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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第25話 風を司るもの
144/196

25‐7

 低空をうろついていた魔物をあらかた掃討したノーウィンたちは、村の中央に集まっていた。


「……まるで砂を斬っているようだ」


 イブネスの言う通り、砂の塊を斬っているような感覚。

 それだけではなく、死した魔物はその場に死体が残らず、さらさらと風に散っていく。


 こんなことはこれまでになかった。


 ただの魔物の襲撃ではないと思い始めていると、突如耳をつんざくような大声が辺りに響き渡る。


「なんだ!?」


 頭上を見上げると、猛スピードで何かがこちらに飛来してくる。


 白く大きな鳥。


 魔物の一種だろうと武器を構えていたが、すぐそばまで飛んできたそれを見て、一行は絶句する。


 巨大な白鳥の頭は二股に分かれており、その先には――人の顔がついていた。


 2つの人面がそれぞれ口を開く。


「死ンジャエ、死ンジャエ」

「人面、鳥……?」


 人の顔といっても、その黒い目に光はない。


 呆然となる一行だったが、相手は明らかな敵意を放っていた。

 思い切り翼を羽ばたかせ、強風を起こす。


 すると辺りの家から出ている炎がその風に乗り、熱風となってこちらに襲いかかってきた。

 熱に顔を照らされ、皆が顔を腕で覆う。このままではまともに戦えない。


 まずはあの翼を封じるべきだと判断したイブネスが魔法を放った。


「アイシクル!」


 手のひらより射出された氷塊が翼に向けて一直線に飛んでいく。

 しかし、敵は身を翻すとあっさりとそれを避けてしまった。


「でかいくせに意外とすばしこいねえ」


 ガレシアが文句を垂れていると、敵が再び大きく翼を広げる。

 また強風が来る――そう思い身構えていると、不意に敵の側面から火球が3つ飛んできた。

 油断していた敵はまともに火球を受け、怯む。


 その隙にアクティーたちが合流してきた。


「遅かったか?」

「いや、まだ始めたばかりだ」


 アクティーがそう声をかけると、ノーウィンが返事をする。


「何ですか、あれ……」


 異様な敵の出現にローヴは不気味さを覚え、身震いした。


「分からない。だがあれがボスなのは間違いなさそうだ」


 ノーウィンが答えている間に、敵は体勢を戻し、空気をつんざくような声を上げる。

 そして勢いよく上空へと舞い上がっていった。


「あれじゃ届きません……」


 オルディナが見つめる先で、敵はぐるりと宙を旋回し、今度は猛スピードでこちらへと降下してくる。


「離れろ!」


 敵が突進してくるのを見たノーウィンが急ぎ皆に指示するが、相手のスピードがそれを上回っていた。

 両足を地面に突き出すと、勢いのまま低空飛行し、その巨体と飛び散らした石で一行に襲いかかってきた。


 空を舞いながら人面鳥が再び口を利く。


「死ンジャエ、死ンジャエ」


 もうもうと舞う砂塵の中、倒れていた一行はそれぞれ身を起こす。


「どうやらきっつい仕置きをしないといけないみたいだねえ」


 ガレシアは砂ぼこりを払うためぶんぶんと頭を振るうと、敵をにらみつけた。


「でもどうすれば……このままだと手が届きません……」


 オルディナが困った様子でガレシアを見るが、良い案が浮かばない彼女は考え込んでしまう。


「要はたたき落としゃ良いわけだ」


 その隣に歩み寄ってきたアクティーはにやりと笑っていた。


「何か方法があるのか?」

「まあな」


 ノーウィンが問うと、アクティーは皆を集めて作戦を伝える。


「合わせ技ってやつだ」

「なかなか強引だな」


 どこか楽しそうなアクティーを見て、ノーウィンは苦笑する。


「それアクティーさんは大丈夫なんですか……?」


 ローヴが心配するが、彼はウィンクしてみせるだけだった。


「良いだろう。やってみるとしよう」


 皆も悩んでいるようだったが、他に作戦はなさそうだ。

 ネヴィアの一言でうなずき合うと、それぞれ配置に付く。


 セルファがくるくると舞い始め、その左手は黄の輝きを帯び出す。

 相手の様子が変わったことに気づいた人面鳥は、空中を旋回すると再び突っ込んできた。


 敵がぎりぎりまで近づいてきたところで、ローヴとネヴィアが火炎球を放つ。

 2発の火炎球は、まっすぐ飛来してきた敵の顔に見事命中し、その動きをひるませた。

 続いてオルディナが杖を向け、魔法を放つ。


「トールメ!」


 敵の動きが遅くなったところへ、セルファの魔法が完成した。


「アースインパクト!」


 轟音を立てて、地面が大きく隆起する。

 そこへアクティーとガレシアが飛び乗った。


 ガレシアは手にしていた鞭を敵の足に引っかけると、後部にいるイブネスに声をかける。


「イブネス! 思い切りやりな!」


