何やら難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
「……ほら、これ見て」
そう言うとローヴは財布から取り出した銀貨を、不思議そうな顔をしているラウダの目の前に出した。
「あれ……これって」
その銀貨を見て何故か違和感を覚えた。
そしてすぐにそれが何なのか気づいた。
「どうかしたのか?」
2人のやり取りを見ていたノーウィンが首を傾げながら質問する。
そんな彼の方を向いてローヴが困ったような顔で、
「これ、ボクたちの世界で使われているものと同じなんです」
と言うと銀貨を差し出した。
リジャンナで“シャリネ”と呼ばれる通貨。
それは銀貨だけでなく銅貨も同じものである。
ここには金貨はないが、それも同じものである可能性は高い。
「本当に同じものなのか? 似てるとかじゃなくて?」
ラウダはもう1度確認し直すが、表を見ても裏を見てもやはり同じもののようだ。
確かにここは別世界であるが、本当に自分たちの世界とは関係のない世界なのか。
「よく考えたら……太陽神と月女神の話も一緒だった……」
気にも留めていなかった。
宗教の中で語られる勇者の伝説。
あれを語ったローヴと、セルファの話がほとんど一致していた。
あれこれ思案するうちに、ローヴが1つの考えを示した。
「もしかしてボクたち、タイムスリップしちゃったとか……?」
その言葉にラウダはまさかとは思ったが、リジャンナのおとぎ話に魔物や魔法が出てくるということは過去にそれに関係するものがあったということなのかもしれない。
「ここは……過去の世界?」
一行は首を傾げるだけであった。
謎は増えるばかりである。
疑問はあるものの、用意も整ったので、一行は街を出ることにする。
買い物好きのローヴは名残惜しそうに街を見ていた。
もし今彼女が金を持っていたならば、ラウダは確実に荷物持ち係になるだろう。
* * *
「ここから東へ向かうとリースという村があるわ。まずはそこが目的地」
街を出てすぐ、セルファは行くべき道を指差した。
しかし2人は目を瞬かせるだけである。
「えっと……歩いていくんですよね?」
どことなく心配そうに問うローヴ。今まで旅などしたことがない人間からすれば、無理もない。
「ああ。旅仲間が2人も増えたおかげで、今回稼いだ金は見事にすっからかんだからな」
それを聞いて思わずどきりとする。
あえて何も聞かないでいたが、2人分の装備を整えただけでも結構な額なはずだ。
いくら自分で稼ぐ身とはいえ、断じて彼らは金持ちではない。
「その分ばっちり働いてもらわないと。な?」
その様子を見てノーウィンはいたずらっぽく笑みを浮かべた。
冗談だとは分かった。
しかしどういう形であれ、いつかはきちんと返さねばならない。
「半日あれば行ける距離だから、心配しなくても大丈夫さ」
暗くなっていた2人に対して明るく答えるノーウィン。これが旅人というものか。
だが、そうは言うものの。
その先に広がるのは果てしなく平原。村などまるで見えない。遠くに山が見えるくらいか。
「移動手段としては馬車とかもあるが……俺たちの旅は基本的に足だな」
そうですかとつぶやくように返事をすると再び遠くを見やる。
綺麗に緑が続くだけ。ずっと見ていると視力が上がりそうな気さえする。
「さて、行くとするか」
ノーウィンの言葉を合図に、セルファが先頭を歩き始めた。
それに続くように3人も歩み始める。
ラウダはそっと右手を見やった。今はあの紋様も光もない。
セルファの言葉を思い出す。
勇者。世界を救う者。自分自身に課せられた運命とでもいうのだろうか。
よく分からない。
不安な面持ちのまま、次の目的地へ向けて足を動かす。
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