23‐3
「ラウダさん! もう止めて! 目を覚ましてください!」
ラウダに向けてオルディナが必死に呼びかける。
「昔の幼なじみだか何だか知らないけど、どうせ魔物が化けて、魔法で操ってるんだろ!」
ガレシアは腰にさげた鞭を手にすると、威嚇するように勢いよく地をたたきつけた。
「彼は必要な存在なの。返してもらうわ」
同じくセルファも両手に短刀を構えると、だっと駆け出した。
「ティルアは7年前に事故で死んだんだよ!? そこにいるのはティルアじゃない!」
ローヴが祈るように手を組み、叫ぶ。
「違う……違う違う違う違う違う」
しかしラウダはそれを否定し、両耳を塞いだ。
「ティルアは死んだんじゃない……ティルアは」
そこまで言うと、ラウダの手にした剣からごおっと黒いオーラが吹き出し、ティルアの方へと向かう仲間たちへと襲いかかった。
「くっ」
黒い強風が吹き荒び、皆が後方へと吹き飛ばされてしまう。
怪我こそないものの、ずしりとした負のオーラが一行にまとわりつく。
まるで地獄の底から響いてくるような、いくつもの甲高い奇声を鳴らすと、ラウダが手にしていた剣は消失した。
不意にその場がしんと静まり返る。
まとわりついていたオーラを何とか振り払った仲間たちを見やるラウダは、笑っているような悲しんでいるような、どちらとも取れる表情をしていた。
「ティルアは僕が殺したんだ」
不気味に静まり返った広間に、彼の声が重く静かに響いた。
「…………え?」
耳を、疑った。
ラウダが何を口走ったのか理解できず、ローヴは硬直した。
「だから僕は願っていたんだ。重罪人である僕をいつかティルアが罰してくれることを。あの時僕がしたみたいに、地獄の底へと突き落としてくれることを」
いつも一緒にいた幼なじみ。
ふざけ合ったり、笑ったり、呆れたり。
「天使のような彼女を殺した僕は、終わらない煉獄の炎に焼かれ続けるんだ」
芝居を完璧にこなす彼。
時々寂しそうな表情を浮かべる彼。
「それが、僕の望みなんだ」
何も言えないローヴに対して、少年はこれまで一度も見たことのない至福の笑みを見せた。
「だから」
ラウダがくるりと後ろを振り返った。
「ティルア。僕を連れて行って」
祭壇に立つ少女もまた優しくにこやかに微笑みかける。
「……行かせない」
そんな中、セルファがゆっくりと立ち上がり、再び武器を構えようとしていた。
「……彼は、私が」
「あなた本気で自分がルナだと思ってるのね。おめでたい人」
くすくすと笑うティルアにそう言われ、セルファの動きが止まった。
「なん、ですって?」
「古臭い風習に縛られて。でも縛られていることにさえ気づかない愚か者だって言ったのよ」
セルファの体が小刻みに震える。
しかしティルアはそれさえもお構いなしで、笑みを浮かべたまま話を続ける。
「みんなそう。生ある者たちはみんな何かに縛られていることに気づいていない。私は、私たちは、そんな束縛から解放された特別な存在なのよ」
「ああああっ!!!」
セルファは虚空に向けて絶叫すると、勢いよく駆け出した。
「セルファ!」
相棒が名を呼ぶが、今の彼女にその声は届かない。
「てめえの事情は知らねえが……」
アクティーもまたゆっくりと立ち上がると、剣で思い切り空を切る。
「ラウダは殴ってでも連れ帰る!」
その隣ではイブネスが剣を構え直していた。
そんな彼らを見て、ティルアは先ほどまでの笑みはどこへ行ったのか、やれやれと呆れた顔を浮かべる。