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昔々の物語

シンデレラ

作者: 昭如春香

昔々の物語。


あるところにシンデレラという少女がおりました。


優しい両親に、裕福なお家に、小鳥やリスといった森の友達もたくさんいて、シンデレラは幸せに暮らしておりました。


しかし幸せは長く続かなかったのです。


シンデレラの母君が病を得て、治療虚しくも死んでしまいました。


母君の死にシンデレラもシンデレラの父君も嘆き悲しみました。


それから数年後、父君は別の女性と再婚しました。


妻を喪い一人でいることに耐えられなかったのか。


はたまた以前より付き合いがあったのか。


それともシンデレラの事を思ってか。


本当の所をシンデレラは知りませんが、新しく三人の家族が増える事に嬉しく思っておりました。


むかえた継母には二人の娘がいます。


シンデレラとそう歳が離れている訳ではないので、是非仲良くなりたいと思っていました。


しかし、思っていたのは全くもって違う生活でした。



「……姉さん」


「ひっ、あ、アタシの前に現れないでよね!」


「ひぅ、怖いよ〜姉様」


「…………」


「こここら!あたくしの娘達を睨むのではありません!!」


「……睨んではおりませんが」



シンデレラは継母とその娘達と友好な関係を築けないでおりました。


それも仕方がありません。


シンデレラは、某世紀末の神拳使い並に覇者な雰囲気と言いますか、オーラといいますか、を放っていたのです。


顔の造形は母君に似た愛らしい物なのに、歴戦の戦士顔負けの殺気を放っていたのです。


普通の一般的な女性がそんな気配に脅かされたことがあるでしょうか。


いいえ、ありません。


継母もいびり倒して、この家の資産を奪おうと思っていましたが、シンデレラの存在に萎縮してしまいました。


義理の姉達も虐めようと思っておりましたが、虚勢もままならない状態です。


よっぽど愚かでない限り、ネズミがライオンに突っかかったりはしないのです。


心優しい娘なのですが、そういう訳でシンデレラには人間の友達が居なかったのです。


え?


なぜ動物の友達ができたのでしょうか、ですか。


答えは簡単です。


森の動物達はその覇気に平伏して、降伏していたのです。


正確には部下もしくは家来であって、よって友達という認識はシンデレラの一方的なものでした。


母君の遺品も奪われる事なく、また継母や義理の姉達に虐められることもなく、健やかにシンデレラは育ちました。






シンデレラが齢十六を迎えた頃です。


王家主催の舞踏会が開かれる事となりました。


なんでもこの度成人する王子のお披露目で、舞踏会で王子の婚約者を探すというのです。


そのために年頃の娘がいる貴族や豪商の家に王家からの招待状が届けられました。


勿論、シンデレラの家もです。



「……父様」


「ん?恥ずかしいのかい?でも王命だから出席してくれないかな」


「………………わかった」



こうしてシンデレラも舞踏会に行く事になりました。


シンデレラの家は大急ぎで舞踏会の準備を整えていきました。


義理の姉達や継母の妨害などなく、普通にシンデレラは馬車に家族と共に乗り込みました。


え?


魔法使いはですか?


『奇跡も魔法もないんだよ』と言っておきましょう。


豪華絢爛たる王宮にびっくりしつつ、舞踏会の会場へと足を運びました。


沢山の年頃の少女達に、その親族や王子の相手に選ばれなかった少女達を目当てに来た青年やコネクションを作りに来た商人でごった返しています。


会場から見上げる位置に王家の方々が集まっていました。


三人の姫を産んでからの末の王子に誰もが興味津々です。



「え?お義父様、彼が___?」


「うむ、そうだよ」



義理の姉の一人が父に王子を確認しました。


何と云う事でしょう、王子は___。



((((女より可憐て……)))))



