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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第23話 勇者の消失
127/196

23‐1

 一行は村を飛び出し、北西へと向かって全力で疾走していた。


『北西の塔へ向かえ』


 本来ならば敵の言葉などに従うべきではないのかもしれない。しかし、相手の口ぶりから察するにラウダの身に危機が迫っている。今はとにかく黒騎士の残した言葉を頼りに、先を急ぐのみだった。


 デトルト大陸からレンガ造りの橋を渡り、小大陸へとたどり着く。


「あれだ!」


 ノーウィンが指差した先に、白い塔が立っていた。

 スピードを落とすことなくそのまま駆け抜けようとする一行の前に、空中から紫の小さな魔物が2匹現れた。

 蝙蝠のような羽に2本の角、三つ又の槍を持つそれは、おとぎ話に出てくる悪魔のようだった。


 ケラケラと笑いながら通せんぼをする相手に苛立ちを覚え、ノーウィンは槍を手にする。


「邪魔だ!」


 力強く地を踏みしめ、素早い突きを繰り出すが、相手はひらりとかわしてしまった。

 同じくセルファとアクティーも素早く武器を手にして攻撃するが、やはりかわされてしまう。

 余裕ぶる敵はケラケラと笑いつつ、槍を目の前でくるくると回し、マナを集め出す。


「トールメ!」


 オルディナが杖を相手に向けると、敵の動きが遅くなる。

 しかしそれとほぼ同時に、敵が槍をこちらに突き出した。

 槍から黒い小球が複数飛び出す。球は一行に触れると、勢いよくぱあんと弾けた。


 闇の全体魔法カオス。初級とはいえ、火に焼かれたような、電気で痺れたような痛みを受け、威力はなかなかのもの。

 だが、闇魔法の真に恐ろしいところは――その副作用だ。


「うう……ああっ……」


 ラウダ失踪の件で元々気持ちが弱まっていたローヴが地面にうずくまり、あえぐ。

 状態異常、絶望。

 人の抱える闇や弱さを膨張させて一切の希望を奪う。そのまま放置すれば死に至ることもあるという。


「ううっ、厄介だねえ……」


 同じく状態異常に侵されたガレシアは何とか強がるが、地にひざをつき、絶望に陥りかけていた。

 その様を面白おかしく笑う2匹だったが――


「アイシクル」


 後方から飛んできた氷魔法と氷弾によって瞬時に全身が凍り付き、そのままぼとりと地に落ちた。

 笑い顔のまま凍り付いている小悪魔を憐れむことなく、ノーウィンとアクティーが粉砕する。

 敵が倒れたことを確認したイブネスは突き出していた右手を、ネヴィアは銃を下ろした。


 オルディナがその場にしゃがみ込み、杖に祈りを捧ぐ。


「サナーレ」


 彼女を中心にふわりと柔らかい風が吹いた。


「大丈夫ですか?」

「今のは……」

「状態異常の回復魔法です。ただ、絶望の状態異常は個々の心の持ちようによって変わります。もしかしたらしばらく気持ちが不安定な状態が続くかもしれません」


 心配そうな表情を浮かべるオルディナに対し、ローヴは首を横に振るとすっと立ち上がった。


「大丈夫。おかげで随分気持ちが軽くなったよ」


 そう言って笑うローヴだが、今一番辛い思いをしているのは彼女だ。

 そんな彼女のためにも先を急がねばならない。


「走れるか?」


 ノーウィンが声をかけると、ローヴは力強くうなずいた。


「ガレシア」


 ひざをついているガレシアにアクティーが手を差し出すが、彼女はそれを頼らずに自力で立ち上がり、駆け出した。

 アクティーはやれやれと首を振ったが、すぐに塔へ向けて走り始めた。


 *     *     *


 塔を目前にした森の中でも度々魔物に襲われるが、大した数でもなければ、脅威にならないものばかり。

 それらを蹴散らすと、一行はようやく塔の前にたどり着くのだった。


 しかし――実に静かである。


 一見すれば普通の森なのだが、鳥の鳴き声一つ聞こえない。風も感じない。


 次に塔を見る。

 何の素材でできているのか、かなり頑丈そうな白塗り。

 いつから立っているものなのか。あちこちにツタが絡みついてはいるものの、特に崩れそうな様子もない。


 果たして本当にこんなところにラウダがいるのだろうか。


 自分たちは騙されたのではないだろうか。

 半信半疑のままノーウィンが両開きの扉を開けた。

 少し重いそれはギギっと音を立てる。


 そうして内部に足を踏み入れはしたが、やはり静かだ。


 一行は武器を手にすると、ノーウィンを先頭に、慎重に階段を上っていく。

 しかし長い長い階段を上りきっても何も起こらなかった。


 怪訝な顔を見合わせる。

 怪しすぎる、と。


 自分たちはずぶずぶと敵の罠にはまり込みつつあるのではないだろうか。


 しかしここまで来て今さら帰るわけにもいかない。

 何よりまだラウダが見つかっていないのだ。


 ノーウィンは側にあった扉を開ける。


 外に出た。

 先ほどまでなかった風が彼らを出迎える。いや、それとも拒んでいるのだろうか。


 上層へと続く緩斜面を行くと、またしても扉。


 一行は再び顔を見合わせる。

 セルファとアクティーが首を横に振る。何の気配も感じないらしい。


 ノーウィンは少々悩んだが、思い切って開けた。

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