26‐1
桟橋に着くとすぐに船員が出迎えに来て、一行は再び船に乗り込む。
「よお。そろそろ戻る頃だと思ってたぜ」
船の奥から姿を現したのは船長のシグオーンだ。
「で、首尾は?」
「ああ……」
ノーウィンが事の顛末を語ると男は、ほおと笑った。
「精霊探し、ねえ。随分面白いことになってきたじゃないか」
「面白いもんかよ」
口を尖らせるアクティーの横からガレシアが彼に相談を持ちかける。
「水の精霊について、海の男のアンタだったら何か知ってるんじゃないかい?」
それを聞くなりシグオーンはクックッと笑った。
「アンタらは運が良いな」
「何か知ってるのか!?」
驚くノーウィンを焦らすように少し間を置くと、男は自慢気に話し出す。
「知ってるも何も、俺がその水の精霊を崇める一族の末裔だ」
一行は顔を見合わせて目を瞬かせた。
「ええええええええ!?」
そして、いきなり当たりを引いてしまったことに驚きの声を上げる。
「じゃ、じゃあ水の精霊の居場所が分かるんだね! 連れてっておくれよ!」
「あー、んー、あー……」
ガレシアが喜びの声を上げるが、そこで急にシグオーンの歯切れが悪くなった。
何やら嫌な予感を感じ取り、再度一行は顔を見合わせる。
「水の精霊がいる神殿に行くには、ここから南にある嵐の海域に突っ込む必要がある。が、そこは名前の通り常に嵐。一度入り込むと前後左右の感覚が失われ、荒波に揉まれ、無策で突っ込んだが最後、お陀仏さ」
その話を聞いた一行は、大きなため息をついて落胆した。
「なんつートコに住んでんだよ……」
「それじゃあ行きようがないじゃないか」
アクティーとガレシアは頭を抱えた。
しかし男の話に違和感を感じたネヴィアは彼を問いただす。
「それは無策で突っ込んだ場合だろう。水の一族の末裔だというのなら何か策があるのではないか?」
「ほお、勘が良いな」
「何だい、方法があるのかい」
肩を落としていたガレシアがむっと相手をにらみつけた。
「嵐の海域の海図と惑わずのコンパスという魔具があれば海域を抜けて神殿へ行ける」
「じゃあ!」
「が、残念ながら俺は海図しか継承していない」
肩をすくめるシグオーンに、またしても落胆するガレシア。
「コンパスはどうしたんだよ」
「何でもご先祖様が、誰もが簡単に神殿に近寄れないようにと海図と分けて保管したとかどうとか」
「何でそんな適当なんだよ……で、保管場所は?」
「知らん」
「ええ……」
清々しいほどの断言に、さすがのアクティーも困惑する。
せっかく当たりを引いたと思ったのに、どうやら一筋縄ではいかないようだ。
どうしたものかと悩む一行だったが、次に口を開いたのは意外なことにオルディナだった。
「あの、マルメリアへ行ってみませんか」
突然出てきた魔法都市の名前に、皆が首を傾げた。
「魔具のことなら専門家に相談する方が早い気がして」
「なるほど……一理あるな」
彼女の提案にノーウィンがうなずく。
「確か近くに港もあるし、いいんじゃねえか?」
続けてアクティーも賛同するが、そこでシグオーンが首を横に振った。
「あそこの港は今使えない。近くにあるフォルスティア村民の全員失踪事件に、帝国へ続くメルネル鉄橋の崩落……物騒なことが続いてるんでマルメリアが封鎖したんだ」
アクティーが渋い顔をする。
「うげ……じゃあどうすんだ?」
「前の港に戻ってカノッサの町を通過、オーリバラント大橋を渡って、マルメリアのあるマリフェルバ大陸へ行くってことになるな」
シグオーンの話を聞いて、アクティーからめんどくさいと言いたげなオーラが漏れ出した。
ノーウィンはそれをなだめると、仲間の方へと振り返る。
「みんな、それで良いか?」
皆が賛同した後、ガレシアはため息をついた。
「良いも何もそれしか方法がないしねえ……誰かさんのせいで」
「まあそう言うな。コンパスさえ用意してくれりゃ俺が全身全霊をかけてアンタたちを水の神殿まで送り届けてやるから」
にっこりと笑顔を見せるシグオーンに、一行はやれやれと首を振るのだった。