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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第23話 勇者の消失
129/196

23‐3

「ラウダさん! もう止めて! 目を覚ましてください!」


 ラウダに向けてオルディナが必死に呼びかける。


「昔の幼なじみだか何だか知らないけど、どうせ魔物が化けて、魔法で操ってるんだろ!」


 ガレシアは腰にさげた鞭を手にすると、威嚇するように勢いよく地をたたきつけた。


「彼は必要な存在なの。返してもらうわ」


 同じくセルファも両手に短刀を構えると、だっと駆け出した。


「ティルアは7年前に事故で死んだんだよ!? そこにいるのはティルアじゃない!」


 ローヴが祈るように手を組み、叫ぶ。


「違う……違う違う違う違う違う」


 しかしラウダはそれを否定し、両耳を塞いだ。


「ティルアは死んだんじゃない……ティルアは」


 そこまで言うと、ラウダの手にした剣からごおっと黒いオーラが吹き出し、ティルアの方へと向かう仲間たちへと襲いかかった。


「くっ」


 黒い強風が吹き荒び、皆が後方へと吹き飛ばされてしまう。

 怪我こそないものの、ずしりとした負のオーラが一行にまとわりつく。


 まるで地獄の底から響いてくるような、いくつもの甲高い奇声を鳴らすと、ラウダが手にしていた剣は消失した。


 不意にその場がしんと静まり返る。


 まとわりついていたオーラを何とか振り払った仲間たちを見やるラウダは、笑っているような悲しんでいるような、どちらとも取れる表情をしていた。


「ティルアは僕が殺したんだ」


 不気味に静まり返った広間に、彼の声が重く静かに響いた。


「…………え?」


 耳を、疑った。

 ラウダが何を口走ったのか理解できず、ローヴは硬直した。


「だから僕は願っていたんだ。重罪人である僕をいつかティルアが罰してくれることを。あの時僕がしたみたいに、地獄の底へと突き落としてくれることを」


 いつも一緒にいた幼なじみ。

 ふざけ合ったり、笑ったり、呆れたり。


「天使のような彼女を殺した僕は、終わらない煉獄の炎に焼かれ続けるんだ」


 芝居を完璧にこなす彼。

 時々寂しそうな表情を浮かべる彼。


「それが、僕の望みなんだ」


 何も言えないローヴに対して、少年はこれまで一度も見たことのない至福の笑みを見せた。


「だから」


 ラウダがくるりと後ろを振り返った。


「ティルア。僕を連れて行って」


 祭壇に立つ少女もまた優しくにこやかに微笑みかける。


「……行かせない」


 そんな中、セルファがゆっくりと立ち上がり、再び武器を構えようとしていた。


「……彼は、私が」

「あなた本気で自分がルナだと思ってるのね。おめでたい人」


 くすくすと笑うティルアにそう言われ、セルファの動きが止まった。


「なん、ですって?」

「古臭い風習に縛られて。でも縛られていることにさえ気づかない愚か者だって言ったのよ」


 セルファの体が小刻みに震える。

 しかしティルアはそれさえもお構いなしで、笑みを浮かべたまま話を続ける。


「みんなそう。生ある者たちはみんな何かに縛られていることに気づいていない。私は、私たちは、そんな束縛から解放された特別な存在なのよ」

「ああああっ!!!」


 セルファは虚空に向けて絶叫すると、勢いよく駆け出した。


「セルファ!」


 相棒が名を呼ぶが、今の彼女にその声は届かない。


「てめえの事情は知らねえが……」


 アクティーもまたゆっくりと立ち上がると、剣で思い切り空を切る。


「ラウダは殴ってでも連れ帰る!」


 その隣ではイブネスが剣を構え直していた。

 そんな彼らを見て、ティルアは先ほどまでの笑みはどこへ行ったのか、やれやれと呆れた顔を浮かべる。

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