とてつもなく、可愛らしかったのです。


淡い金髪は癖がなく、しなやかな身体は華奢です。


微笑めば、男なら誰もが振り向かずにはいられません。


国の宝石と唄われた王妃様よりも、国の薔薇と唄われた姉姫方よりも、その王子様は可愛らしかったのです。


そう、男の娘おとこのこです。


なんで余分な物がついているんだ、と舞踏会に参加している男性が口々に呟いています。


きっと女の子だったら傾国の美少女になったことでしょう。


舞踏会に参加した少女にとっては堪った物じゃありません。


自分よりも遥かに女子力が上の夫なんて遠慮したいに決まっています。



「あ〜、アタシが王子様と踊るなんて恐れ多いわ〜」


「えぇ、妻より可憐な夫なんてごめんです」


「…………(可愛いけど夫婦はちょっと)」



シンデレラの家の年頃の娘達も例に漏れず、こんな反応でした。


それに慌てたのは継母です。



「ちょwww私の娘、もっと頑張りなさい!」


「お母様だって、自分よりも美しいくて可憐な夫って嫌だと思いませんか?」


「い、良い生活ができますよ!」


「でもお母様、他国とか国民に顔見せを考えて下さい。可憐で美人な夫である王子よりも地味な奥さん……変に誤解されそうですよね」


「あ〜、爵位でゴリ押ししたとか、罰ゲーム的に押し付けられた的な?」


「…………」



継母は歯に衣着せぬ物云いの実の娘達に言葉がでません。


しかし継母もシンデレラの義理の姉達の反論も分からぬわけではありません。


自分の立場に当てはまったら、確かに嫌です。


こそこそと声を落として説得していおりますが、段々と声が大きくなっていったので、傍目から見れば随分と目立っています。


不敬罪にカウントされないといいですね。



「あー、もう少し声を落としてくれないか」


「貴方、うるさい!」


「「義父様、うるさいです!」」


「……父様ファイト」



家族構成で女性の人数が多い家族は大抵は女性の力の方が強くなりますね。


正論なはずなのに怒られた父君はしょんぼりしております。


ドンマイです。



「きゃーー!?」


「何んだ!!!」


「ひっ」



なんということでしょう、王子が筋肉ムキムキでやたらめったら強そうな暴漢に襲いかかられていたのです!


舞踏会は騒然となり、貴婦人が甲高い声で叫び、老紳士が鋭く声を荒げます。


あちらこちらでパニックとなっています。



「ちくしょーーー!!男のくせになんて可愛いんだッ!!!理想が王子みたいな女の子なんて居なかったじゃねーかこのやろう!!!!おかげすっかり嫁が居ないじゃねぇかこのやろう!!!」


