2.5 水属性魔術
11/20 結縁願望、鬼身願望を追加。昨日の分も纏めて。
それが育むものものであれ、切り捨てるものであれ命に密接に関わることには変わりはない――水属性を指して、二代目"作詞家"。
結縁願望
魔術形式:概念魔術
魔術等級:10級
魔術分類:汎用鉄血魔術
必要資格:なし
必要概念:術者の魔液、糸
解説
術者の魔液を元に糸を創造する魔術。強度は、本物の糸から鬼も束で吊るせる鋼線まで自由自在。もっとも、当たり前のことだが、そこまで自由自在にするにはそれ相応の魔力や力量が必要となる。
一般的には等級からも明らかなように、人間界で言う汎用魔術の括りになる。だが、作るものがシンプルなために応用もしやすく、強度を高め鎖帷子が代わりにする者や、視認が危ういレベルまでに細めて暗殺用の武器にする者も居る。
鬼人族すら統一できていない時代に活躍したとされる、策略家ベンヤミン=アスペルマイヤーがこの魔術の愛用者として、また魔術の名付け親として有名だ。
彼は生まれつき足が不自由であり、立つことすらままならなかった。彼の両親は息子の不幸を嘆くことはあったが、それよりも命を持って生まれた幸いを喜び、息子に惜しみなく愛情を注いだ。
父親は一兵卒、母親は父親の上官の次女。決して、裕福な家庭ではなかったが、母親は出産後すぐに慣れない給仕の仕事で稼いだお金で教育を受けさせ、父親は周りの兵士や上官から聞いた戦の話を、彼に読み聞かせた。
そんな両親の教育が、現代に名を残す策略家としての基盤となったのは間違いないだろう。
ともあれ、両親に恵まれたことを彼は自覚しており、両親をなによりの誇りとしていた。それと同時に、両親に負担をかける自分の不甲斐なさが何よりも許せなかった。
その執念が、当時はまだ魔術というものが、貴族の間にしか伝わっていなかった時代であるにも関わらず、この魔術を行使させた。
いまなら何でもない、当時の貴族の子らからしても特に気を払われない魔術であったが、彼にとっては訓練しだいで手足になりうるこの魔術は可能性の塊でああった。
よっぽど心に残ったのだろう、策略家として名を挙げ、様々な魔術を習得した後も、彼はこの魔術こそ我が至高の魔術として晩年まで語っていた。
そして、今わの際に自らの妻や息子を前にして、彼はこう語ったとされる
両親との縁、友との縁、上官との縁、好敵手との縁、女神と、そしてその子らとの縁……様々な縁に恵まれて、私はここまで来れた。ゆえにこの魔術の名は――。
この先は語らずとも良いだろう。最後に蛇足となるが、彼のこの魔術を使った有名なエピソードを一つお教えしよう。
彼は自室に籠もって作戦を立案することが多かったのだが、作戦に関わる書類を常に一枚一枚バラバラにしており、妻が見かねて注意するとスルスルと書類が集まり元の束に戻ったという。
なんと、ベンヤミンは結縁願望で全ての書類を繋いだまま見ていたのだ。彼にとって、この魔術はもはや呼吸に等しく、集中をせずとも行使することができたのだろう。
魔術名 :血盟願望
魔術形式:概念魔術
魔術等級:八級
魔術分類:攻撃性鉄血魔術
必要資格:なし
必要概念:術者の魔液、指輪、鎖
解説
自分の魔液を鎖にする魔術。その数および生やす場所、長さなどは自由に変えることが可能なものの、操作は自分の意志で行うため自由に動かすにはそれなりの修練が必要となる。また、集中が途切れた際の魔力喪失のリスクが大きくなるため、一般的には数は十、長さは三十メッセが最大とされる。
この魔術の創始者とされるのは、流派としても名を残した女傑、ブリュンヒルト=ディークマン。その活躍は鬼人族だけに留まらず、鬼族の国全土の教科書にも記載されており、鬼族の国の女性ならば、一度は憧れる人物とされる。
その人気は彼女を主人公とした演劇や小説も数多く存在することからも窺い知れるだろう。
一途な女性としても知られており、この魔術も早くに亡くなった夫との絆を忘れず、またそれが永遠だと知らしめようとして作ったとされる。
ただし、終生その愛は夫に注がれていたか、と言われれば違う。残された日記など当時の文献によれば、時には新たな恋を見つけることもあったそうだ。歴史家の中には鎖は彼女が内心で亡き夫に捕らわれている感じていたと考える者も多い。
しかし、筆者としては赤い糸よりも丈夫な赤い鎖として、時には重荷と感じていたとしても、彼女は亡き夫の縁を尊び続けいたのだと思いたい。
魔術名 :剣血願望
魔術形式:概念魔術
魔術等級:7級
魔術分類:攻撃性鉄血魔術
必要資格:なし
必要概念:術者の魔液、剣
解説
術者の魔液を剣にする魔術。長剣、短剣、両手剣など剣であれば種類は問わずこの魔術で造ることが可能である。
創始者は不明。が、それは文献に残っていないという訳ではない、その逆で多すぎて特定できないのだ。文献の数だけ創始者の名前があると言っても過言ではない。
