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町から延びる白石の石畳の上を、誰も何も話さないままただただ歩き続けてたどり着いた港では、屈強な男たちが大きな荷物を手に、これまた大きな倉庫と船を忙しなく往来していた。
ここは町で加工された石の輸出、様々な土地の道具や食料の輸入を目的とした港であるため、ポート・ラザのように町の人間が暮らす住宅はない。あるのは大きな倉庫が数棟。
港の規模自体は小さいが、並ぶ船はいずれも立派な商船ばかりだ。
「アンタらだな、南東に渡りたいってやつらは」
南東の地へ渡航するための船を探していると、どこからともなくふらりと現れたロングパーマの男に声をかけられた。
一見チャラそうに見えなくもないが、どことなくただものでないオーラも漂わせている。
こちらが何かを言うよりも先にふっと笑った。
「なるほど、綺麗どころが勢ぞろいか。こいつは乗せがいがあるな」
――やはりチャラいだけかもしれない。
どことなく気に入らずアクティーがむっとした表情を見せると、男はくくっと笑った。
「そう怒るなよ、坊主」
「20過ぎた男に使う単語じゃねえぞ、それ」
「40過ぎた男からすりゃ坊主は坊主だろ?」
男はいくらかアクティーをからかった後、屈強な腕を組み、ようやく本題に入る。
「俺はシグオーン。アラガンの旦那に頼まれちまったからな。アンタらを客として俺の船に招待してやるよ」
彼はそう言うと、背を向けてすたすたと行ってしまった。
シグオーンの後を追って一行がたどり着いたのは、港の最奥。そこに停泊している船を見た一行は目を丸くすることになる。
「大きい船……」
オルディナが心奪われたように言葉を漏らした。
4本のマストと複数に分割された帆。それは間違いなくこの港に泊まっている中で一番巨大な帆船。
安定性と機能性を兼ね備えた船首楼。船尾楼には複数の扉と窓。外観からして部屋の数も多そうだ。
さらに側面にはずらりと一列に据え付けられた大砲。
案内されるまま船に乗り込むも、改めてその立派さに言葉が出ない。
「ようこそ。俺の愛船ブルードラグーン号へ」
そう言うと、シグオーンは優雅に一礼した。
「アンタ、何者だい?」
ガレシアが怪訝な顔でそう尋ねる。
彼自身の風貌もそうだが、どう考えても一介の人間が持つような船ではない。
「商人じゃねえのは間違いねえな」
船の至る所で作業をする多くの船員を見て、アクティーもまた怪訝な顔をしている。
これだけの人員を雇うのにも金がいるはずだ。
「商人ってのが何を指すのかにもよるが」
シグオーンはそう前置きをすると、腕を組んで話を続ける。
「人やら荷物やらの運搬。海の警備に魔物退治。金さえ出してもらえるなら何でもござれってな」
その話を聞いてガレシアはピンと来たようだ。
「アンタもしかして……」
「キャプテン!」
そこへ船員の一人がシグオーンに声をかけてきた。
「整備が完了しました!」
「おう。持ち場は?」
「全員待機中です!」
その言葉に満足そうにうなずくと、彼は改めて一行の方へと向き直る。
「さて。出航と行きたいが、準備はいいか?」
皆が顔を見合わせる。今さら引き返す理由もない。
「ああ、出してくれ」
ノーウィンがそう答えると、シグオーンは一行から視線を外し、ぐるりと船を見渡した。
「野郎ども! 出航だ!」
大声でそう告げると、すぐさま船に乗り込むためのブリッジが格納され、係船柱からロープが外される。
帆を大きく張った船は、あっという間に港を離れていく。
「速いな……」
定期便とは比べ物にならないほどの速度で進んでいく様にノーウィンがそう漏らすと、シグオーンがふっと笑った。
「そりゃ世界最速の船だからな。5日もありゃ目的地に着く」
「5日? 地図を見る限り相当な距離があるぞ」
「この船には魔術が組み込んであってな。風魔法と水魔法を応用してるとかなんとか。詳しくは知らないが」
「愛船なのに適当だな、おい」
ノーウィンの疑問に対して自慢気に語るものの、その適当さにアクティーが呆れる。
一方で魔術と聞いて、オルディナが目を輝かせた。
「お、興味あるのか? それじゃ後でこの船専属の魔法使を紹介してやるよ」
その様子に気が付いたシグオーンがそう言うと、彼女は満面の笑みで礼を言う。
ここに至るまでの暗い雰囲気を脱しつつある一行だったが、ラウダは相変わらず暗い表情で遠くを見つめていた。
そしてローヴもまたそんな彼を不安気な表情で見つめているのだった。