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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第23話 勇者の消失
131/196

23‐5

 ノーウィンはライオンのぬいぐるみと激戦を繰り広げていた。


 愛らしい表情とは裏腹に、こちらを確実に仕留めようと、爪と牙による攻撃を繰り出してくるライオン。

 それを槍で防ぎ、敵のフェルト生地に穴を開けていくノーウィンは、致命的な怪我こそ負っていないものの、すでに額や腕から血を流している。


 正直なところ、彼は勝機を見出せずにいた。


 何せ敵の表情は変わらないし、開けた穴からは血ではなく綿が飛び出している状態。

 果たして本当にダメージが通っているのだろうか。


 だが、自分が倒れるわけにはいかないという強い気持ちが彼を突き動かしていた。


 ここで倒れてしまったら、次に狙われるのは間違いなく背後にいるローヴだ。

 そのローヴはといえば、愕然とした表情のまま微動だにしない。


 ティルアの存在。ラウダの告白。


 一度に多くのことがありすぎて、彼女の頭は未だに混乱していた。

 ただ頭の片隅で、自分はラウダの元へ行かなければならず、彼を止める必要があるということは理解していた。


 ローヴは頭をぶんぶんと左右に振ると、目を閉じて大きく深呼吸をする。

 続いてぱんぱんと二度、自身の両頬をたたくと、目を開けて、剣を構え直して。勢いよく駆け出した。


 ローヴがまっすぐに走ってくることを確認したノーウィンは、彼女が抜けられるようにと、その場から横に跳躍。それを逃すまいと振るってきた爪の間に槍を引っかけた。

 強い力で振り下ろそうと震える爪と、それを防ごうと力が込められた槍とが、がちがちと音を立てる。


「行け、ローヴ!」


 止まることなく一直線に駆け続ける少女に向けて、ノーウィンが必死に叫んだ。


 ローヴの視線の先では、ティルアがラウダに優しい笑みを浮かべていた。


「さあラウダ。連れてってあげる。終わりのない、永遠の地獄へと」


 そうはさせまいと、ローヴは駆けながら剣を構える。

 しかし、ティルアはそんな彼女ににたりと歪んだ笑みを向けた。


 直後、ローヴの前にドスンと大きな箱が落ちてきた。もうもうと砂煙が上がる。

 赤地に金縁の箱の登場で、ローヴの勢いは止められてしまった。


 砂煙から目をかばうために上げていた腕の隙間から様子をうかがうと、箱がかぱっと口を開けた。

 内側から白い手がにゅっと飛び出す。そして箱を勢いよく開け放つと、中から巨大なピエロが登場した。


 丸い赤鼻に白塗りの顔。水玉模様の白い服。首周りにはひらひらの襟。上半身だけ箱から出たピエロは、先ほどのティルア同様に歪んだ笑みでローヴを見下ろす。


「邪魔しないでっ!」


 こんなのを相手にしている間にラウダは。


 ローヴは何とかその箱を迂回しようと考えるが、彼女が行動するよりも先にピエロが人差し指をくるくると回し始めた。

 その指がぴたっと止まった瞬間、ごおっと音を立て、広間の左端から右端まで炎が走る。

 炎はすぐさま立ち上り、ラウダと仲間たちを分断する壁となった。


 これでは彼の元へと行けない。

 焦るローヴの目に、ラウダの背中が映る。


「ラウダ待って!」


 祭壇へ歩を進めるその背に叫ぶが、彼が歩みを止める様子はない。


「行っちゃダメ!ラウダ!」


 熱風が顔を照り付ける。だが、今のローヴはそれに構っている暇さえない。

 腕で顔をかばいながらも、ただ必死に幼なじみの名を叫ぶ。

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