流派も同じように乱立しているため、ここでは有名な二つの名――レームブルックとグルムバッハを挙げるだけに留める。
それぞれ技のレームブルック、魔力のグルムバッハと呼ばれ、未だに年一度の各流派毎に争う血法大会では有力候補筆頭として挙げられる。
ちなみに最初期はそれぞれ初代の名前をとってオスヴァルト流、ギルベルト流とされていた。それが、時代に合わせて改良を行っていく内に、それぞれの家の流派として成立していき、いまのレームブルック流、グルムバッハ流になったとされる。
さて、その初代であるオスヴァルト=レームブルックとギルベルト=グルムバッハが、仲介人だけを交えてその優劣を付けるべく決闘したというのは有名な話だが、その結末はようとしてしれない。
仲介人もその結果を書物に残すのは無粋とし、この一文で占めている。
あの場には優も劣もなかった。ただ、弾いたコインが結果を示しただけだ、と。
ここまでだと逸話としてもよくある話なのだが、この二人はどうにも自己顕示欲が強かったらしく(まぁ、それは鬼人であれば普通なのだが)、幾つもの文献を残しており、信用に足るという物を抜粋してもなお本棚がいくつも埋まる。
その多くの文献によると、二人は晩年までその時の勝負を自分が勝ったと言い張っていたらしい。
そう、逸話における多くの決闘の決着と違い、どちらも死んでは居なかったのだ。
加えて、彼らは仲が悪かったわけではなく、むしろ互いが互いの結婚式に参加するぐらい仲が良かった。また、その妻同士も親友といえる仲だったらしい。
そんな彼らだからか、双方とも決闘前にこう語っている。以下抜粋である。
『あんな奴よりあいつの妻の方が恐ろしい、そして、その友である我が妻は更に恐ろしい。なればこそ、殺すわけにも死ぬわけにも行かない。面倒くさいものだ』
ちなみに、決闘した理由は互いに自分の子供にどっちが強いのか尋ねられたかららしい。
そんな彼らの子どもたちは、互いの父と流派を誇りに思うばかりに仲が悪く、その禍根は以降長きに渡って両家の間に続くこととなる。
槍作願望
魔術形式:概念魔術
魔術等級:7級
魔術分類:鉄血魔術
必要資格:なし
必要概念:術者の魔液、槍
解説
術者の魔液を用いて槍を作る魔術。先に述べた剣血願望と並ぶ普及率を誇る、近接用鉄血魔術である。
ただし、その流派となると一気に数が少なくなる。その理由は、この魔術ができた背景にある。
もう何百年も昔、まだ鬼族というくくりもない頃にこの魔術は出来た。いまでいう鬼族の国は、今でもそうだが頑健な肉体をした種族が多い。
だが、鬼人はその頑健な肉体がなかった。最初期は活躍した剣血願望も、時代が進むと共に他の種族も似た武器を使い始め、技術――血法を学んだ一部のもの、ハッキリと言ってしまえば主たる兵力となる平民では敵兵士を倒すことが困難になったのだ。
力の無さを剣血願望では武器と、技術と、魔力で補った鬼人だが、武器は多種族に渡り、技術を自種族全体に行き渡らせるのは不可能だった。
そこで作り出されたのがこの槍作願望である。力と技術を遠心力とリーチの差で埋めようと考えたのだ。
そう、実はこの魔術"槍"という武器を創りだした魔術でもある。今でこそやりの概念を用いているものの、当時は獣の牙や草木の棘など尖ったものと剣の概念を混ぜあわせて魔術を行使していたらしい。
その形から徐々に使いこなしやすい、シンプルな形状へと洗練されていき、ある時に"槍"と言う武器の名と概念が生まれ、いまの槍作願望の原型ができたとされる。
さて、これまでの解説の通り、そもそも技術を必要としないことを前提として作られた魔術であることに加え、道場を開くなどの余裕があるものが平民にはほとんど居なかったこと、平民の魔術として貴族が長い間この魔術を嫌ったことなどが原因でこの魔術には流派の数が少ないという訳だ。
鬼身願望
魔術形式:概念魔術
魔術等級:7級
魔術分類:攻撃性鉄血魔術
必要資格:なし
必要概念:術者の魔液、鬼
解説
術者の魔液を筋繊維に変え、鬼の剛体を再現する魔術。
あくまで再現できるのはその力と頑強さだけで、本来の鬼が持つ生命力や体力までは再現できない。
また、体を再現するにあたって、魔液で構成された肉体にも擬似的な神経が通ってるため、生身に比べれば幾分か低減されているものの痛みを感じるという、なかなか使い勝手の悪い魔術である。
ただし、その分接近戦での戦闘力は絶大で、鬼人族を統一したエーリヒ=ヴァイスマンは一芸特化の部隊を効率的に用いることでその偉業達成したとされる。
中でもこの剛体願望を含む、接近戦を得意とする遊撃部隊は彼がもっとも重用し、多くの戦の流れを変えたとされている。
……ちなみにこの魔術、実は普及の割合は男性より女性のほうが高い。性転換願望が女性のほうが強いのか、はたまた鬼人族にはまず居ない、筋肉隆々な姿に興味抱いたのか……こればかりは名だたる研究者でも解き明かせないかもしれない。