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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第22話 ブレイクタイム
125/196

22‐4

 昨日のことがあったため、事前に料理の量を減らしてほしいとお願いした一行は、適量の料理を食べ終わると、老婆1人では大変だろうと、汚れた食器を厨房へと運び、洗い物まで済ませる。


 そうして綺麗になった机に全員が集まった。

 その間ローヴは1人元気がなく、ラウダに関しては宿にさえいなかった。


 沈黙。


 どこか様子のおかしかったラウダと、今なお元気のないローヴ。

 明らかに何かあったのだろうと思い、心配する一行だったが、その重い空気に誰も口を開かない。


「……ローヴ、何かあったのか?」


 口火を切ったのはノーウィンだった。

 優しく微笑むが、彼女はうつむいたまま顔を上げない。


「ラウダがあちこち走り回ってたみたいだけど……それと関係あるのかい?」


 ガレシアが心配そうに顔をのぞき込むが、やはり反応はない。


 再び沈黙が訪れる。


「桃色の髪の女の子」


 その言葉にローヴの肩がびくりと反応した。

 発言したのは意外なことにオルディナだった。


「って誰ですか?」


 皆がローヴの方を向く。しかし彼女は何も話さない。


「何のことだい?」


 ガレシアがオルディナに問うも、彼女は首を横に振った。


「分かりません。でもラウダさんがローヴさんに聞いていたんです。白いワンピースを着た桃色の髪の女の子を見なかったかって」

「この辺りの子か?」


 ノーウィンがそう尋ねるも、オルディナはまたしても首を横に振る。


「わたしも最初そう思ったんですけど……」

「こんなド田舎にそんな子がいるとでも?」


 アクティーにそう言われ、ノーウィンが黙る。すると。


「……ラウダの」


 ローヴが目を閉じ、何かを思い出すように話し始めた。


「ラウダの幼なじみです。桃色の髪でサファイアのような瞳、白く雪のような肌をした……みんなにお人形みたいだって言われてました」

「ということはローヴの幼なじみでもあるわけか」


 ノーウィンがそう言うと、彼女はふるふると首を横に振った。


「顔見知り、程度です。その子は――ティルア・リウィウスは、ボクなんかよりもっとずっと昔からラウダと付き合いのある女の子だったんです」

「でもどうしてその女の子がここに? ラウダさんとローヴさんの出身地に住んでいるなら、この世界には――」


 オルディナが不思議そうにそう尋ねると、ローヴはゆっくりと目を開いた。


「ボクたちの世界にも、この世界にも、彼女がいるはずないんです。だってあの子は、7年前に死んでしまったから……」


 思わずオルディナが両手で口をふさぐ。聞いてはいけないことを言ってしまったような気がして。

 しかしローヴは構わず続ける。


「彼女が10歳の時、ラウダと他の友達と禁断の地って呼ばれてる場所に行ったらしくて。そこは普段から大人たちに絶対に近づくなって言われている場所なんですけど、肝試しに行ったらしいんです。でもその日、彼女は帰ってこなかった」


 誰もがローヴの話に耳を傾け、口を開かない。


「ボク、当時は母さんにべったりで友達がいなかったんです。だからその時のことも後で耳にしただけなんですけど、彼女は崖から落ちて亡くなったそうで。深くて人が下りられるような場所じゃないから、未だに遺体は見つかってないですけど」

「…………」

「ボクたちがこの世界に来ることになったのも、彼女の7回忌として禁断の地にお参りしていたからでした」

「最期一緒にいたってんならラウダは何か知ってるんじゃないのか?」


 アクティーがそう問うたが、ローヴは首を横に振った。


「分かりません。詳しいことを聞きたいけど、聞くに聞けなくて……」


 死んだ人のことを根掘り葉掘り聞けるほど、図太い性格はしていない。

 向こうから語ってくれない限り、詳細を知ることはなかなかできないだろう。


「でもラウダさん、どうしてそんな女の子がここにいるだなんて……」

「霊か幻か、何か魔法の類かもしれないな」


 オルディナが悲しそうにそう言うと、ネヴィアがそれに答えるよう発言した。


「魔法? 誰が?」

「ラウダの命を狙っている奴がいただろう」


 ローヴの戸惑いに、ネヴィアが淡々と答えると、セルファの目が鋭いものになった。

 どうやらネヴィアは例の自称暗殺者の仕業と考えているようだ。


「あいつがそんな器用なことできるとは思えねえけどな」


 以前からこちらにちょっかいをかけてくる、ザジと名乗った自称暗殺者。

 だが、彼のどこか抜けた戦い方や作戦を見る限り、そこまで大層な魔法を使いこなせるとは思えなかった。


 呆れ顔のアクティーをイブネスが見やる。


「……そういえば“風”はどうだ」


 彼が証の力でラウダの様子を探っていたことを知ると、皆がアクティーの方を向いた。


「あー……それが、森に入ってったきり出てこねえんだよな」

「……それは本当なのね?」


 セルファが厳しい目つきで問い質すと、アクティーはこくこくとうなずく。


「最初はしばらく縦横無尽にあちこち走り回ってたみたいだが、森に入ってから出てくる様子がねえ」


 それを聞いたオルディナが心配そうに目を伏せる。


「大丈夫でしょうか……」

「……一応この辺りに魔物は潜んでいないようだけど」


 どうやら事前に調べていたらしい、セルファが答えた。


「とりあえず」


 ノーウィンが皆の視線を集める。


「明日は出立の日だ。それはラウダも分かっているはずだし、俺たちは宿で体を休めておくことにしよう」

「ま、あんだけ走り回ってんだ。朝になったらいつも通りベッドにぶっ倒れてたりしてな」


 気楽そうにそう言うアクティーだが、どうやらローヴを安心させるためでもあったらしい。

 彼女と視線が合うと、小さくウィンクした。

 そこでようやくローヴは小さく笑んだ。


「そうですね……」


 これだけの人がラウダの身を案じてくれているのだ。

 自分は少々心配しすぎなのかもしれない。


 やがてそれぞれ部屋に戻っていくが、最後尾を歩いていたノーウィンだけはその場に立ち止まり、くるりと踵を返すと宿の入り口に向かって歩き出す。


「おっと、抜け駆けはなしだぜ?」


 その背に声をかけたのはアクティーだった。


「ローヴちゃんに良いとこ見せるつもりだろうが、そうはさせねえからな」

「そういうつもりじゃないんだがな」


 そう言って笑うノーウィンに構うことなく、アクティーは先ほどまで座っていた椅子に再度どかっと腰かける。


「風読みは俺の仕事だ。何かあったら起こすからお前は寝とけ」


 ノーウィンは少し悩んだようだが、すぐにこくりとうなずいた。


「分かった。頼む」


 任せとけとアクティーが手をひらひらと振るのを確認して、ノーウィンは部屋に戻っていった。

 部屋のドアが閉まったことを見ると、アクティーは目を閉じる。


「……面倒ごとにならなきゃいいんだがな」


 そして机に肘をつき、誰に言うでもなくぼそりとつぶやいた。

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