 合図を聞いたイブネスは敵に向けて手を伸ばした。


「アクアネット……!」


 水の中級魔法が発動し、大きな水の網が敵に降り注ぐ。

 その水圧でよろめきつつも、全身びしょ濡れになった敵は再び上空へ飛び立とうとする。


「アクティー!」

「よっしゃ」


 イブネスに名を呼ばれ、アクティーはすかさず敵の足に提げられた鞭に飛びついた。

 そしてそのまま上空へと飛んでいく。


「死ンジャエ、死ンジャエ」


 上空までやってくると、敵は足まで上ってこようとするアクティーを振り落とそうと暴れ出した。

 オルディナの魔法で動きが遅くなっているとはいえ、こんなところから落ちれば即死ものだ。


「落ちるのはてめえだっての」


 そう言って敵の足をがっしりとつかむと、瞳を閉じてすぐさま集中力を高める。

 精霊から力を与えられたばかりの風雲の証が煌々と輝き出す。


 地上では、暴れる敵にしがみついている彼の姿を仲間たちが見守っていた。


「アクティー……」


 小声で名前をつぶやくガレシアは不安な表情を浮かべている。


 敵がぶんぶんと暴れ回っているにもかかわらず、アクティーの集中力は途切れることがない。

 かっと目を見開くと、完成した魔法を解き放つ。


「食らえ……ブラステンペスト!」


 証がさらに強力な輝きを放ち、敵を囲むように強風を巻き起こし始めた。

 強風はやがて猛烈な竜巻へと変わる。対象を切り刻み、さらには轟雷が飛び交う。


 そしてあちこちから生じた雷が敵に落ちた。


 びしょ濡れの人面鳥は狙い通り感電し、全身を黒く焦がされる。

 羽ばたく力を失くした鳥は頭からまっすぐに地に落ち始めた。


 地面がぐんぐんと近づいてくる。


「頼むぜ、精霊様……!」


 普段しない神頼みをすると、証の力で自身の周囲に風を集め、タイミングを見計らって鞭から手を離した。


「来るぞ!」


 敵が墜落してくる様を確認したノーウィンがラウダの方を見やる。

 ラウダは返事こそしなかったが、敵の方を向いたまま剣を構え直した。


 激しい音と共に敵が落下、辺りに衝撃と砂ぼこりが発生する。

 もうもうと立ち上る砂ぼこりから敵に向かっていく2つの影。


「「はあああああっ!!!」」


 ノーウィンの槍が敵の体を刺し、ラウダの剣が敵の片首を斬り落とした。

 2人は武器を引き戻し、再度構えて様子をうかがうが、焦げた塊が動く気配はない。


 どうやら完全に沈黙したようだ。


 しばらくすると、辺りを舞っていた砂ぼこりが落ち着きを取り戻した。

 が、それと同時に、ごろんと転がり落ちている生首を見たオルディナとローヴが悲鳴を上げて、両手で顔を覆った。

 人間の頭が落ちているのとほぼ変わりないのだから無理もない。


「大丈夫か!?」


 悲鳴を聞いて駆け寄ってきたのはアクティーだ。


「アクティー! 無事だったんだね!」


 ガレシアが嬉しそうに声をかけるが、すぐにはっとなり、小さく咳払いをした。


「当然だろ? それより今のは」


 そんな彼女に笑いかけた後、何があったのか周囲を見回した――が、すぐに理解したようだ。困ったように首を左右に振った。


「うまくいったようね」


 セルファが声をかけてくる。


「セルファちゃんは平気なのな……」

「……ええ」


 最年少で少女である彼女が平然としていることにこれまた困り顔を浮かべるアクティーだったが、セルファはどこか寂しそうに言葉を返しただけだった。


「……見ろ」


 不意にイブネスが空を指差す。

 恐怖する2人を除いた皆が空を見上げると、集まっていた魔物たちが散り散りに飛んでいくのが見られた。


「逃げたのか?」


 それを見るノーウィンが怪訝(けげん)な顔を浮かべる。

 様子を見てみるが、戻ってくる気配はない。どうやらこのまま去ってくれるようだ。


「……今回の襲撃は分からないことが多い」


 イブネスが他の魔物の手応えのなさを思い出しながらそうつぶやくと、皆も同じように考え込む。


「あ、あの……」


 そこへ相変わらず顔を覆っているローヴが恐る恐る皆に声をかけてきた。

 何が言いたいのかすぐに察したアクティーが再び困り顔で落ちている生首を見やる。


「あー……これなあ……」


 このままでは2人がいつまでも目を開けられないばかりか、これから戻ってくるウルゥの民にも恐怖されてしまうだろう。


 どうしたものかと思い悩んでいると、突然斬られていない方の顔が口を開いた。


「良カッタ……良カッ……タ……」


 慌てて武器を構える一行だったが、その言葉を最期に、人面鳥もまた他の魔物のようにさらさらと風に散って消滅してしまった。


 落ちていた顔もまた小さく口を動かす。


「アリ……ガト……」


 そして同じくさらさらと消滅した。


「…………」


 あまりに突飛なことで、皆ただただ呆然とするばかり。

 しばらく誰も何も言えなかった。

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