2.4 火属性魔術
11/15 "点火"と"譲温"を追加。
剣としてこれ以上に優秀なものはなく、盾としてこれ以上に欠陥を持つものはない――火とは何か問われて、初代"作詞家"。
魔術名 :点火
魔術形式:詠唱魔術
魔術等級:十級
魔術分類:汎用魔術
必要資格:なし
詠唱文 :「生まれ出ろ、摂理外の火よ点火」
解説
最も初歩的な火属性魔術。ソルティマ大陸出身者、その全てが会得していると言っても過言ではない。
それだけ普遍的な魔術でありながら、文献は近年に書かれたものばかりで、その原典は現存していない。このことからも、この魔術は歴史的に見ても、魔術が学問として確立する前の時代の"作詞家"、初代"作詞家"により作詞された可能性が高い。
余談になるが、とある歴史家はこうも述べている――初代"作詞家"は魔術を学問として、魔道として残す気はなかった――と。
その真意はともかく、この手から火を出すだけの魔術でさえ、工夫をこらせば多くの命を奪う力となり得る。
魔道を歩むものは、その事をしかと胸に刻んでおく必要があるだろう。でなければ、自分もまた魔道の火に身を包まれることになるであろうから。
魔術名 :譲温
魔術形式:詠唱魔術
魔術等級:十級
魔術分類:汎用魔術
必要資格:なし
詠唱文 :「伝われ、我が命"譲温"」
解説
点火と同じ初歩的な汎用魔術ではあるものの、その習得率は低い(それでも七割は居るが)。
これは元々、ラディーアから遠く離れた、アイゼルの山奥の村々にしか伝わっていなかったのが原因の一つでもあるのだが、最大の要因は"点火"で事足りるからである――と考えられていた。
現在ではその説は(火属性だけに)下火になりつつある。というのも、最近の研究によってこの魔術の仕組みが解き明かされたからである。
どういうことかと言うと、今まではこの魔術は"対象を温める"魔術と考えられていたが、実際には"術者から対象に熱を譲り渡す"魔術であることが解明されたからである。
魔術の名を見れば一目瞭然ではないか、そう言われる方も居るだろう。しかし、魔術師たちを責めないでいただきたい。
彼らが勘違いしていたのには一つ大きな理由がある――この魔術を使った際に術者がその影響を感じなかったのだ。より分かりやすく言えば、熱を譲渡した結果としての体温の低下、寒気を感じなかった。
結果から述べれば、体温は確かに低下していた――ただし、同時に体温の上昇を伴って。つまり、差し引きゼロ、体温は変動しないと言うわけだ。
しかし、無から有は生まれないのがこの世の道理。体温の上昇と引き換えに失っているものも当然ある。それが近年の研究によって、その実存を認められた"生命力"とも"魂"とも呼ばれる、正式な名称すら決まっていない生体の持つ未知のエネルギーである。
その詳細については別の項で述べるとして、この魔術が"点火"と比べ流行らなかった原因は、文字通り生きるための生命線であるこの力の消費を、本能的に嫌ったためとの見方が現時点では有力である。