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ボクたちのてのひら【旧版】  作者: 雨露りんご
第22話 ブレイクタイム
122/196

22‐1

 カルカラから北へ歩くこと半日。夕方にはハルフへ到着することができた。


 晴れ渡る空。そよ風に揺れる草原。

 見晴らしの良い道中は至って平和なもので、とても脅威が迫っているとは思えない、見事なピクニック日和だった。


 ハルフに到着すると、ノーウィンがそれまで張っていた気を緩め、大きく息を吐き出す。

 その表情はどこか不安げだ。


「ひとまず魔物に出くわさずに済んで良かったが……」

「ここまで何もないと逆に警戒しちまうな」


 賛同したのはアクティーである。

 相変わらず漫然とした態度で歩いていたが、一応警戒は怠らずにいたらしい。

 ちらりと後ろを振り返り、女性陣が楽しそうに会話を行っているのを見て、満足そうに笑う。

 が、正面に向き直ると、それはすぐさま呆れたものに変わった。


「しっかしいつ来ても本当何もねえな、ここは」


 その文句に対して、そうだろうと肯定したのか、うるせいやいと批判したのか。まるで返答するようなタイミングでモーと牛の鳴き声が辺りに響いた。


 とはいえ、辺りは一面田んぼ田んぼ田んぼ。

 何を育てているのかは分からないが、短く青々とした草が等間隔で植えられており、その間をカモが泳いでいる。


 あぜ道を通って村の敷地内に入ると、野放しにされているニワトリが数羽。ぞろぞろと入ってきた来訪者に驚き、わっと散っていった。


 建物の数は全部で5軒。

 築何年経っているのだろうか。いずれも木造でぼろぼろである。


 リースの村も大概田舎だと思っていたが、田舎度合いで言えばこちらの方がずっと上だ。

 一応宿もあるにはあるが、ボロボロに擦れた宿の看板が風に揺れてキィキィと音を立てていなければ気付けなかったかもしれない。


 さっそく中に入ってみると、受付では椅子に腰かけた老婆がうつらうつらとうたた寝をしていた。


「婆さん、起きてくれ」


 ノーウィンがそう声をかけるが、老婆が目覚める気配はない。

 続けて何度か声をかけてはみるのだが、やはり起きそうにない。


「よっぽど暇なんだな」

「耳が悪いだけかもしれませんよ?」


 呆れた様子のアクティーにローヴはそう言うと、ずいと前に出た。

 少しでも大きくはきはきとした声を出すため、彼女はすうっと大きく息を吸う。


「起きてくださあいっ!」


 腹から思い切り声を出して呼びかけた結果、老婆はびくりと椅子から跳ね起きた。


「にゃ、にゃんだい!?」


 回らないろれつでそう叫んだ後、数の多い一行の姿に目を丸くする。


「ご、強盗っ!!!」

「違えっつの」


 半ば混乱気味の老婆の発した言葉にアクティーが冷静にツッコむと同時に、オルディナがひょこっと前に出た。


「あの、宿をお借りしたいんです。良いですか?」


 オルディナの穏やかな問いかけに、丸くしていた目を瞬かせると、老婆は改めて一行を見渡した。


「……おんやまあ! あんたたち客かいな!」

「ああ。この人数だが、泊めてもらえないか?」


 ノーウィンが落ち着いた様子でそう問うと、こくこくと首を縦に振った。


「もちろん、ええともさあねえ。部屋ぁ2つしかないけんどもええかいねえ?」


 訛りの入った言葉でそう話すと、彼女は部屋のある方を指差した。


「はい! ありがとうございます!」


 オルディナが明るく微笑むと、老婆もまたにこやかに微笑み返した。


「腹ぁ減ったらここおいで。美味いもん、たぁんと用意するからねぇ」


 老婆のしわくちゃの手から鍵を受け取ると、いつものように男女で分かれて部屋に入る。


 内心、部屋が汚らしく古臭い臭いがするかも――と覚悟していたが、意外なことに内装は綺麗に整頓されていた。

 寝具は真っ白、カーテンも綺麗に洗濯してある。丸テーブルや椅子は削れたり、塗装が剥げたりしてはいるが、決して使えないわけではない。

 移動するたび床がきしむのが少々気になるが、これだけなら問題なく過ごせそうだ。


 女性陣がそれぞれ荷物を置いて、伸びをしたり、部屋の様子を見ている中、オルディナがふうと息をついて少々硬いベッドに腰かけた。


「大丈夫? 疲れた?」


 ローヴがそう問うと、オルディナは慌てて首を横に振った。


「ちょっとだけなので大丈夫です」

「ちょっとだけ、ねえ。泣いてたから余計に疲れたんじゃないかい?」


 ガレシアがそう言って笑うと、オルディナは恥ずかしそうにうつむいた。


 彼女が泣いていたのは、断じて自分が痛い思いをしたからとか悲しい思いをしたからとかではない。

 カルカラの街を去る際のローヴとポーリーヌのやり取りですっかりもらい泣きしてしまい、道中1人でぼろぼろ泣いていたというだけの話である。


「あはは、ボクよりずっと泣いてたもんね」

「あうー……」


 ローヴにまで笑われてしまい、彼女はすっかり縮こまってしまった。


「でも、ボクとしてはガレシアさんの方が心配です」

「アタシ?」


 唐突に話題が自分に向けられ、彼女は不思議そうに人差し指で自身を指した。


「だって公演を終えて宿に戻ったら元気なさそうだったから」


 ローヴがそう言うと、オルディナもこくこくと同意する。


「ラウダさんとローヴさんがいない間からずっと元気ありませんでしたよね」


 心配そうな表情を見せる2人だったが、ガレシアはそれを笑い飛ばした。


「ちょっと考え事してただけさね。今はもう大丈夫だから気にしないどくれ」


 笑顔でそうは言うものの、どことなく立ち入るなというオーラを出しているように感じた2人は、心配そうな顔を見合わせることしかできないのであった。

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