「ひっ、僕はほとんど関係ないじゃないですかっ」


「だからどうしたこのやろう!!責任とって掘らせろこのやろう!!!」


「結局、身体狙い!?!?」



暴漢が難癖をつけながら王子に襲いかかります。


王子は紙一重で暴漢の手を逃れながら逃げ惑っています。


にしても暴漢の台詞は『このやろう』『このやろう』と五月蝿いですね、このやろう。


パニックになっている招待客達のせいで、近衛兵が王子を助けにいけません。


その時です。


ド  ン


王子は招待客の一人にぶつかり、転んでしまったのです。


絶体絶命です。



「ふははは、追いついたぞこのやろう!!王子」


「っーーーー!!」



王子は身体をびくりとさせました。


少女のように華奢な身体をしている王子は、その外見のように体力がありません。


物語の雰囲気をぶち壊していうならば、もやしです。


でもシャキシャキとしていて美味しいですよね。


閑話休題。


襲いかかろうとした暴漢(マッチョ)。


身を強張らせるしかもうできない王子(男の娘)。


固唾を呑んで見守ることしかできない群衆(腐女子含む)。


目頭を押さえている王(諦め半分偏頭痛持ち)と王女(もう、どうにでもな〜れ!状態)。


そしてそこに割って入ったのは___。



「…………嫌がっている人に乱暴を働くのは、よくない」



___シンデレラその人であった。


暴漢は言ったん動きを止め、ギロリと声の主を睨みつけようとシンデレラの方を振り向いた。



「なんだとこのやろう!!俺は正当な…………」


「…………せいとう、な?」


「あ、ひ、あの……ナマ言ってすんませんっした!!!!!」



王子と同じく華奢と言っても良いシンデレラ。


しかし纏う雰囲気は阿修羅ですら優しいと感じる程の恐ろしいものでした。


暴漢は縮み上がり、土下座をします。


シンデレラの見た目は弱く見えますが、ドラゴンを百体一人で討伐余裕でしてきたと言わんばかりの覇気を纏っていたからです。


逆らったら殺られる、と暴漢は直感したのでした。


冷ややかに暴漢を睨みつけていた目を逸らし、王子に向き直ります。


怯えたような王子にシンデレラはそっと手を差し出しました。



「……大丈夫?」



ほぼ無表情と言って良いシンデレラの口元がほんの僅かでありますが、緩やかに微笑みました。


と、言っても真っ正面から見ていた王子しか気付かないくらいでしたが。


王子は顔を真っ赤に染めつつ、そっと手を重ねました。


これが性別が逆、もしくは立場が逆だったら、エンダーーーー!!と祝えるんですけどねぇ。



「あ、あの!!」


「……ん?」


「ぼ、僕をお嫁さんにして下さい!!!」



重ねた手をぎゅっと握りしめ、王子は高らかに告白しました。


どうしてそうなった。


シンデレラは顔に出ませんが困惑気味です。



「……私、一応女なんだけど」


「それでもかまいませんッ!!どうか結婚を前提にお付き合いして下さい!!!」


「あの……ちょっとおち「マッターーーーー!!!」



一応シンデレラは反論を試みるも、王子がぐいぐいと押して来ます。


どうしたものかと、群衆にいるはずの父君に視線を送りますが、逸らされてしまいました。


まぁ、一下っ端貴族に過ぎない父君もこんな特殊な事態に頼られても困りますよね。


なんとか宥めようとするシンデレラの台詞を遮ったのは、先ほどの暴漢です。



「そんなことよりこのやろう!俺を下僕にしてください、このやろう!!」


「は?」


「私も結婚するなら彼女みたいな人が良いわ」


「二の姫君様!?」


「あらあら、私も参加しようかしら」


「ちょ、一の姫様まで!?!?」



まぁ、なんてことでしょう。


乙女ゲーならば嬉し恥ずかしの逆ハーレム展開です。


構成要因は王族の姫様(女性)二人に王子様(男の娘)に下僕希望の暴漢(マッチョ)です。


人を選べないのは時に不幸なことですね。


助けを求めるように家族の方をシンデレラは見遣りましたが、皆明後日の方向を向いています。



「強く生きるのよ、シンデレラ」


「今程、アンタを可哀想に思った事はないわ」


「将来は安泰よ、たぶん」


「あー、父さんはオマエの幸せを願っているよ」



上から上の義姉・下の義姉・義理の母・実の父の言葉でした。


まぁ、下っ端とは言えこの国の貴族なのです。


王族からの要求を突っぱねるのは不可能です。


これも一つの運命と言えるでしょう。



「(助けて欲しいです)」



シンデレラのSOSは誰にも届かず消えました。


熾烈なる姉弟のシンデレラ争奪戦や下僕の変態化が進んだとか、まあ色々ありましたが、きっとたぶんメイビイ幸せに暮らしましたとさ。


めでたし?めでたし?



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[良い点] 奇跡も、魔法も、あるんだよコノヤロウバカヤロウ 『崩落』からこんな愉快な短編に辿り着いたぜコノヤロウ これを奇跡って言わねぇのかバカヤロウ [一言] 『顔の造形は母君に似た愛らしい物なのに…
[良い点] 面白かった! 読んでてすごく楽しかったです。童話のようなスタート、ああこう来るんだろうな、という予想をことごとく裏切られ、終始大笑いしてしまいました。 世紀末シンデレラちゃんがまじかわ…
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